解錠令嬢と魔法の箱

アシコシツヨシ

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41.転移先

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「ぬぉぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 転移した瞬間、叫び声と共に、ヒト型の黒い物体が箱に吸い込まれて来ました。
 そう、幸運にもここはエド団長の個室だったのです。

 レリック様と同じ騎士棟の個室とは思えません。
 床は勿論ですが、壁や天井にまで、びっしりと陣が描かれています。
 こんな不気味な部屋に居たら精神が病みそうです。

 私達が転移した場所は、エド団長が座っていたベッドの側でしたので、転移した瞬間に箱が機能したようです。

 約二メートル近いその悪魔は、ヒト型をしていますが、蝙蝠のような羽と、頭には水牛のような角が生えています。
 その下半身は、どういう原理か分かりませんが、圧縮されたように伸びて、箱に吸われています。
 上半身はエド団長の足にしがみついて、箱に吸われまいと叫びながら、もがいている姿が、とても恐ろしいです。

 やっぱり、箱を持つ手は震えてしまいます。
 レリック様が素早く私の手を包んで、一緒に箱を支えて下さいました。

「セシル、私はエドを逃がさないよう、拘束の首輪を着ける。怖いだろうが、箱を頼めるか?」

 私にだけ聞こえる声量で、レリック様が囁きました。

 悪魔を吸引しても、レミーナ嬢の事を伝えられないまま、エド団長に逃げられてしまっては、また悪魔を召還してしまうかもしれません。
 それでは今している悪魔の吸引が無駄になってしまいます。
 吸引は二回目ですし、頼られるのは案外嬉しいものです。
 怖いけれど、今が頑張り時でしょう。

「はい。お任せ下さい。」
「よし、頼んだ。」

 レリック様が私の包んでいる手に、キュッと力を入れてから手を離すと、素早くエド団長のベッドに飛び乗りました。
 ぼんやりと床の一点を見つめて、ベッドに座っていた藍色の髪と瞳をしたエド団長は、私達が転移して来るとは思っていなかったのでしょう。
 咄嗟の出来事に反応出来なかったようです。

「なっ!レリック!?」

 ベッドに飛び乗ったレリック様は、素早くエド団長を引き倒すと、ポケットから首輪を取り出して、エド団長の首に素早く装着しました。

「ぎゃああぁぁぁぁぁぁ!」

 叫び声をあげている悪魔が、首をぐるりと人間の可動域以上に回して、私の方を向きました。
 漆黒の長い前髪から覗く、ギラギラと光る紅い瞳と目が合って、思わずビクリと肩が動きます。

「セシル、箱を落とすな!」

 レリック様に言われて、ぐっと箱を握ります。

「嫌だぁぁぁぁ~~~!!痛いぃぃぃ!!」

 悪魔にとって吸引は問題無い。そうレリック様は言っていましたが、とてもそんな風には見えません。
 箱はどんどん悪魔の体を吸い込みます。
 悪魔とはいえ、ヒト型なのです。
 それが、梟と同じ位、首が回って、瞬きもせずに、ずっと私を見詰めながら、叫び続けるのです。

 ああ、もう怖い。怖過ぎます。箱を放り出してしまいたい。
 でも、絶対に放すわけにはいきません。
 悪魔の吸引に失敗すれば、エド団長の命が悪魔に奪われてしまうかもしれないのです。
 折角レミーナ嬢の魔が祓われたのに、それはダメです。

 ちょっと涙目になりつつも、箱は落とさないよう、手に力を入れて頑張ります。
 私を見詰めたまま叫ぶ悪魔は、かなり箱に吸われて、エド団長の足からやっと手を放しました。

「ぎゃぁぁぁぁぁ………」

 箱に入る直前、急に大人しくなった悪魔が、ニヤリと嗤いかけてきました。

「……なんて、ね。」
「え?」

 シュン……と悪魔は完全に箱に吸われました。
 同時に箱の蓋が自然に閉じて、カチッと鍵が掛かる音がしました。
 どうやら終わったようです。

 あの、物凄く怖い叫びが演技だったなんて……。すっかり、騙されました。
 劇場で役者をしたら、人気が出るのではないでしょうか。

 命を刈り取る恐ろしい要求さえしなければ、悪戯好きの可愛らしい存在だと思えたのに……。
 非常に残念です。
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