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転生者と魔王
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しおりを挟む転生したせいか、ロズの中で葵として過ごした時間が遠い昔のように感じていた。
アルゲンテウスから聞く勇者の話しも、塁ではなく別人の話のように感じている。
「ルカの話しも久々で懐かしいなあ。お酒も飲みたいけど、まだ正午過ぎだしー」
子供のようにゆらゆらと揺れる、アルゲンテウスの姿は先程の威厳ある竜とは思えない。
勇者の話しを嬉々として語る様子に、二人の関係が悪くない事を物語っているようだった。
「ルカって、勇者の転生前の名前?」
「そうだよー。ルーカスが本名だけど、いつのまにかルカって呼んでた。名前なんて何でもいいなんて言ってたけどね」
「そうなんだ……。アルゲンテウスありがとう。少しでも勇者の事が知れてよかった」
気にするな、とアルゲンテウスは尾をヒラヒラと振る。しかし、思い出した様子で尾をピタリと止めた。
「ロズはこれからどうするんだい?転生して、このままじゃルカに追われる日々になってしまうよ」
「そこなんだよね……。でもせっかくの転生だから、逃げながら旅でもしたいかなー」
「何を呑気に構えているんだい。そんな悠長な事してたらすぐ捕まるよ!」
アストルムが勢いよく椅子から立ち上がると、瞳に赤い魔力を滲ませながらロズに視線を向けた。
「アタシと一緒に特訓だよ!!さあ、食後の運動に外へ出るよ」
思いがけないアストルムの言葉にティータイムは終了し、メイド達が急いで片付ける。
アルゲンテウスは「程々にね」と、諦めた様子で尾を振ってロズを見送った。
状況に追いつけないロズは、アストルムに腕を引かれ屋敷を出た草原の真ん中に放り出された。
「まだ時間はある!ロズの魔法のコントロールを身につけるよ」
「魔法のコントロール?」
「スーから聞いてるよ。ロズの魔法は粗削りで危なっかしい所があるとね。アタシはスパルタだよ!」
グサリと的を射たスリザスの見解に、ロズは視線を泳がした。
「まずは、危なっかしい魔力の力の逃し方を覚えようか。アタシに全力で魔法をぶつけな!!」
まるで少年漫画に登場する試練のように、アストルムは目視できるほどの魔力をたぎらせていた。
可憐な少女の姿が熱血するという、ちぐはぐな状況にロズは一瞬たじろいでしまう。
しかし、アストルムは構わずにロズの間合いに詰め寄ると、拳を握り寸止めで鳩尾に一撃をいれた。寸止めとはいえ、魔力を纏った拳は全身に衝撃を与えてロズを軽く吹き飛ばしてしまう。
「これが外部からの魔力の作用だよ。この一撃がまともに入れば、普通の人間なら手足が無いだろうね」
じんわりと身体を巡る温かい感覚は、大地の精霊のものだと分かる。ロズの全身に感じていた痺れが和らいでいった。
そして、アストルムの試練?は、エバーティムにいる勇者の出発の情報が入るまで連日続けられた。
アルゲンテウスの話だと、六等分に分けられた身体に宿る力を回収し、魔王討伐に挑むのだという。
「あとー。ロズに紹介したい人?がいて」
アルゲンテウスが合図をすると、竜でも開けるのに苦労する謁見の間に入る扉を、軽々と開ける人の姿が見える。
その全身が見えた時にロズは理解した。
褐色の肌に、鋭い黄金色の双眸。絹の様な髪は長く、後ろで一つに束ねられている。その背中には確かに竜の翼があり、彼もまたアルゲンテウスやアストルムと同じ竜であった。
「彼は、レフィ。同胞であり、魔王の側近だよ」
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