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31.解錠開花
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手を繋いだままレリック様の部屋から黒騎士団の執務室へ入室します。
流石に手は離すと思いました。
でも、レリック様は、しっかりと手を繋いだまま、放す気配がありません。
他者から見れば、ただの仲良しカップルにしか見えないでしょう。
私達を見るなり、黒騎士団のアレク団長が、執務机に頬杖をついて呆れています。
「レリック、セシル嬢は赤騎士団で待機して貰えば良いのではないかな。」
「いや、情報は黒騎士団が最も早く集まるから、黒騎士団の執務室で待機させる。」
殿下はやっと手を放して下さいました。
「確かにね。そうだ、セシル嬢。早速なんだけど、この陣書の付箋があるページを見て欲しい。バルト副団からの依頼だよ。」
アレク団長から一冊の分厚い本を渡されました。本には所々、付箋が付いています。
「付箋があるページの陣は転移に使われる陣で、鍵を掛けられる性質がある。それらを全て解錠出来るのか、報告して欲しいって。セシル嬢の席は僕の隣に用意したから、座ってゆっくり見てくれれば良いよ。」
「分かりました。確認してみますね。」
執務机の隣に用意された私専用の席に座って、付箋のあるページを順番に捲ってみました。
ページに載っている陣には全て錠前が見えます。どれも簡単に解錠出来そうです。
「アレク団長、この付箋のページに描かれている陣の錠前ならば、簡単に解錠出来ます。」
「陣の錠前?ここには陣しか描かれていないよ。セシル嬢には錠前が見えるのかい?」
アレク団長の質問を聞いて、暫く私の様子を眺めていたレリック様が、陣書を覗き込んで来ました。
「セシル、錠前がどこに見えるのか教えてくれ。」
「このページでは、ここに。」
ページを捲りながら、錠前が見える場所を指差しました。
解錠する意思を持って触れなければ、解錠の加護は働かないので、陣書を解錠する心配はありません。
「ただの陣にしか見えない。」
「そうだね。」
陣を指差しましたが、アレク団長とレリック様には錠前が見えないようです。
「セシル嬢の加護は、錠前が見える性質があるのかな?」
「そう、みたいです。」
「みたい?セシル嬢は自分の加護を把握していないのかい?」
アレク団長に言われて困ってしまいました。
解錠なんて加護、普通の生活では、ほぼ必要ないのです。
「犯罪者に狙われないよう、加護をなるべく使わないように言われていましたので、全てを把握する程、加護を使う機会がありませんでした。自分の加護なのに、よく分からなくて申し訳ありません。任務に支障が出てしまうでしょうか。」
迷惑を掛けてしまうのではと不安になっていますと、アレク団長が気遣って下さいました。
「いや、心配する事は何も無いよ。私こそ申し訳ない。配慮が足りなかったね。確かに解錠なんて、令嬢が普段使いまくる加護ではないよね。」
顎に手を当てて、黙って私達の会話に耳を傾けていたレリック様が、口を開きました。
「騎士団で加護を使うようになって、セシル本来の能力が開花しているのかも知れない。可能性だが、解錠の加護は目に見える鍵だけではなく、見えなくても閉じている何かならば、開けられるのかもしれない。」
レリック様の考察にアレク団長が頷いています。
「だから陣にも通用すると。では、バルト副団に、セシル嬢は陣の解錠が出来ると伝えておこう。今、王都でエドの陣を探しているけれど、きっと陣に鍵を掛けているだろうから、役に立つ。」
エドと言うのは、青騎士団のエドワード団長の事でしょう。
アレク団長は早速ペンを取りました。
確か手紙のやり取りは、各執務机に描かれた陣を通して出来るのでした。
便利ですね。
「そうだ、アレク、陣を解錠すれば元には戻せない。誰でも使えるようになってしまう可能性がある。その事も一緒に伝えてくれ。」
「了解。しかし、それは困るね。鍵をかけ直さなければならないのか。出来るのかな?」
アレク団長がペンを走らせながらレリック様と話しています。
器用です。
「どうだろう。バルト副団の返事を待つしかない。それは良いとして、アレク、何故セシル専用の席が執務机の隣なんだ?」
アレク団長が私の専用席にと準備してくださった机に、レリック様が手を置いて、アレク団長を睨んでいます。
何か問題があるのでしょうか?
「近い方が護衛も出来るし、書類を渡すのも楽だし、話しやすい。何より美しい女性が傍にいるのは、目の保養になる。」
アレク団長は着席している私に、良い笑顔を向けて下さいました。
「アレク団長は女性を褒めるのが、お上手ですね。」
笑顔とは移ってしまうものです。
つられて思わず微笑んでしまいました。
でも、レリック様に微笑まれると、何故か、こんな風に自然には笑えなくなってしまいます。
「……やはりセシルは赤騎士団で待機させる。情報が入ったら直ぐに連絡してくれ。」
「え~。最初と言った事変わってない?」
「アレクも最初は赤騎士団での待機を勧めたじゃないか。」
「それは、二人でイチャイチャされたら、仕事の邪魔だと思ったからだよ。」
私とレリック様がイチャイチャ?あり得ませんね。
「任務中にそんな事するわけ無いだろう。アレクの方が何かしそうだ。」
「失礼だな。婚約者がいる相手に手は出さないよ。でも、そうだね。」
アレク団長がスッと私の手を取って見つめてきました。
大事なお話でしょうか?
「手を取って口づけする位は、挨拶の範囲だから良いよね?」
「それは挨拶、なのですか?」
騎士にとっては忠誠を誓う儀式だったような気がするのですが……。
レリック様はアレク団長の手首に軽く手刀をして、アレク団長の手が離れた隙に、私の手を掴みました。
「やはりセシルは赤騎士団で待機させる。移動だ、セシル。」
「え?はい。」
殿下に手を引かれるがまま、席を立って出口に向かいました。
私は赤騎士団に所属が変更になるのでしょうか?それとも一時的でしょうか?
背後からアレク団長の呼び掛ける声がしました。
「レリック、バルト副団から返事が来たよ。セシル嬢が陣を解錠するのを見たいから、青騎士団へ来てくれって。」
「了解した。」
どうやら赤騎士団ではなく、青騎士団の執務室へ向かうようです。
流石に手は離すと思いました。
でも、レリック様は、しっかりと手を繋いだまま、放す気配がありません。
他者から見れば、ただの仲良しカップルにしか見えないでしょう。
私達を見るなり、黒騎士団のアレク団長が、執務机に頬杖をついて呆れています。
「レリック、セシル嬢は赤騎士団で待機して貰えば良いのではないかな。」
「いや、情報は黒騎士団が最も早く集まるから、黒騎士団の執務室で待機させる。」
殿下はやっと手を放して下さいました。
「確かにね。そうだ、セシル嬢。早速なんだけど、この陣書の付箋があるページを見て欲しい。バルト副団からの依頼だよ。」
アレク団長から一冊の分厚い本を渡されました。本には所々、付箋が付いています。
「付箋があるページの陣は転移に使われる陣で、鍵を掛けられる性質がある。それらを全て解錠出来るのか、報告して欲しいって。セシル嬢の席は僕の隣に用意したから、座ってゆっくり見てくれれば良いよ。」
「分かりました。確認してみますね。」
執務机の隣に用意された私専用の席に座って、付箋のあるページを順番に捲ってみました。
ページに載っている陣には全て錠前が見えます。どれも簡単に解錠出来そうです。
「アレク団長、この付箋のページに描かれている陣の錠前ならば、簡単に解錠出来ます。」
「陣の錠前?ここには陣しか描かれていないよ。セシル嬢には錠前が見えるのかい?」
アレク団長の質問を聞いて、暫く私の様子を眺めていたレリック様が、陣書を覗き込んで来ました。
「セシル、錠前がどこに見えるのか教えてくれ。」
「このページでは、ここに。」
ページを捲りながら、錠前が見える場所を指差しました。
解錠する意思を持って触れなければ、解錠の加護は働かないので、陣書を解錠する心配はありません。
「ただの陣にしか見えない。」
「そうだね。」
陣を指差しましたが、アレク団長とレリック様には錠前が見えないようです。
「セシル嬢の加護は、錠前が見える性質があるのかな?」
「そう、みたいです。」
「みたい?セシル嬢は自分の加護を把握していないのかい?」
アレク団長に言われて困ってしまいました。
解錠なんて加護、普通の生活では、ほぼ必要ないのです。
「犯罪者に狙われないよう、加護をなるべく使わないように言われていましたので、全てを把握する程、加護を使う機会がありませんでした。自分の加護なのに、よく分からなくて申し訳ありません。任務に支障が出てしまうでしょうか。」
迷惑を掛けてしまうのではと不安になっていますと、アレク団長が気遣って下さいました。
「いや、心配する事は何も無いよ。私こそ申し訳ない。配慮が足りなかったね。確かに解錠なんて、令嬢が普段使いまくる加護ではないよね。」
顎に手を当てて、黙って私達の会話に耳を傾けていたレリック様が、口を開きました。
「騎士団で加護を使うようになって、セシル本来の能力が開花しているのかも知れない。可能性だが、解錠の加護は目に見える鍵だけではなく、見えなくても閉じている何かならば、開けられるのかもしれない。」
レリック様の考察にアレク団長が頷いています。
「だから陣にも通用すると。では、バルト副団に、セシル嬢は陣の解錠が出来ると伝えておこう。今、王都でエドの陣を探しているけれど、きっと陣に鍵を掛けているだろうから、役に立つ。」
エドと言うのは、青騎士団のエドワード団長の事でしょう。
アレク団長は早速ペンを取りました。
確か手紙のやり取りは、各執務机に描かれた陣を通して出来るのでした。
便利ですね。
「そうだ、アレク、陣を解錠すれば元には戻せない。誰でも使えるようになってしまう可能性がある。その事も一緒に伝えてくれ。」
「了解。しかし、それは困るね。鍵をかけ直さなければならないのか。出来るのかな?」
アレク団長がペンを走らせながらレリック様と話しています。
器用です。
「どうだろう。バルト副団の返事を待つしかない。それは良いとして、アレク、何故セシル専用の席が執務机の隣なんだ?」
アレク団長が私の専用席にと準備してくださった机に、レリック様が手を置いて、アレク団長を睨んでいます。
何か問題があるのでしょうか?
「近い方が護衛も出来るし、書類を渡すのも楽だし、話しやすい。何より美しい女性が傍にいるのは、目の保養になる。」
アレク団長は着席している私に、良い笑顔を向けて下さいました。
「アレク団長は女性を褒めるのが、お上手ですね。」
笑顔とは移ってしまうものです。
つられて思わず微笑んでしまいました。
でも、レリック様に微笑まれると、何故か、こんな風に自然には笑えなくなってしまいます。
「……やはりセシルは赤騎士団で待機させる。情報が入ったら直ぐに連絡してくれ。」
「え~。最初と言った事変わってない?」
「アレクも最初は赤騎士団での待機を勧めたじゃないか。」
「それは、二人でイチャイチャされたら、仕事の邪魔だと思ったからだよ。」
私とレリック様がイチャイチャ?あり得ませんね。
「任務中にそんな事するわけ無いだろう。アレクの方が何かしそうだ。」
「失礼だな。婚約者がいる相手に手は出さないよ。でも、そうだね。」
アレク団長がスッと私の手を取って見つめてきました。
大事なお話でしょうか?
「手を取って口づけする位は、挨拶の範囲だから良いよね?」
「それは挨拶、なのですか?」
騎士にとっては忠誠を誓う儀式だったような気がするのですが……。
レリック様はアレク団長の手首に軽く手刀をして、アレク団長の手が離れた隙に、私の手を掴みました。
「やはりセシルは赤騎士団で待機させる。移動だ、セシル。」
「え?はい。」
殿下に手を引かれるがまま、席を立って出口に向かいました。
私は赤騎士団に所属が変更になるのでしょうか?それとも一時的でしょうか?
背後からアレク団長の呼び掛ける声がしました。
「レリック、バルト副団から返事が来たよ。セシル嬢が陣を解錠するのを見たいから、青騎士団へ来てくれって。」
「了解した。」
どうやら赤騎士団ではなく、青騎士団の執務室へ向かうようです。
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