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第二章 メモリー&レイルート

俺と彼女の物語。 前編

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「また満点かあ、慎一郎君はやっぱり頭いいねー。」

「………。」

 テスト返しの時、隣の席の彼女…白雪七海はいつものように俺のテストを勝手に覗き見ては、そんな感想を口にする。

 だが俺は彼女の言葉にいつもと違う違和感を感じた。

「むー、どうして無視するの?」

「いや、別に。……今名前で呼んだ?」

 俺がそう聞き返すと彼女はキラキラと輝く様な、可愛らしい笑顔を浮かべる。

「そうだよ!よく気づいたねー、シンイチロー♪」

「……名前で呼ぶの止めてくんないかな。」

 名前で呼ばれるのが恥ずかしかった俺は、それを悟られないように声を低くしてそう言った。それでも彼女は笑顔を崩さずに俺に構ってくる。

「シンイチロ~、シンイチロ~♪」

「う、うるさいっ!」

 俺は恥ずかしさの余り消えてしまいたかった。でも不思議と嫌ではなかった。とんでもない矛盾だ。俺はそんなよく分からない心地よい様な気分に陥っていた。


 ……思い返せばこの時から、俺は彼女に惹かれていたんだ。






 …昼休み、給食終わりはいつも外でドッジボールをするのだが、生憎と今日は雨で外で遊ぶ児童は一人もいない。そんな日は決まって友達とトランプをするのだが、今日に限ってそいつらが全員休みというとんでもなく悪いくじを引いてしまった。

 仕方なしに俺は20分という短い休み時間を惰眠に費やすことにする。

 机というのは変な形をしているのによく眠れる。不思議なものだ。食後というのも影響しているだろうが、俺は快適な昼寝をする。

 …10分くらい経っただろうか、その時何処からか俺を呼ぶ声が聞こえる。

「……慎一郎、起きてる?」

 声で俺を起こしたのが白雪七海だと分かった。無視しようとも考えたが、俺自身暇なので“仕方なく”相手をしてやることにする。

「…………なんだよ。」

「あれ、本当に寝てた?……ごめんね、起こしちゃって。」

 俺が怠そうに顔を上げると、彼女は申し訳なさそうな表情を浮かべて謝る。

 その反応に俺は拍子抜けする。てっきりまた煩い声で俺にちょっかいをかけてくると思っていた為、逆にこちらが申し訳ない気分になる。

「いや、暇だったし。いいよ別に。」

 俺がそう言うと、彼女の顔にいつもの笑顔が戻る。

 ……やっぱり彼女の笑っている顔が俺は一番好きだ。

 いや、好きというのは別に彼女個人が好きな訳ではなく、あくまでも彼女が笑っている顔が好きなのであって、恋愛感情では………

「じゃあ一緒に話そうか!慎一郎♪」

 太陽のような笑顔。ああ、何なんだ俺は。何を言い訳なんかしていたんだ。好きだったんだ、彼女が。好きだったんだ、白雪七海が。……言い訳なんか必要無いじゃないか。

 この時始めて、俺は白雪七海が好きだったと言うことに気付いた。










 ………照りつける太陽。煩い蝉の声。そう、夏だ!夏休みだ!

 この日をどれだけ待ちわびたかは言うまでもない。夏休みが近付くにつれて上がっていくクラスのボルテージ。前日に至ってはもうレッツパーリィッッ!

 俺はもう既に夏休みの宿題は終わらせた。後はひたすら遊ぶのみだ。この休みの為に買ったゲームもある。それをクリアするのが今夏の目標。

 そして、もうひとつ…

「お邪魔しまーす。」

 やって来たのは白雪七海。そう、今夏のもうひとつの目標とは彼女との思い出をつくること。

「ごめんね、付き合ってもらって。」

「ううん、全然いいよ。私も慎一郎と遊べて楽しいし♪」

 現在の俺はそれはもう彼女にぞっこんである。ゲームをはじめ、プールや祭りの予定も入っている。勿論彼女と一緒に。

 そして祭りのラスト、花火大会。……そこで俺は彼女に告白する、…予定だ。

 その時までに彼女との距離を縮めていかなければならない。今日はその一歩目、二人で一緒にゲームだ。

「じゃあ、やろうか。このゲームは知ってる?」

「うん!私得意だよ、このゲーム!」

「え、やったことあるの!?」

 意外な答えだった。普段全くゲーム等やらない雰囲気なのに、ましてはこのゲームが得意だというほどやりこんでいる事に驚きを隠せなかった。

 いや、そうは言っているが実は対して強くないんじゃないか?それに俺だってちょっとはやってるし、別に勝てない程じゃなかろう。

「…じゃあ勝負する?」

「お、いいね。やろうか♪」




 …………結果、負けた。ぼろ負けだった。

 全く手も足も出なかった。惨敗だった。滅茶苦茶強かった。

「…つ、強い。」

「ふっふっふっ。」

 そう笑いながら、彼女は無い胸を張って得意気な顔をする。

「私に勝とうなんて、100年早いよ、慎一郎。」

「くそー!」


 ……俺にこの夏、新たな目標が出来た。強敵、白雪七海にこのゲームで勝つことだ。

 この夏は絶対有意義な物にするぞと、俺は決意を胸に、彼女とゲームに勤しむのであった。




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