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第四章 ファーストプレイ:デットエンド
ヒロイン
しおりを挟む「……こんなところに居たのか、レイ」
「……zzz」
「……全く、風邪引くだろ、屋外で毛布も無しに寝てたら」
夜中の肌寒い風にさらされる彼女、レイは路地裏、薪を焚いたその側で、寝息をたてながら丸くなっていた。
「……本当にコイツは不思議ちゃんだな。売女の分際で王に逆らって、反逆罪で追われ、どうやったかは知らないが一人で中央の国まで逃げてきて、挙げ句の果てに一夜を共にするパートナーまで作りやがって。コミュ症の癖に」
寝ているレイに愚痴を溢す。その隣には顔は良く見えないものの雰囲気等から察するに男であろう人物が眠っている。
コイツも隅に置けないな。王に歯向かった時も思ったが、行動力が半端じゃない。まあこの男もしかしたら財布や食料源としか思ってないかも知れないが。
「だが、取り敢えず……」
私、ユキはレイが目を覚まさないよう、慎重に彼女を抱えあげる。
「お前を拐っていく」
※
……目が覚めると、いつも通りの光景が広がっていた。
閑静な住宅、寂れた商店街、静寂と青が広がる大海原。
……そこに“彼女”の姿は無かった。名前も素性も分からないけれど、蒼空のように澄んだ髪の色と、太陽のように明るい笑顔が印象的で脳裏から離れない。“彼女”はここには居なかった。
「……やっぱりそう上手くはいかないんだなぁ」
今思えば随分とふてぶてしい事だ。彼女が俺にとっての“ヒロイン”、運命の人だと思っていたなんて。
……こんな俺が、幸せになんてなれる訳が無いのに。
まあ、とにもかくにも、彼女は居ないという事実は不変だ。過去の事は水に流さねば足枷となって前へは進めない。彼女の事は忘れよう。俺の運命の人は君では無かった。君の運命の人も俺では無いのだろう。
ただ一つ、確かな事があるとするのならば、
「君は綺麗で、美しい。俺とは釣り合わないほどに……」
※
「……私、貴方の事を心から愛しています。……あの時、あの場所で、港町の路地裏で初めて出会った時から」
……レイさんが語った事の顛末は、俺からしても随分と馴染みの深いものだった。まさかあの空色髪の美少女の正体がレイさんだったなんて……
「……まあ、分かってたんですけどね」
「え?」
レイさんは普段の雰囲気からは想像も出来ないようなすっとんきょうな声を出す。
「……お風呂場で、良くは聞き取れなかったんですけど真実の愛がどうのこうの言っているのは聞こえたので、告白をされるであろう事は何となく察していました」
「あ、あれを聞かれていたのですか。随分と恥ずかしいですね……」
レイさんは頬を赤く染めて顔を隠す。その仕草すらも色っぽい。
「……それと港町で出会ったフードの女性がレイさんだった事も。それに関しては後から気付いたのですが」
俺が彼女の正体に気付いた経緯としては、カナ様に救出された後、この世界がガガガ戦記の物と知ってからの事で、思い返せばあの少女は空色髪の美少女、北の国の側近レイと酷似しているなあと思ったのがきっかけである。
「……そうですか、全て知っていたのですね」
レイさんは感情の読めない表情でそう呟く。しかし何となく物悲しげな、寂しそうな雰囲気を俺は感じ取っていた。
「……ならば、あの日私が急に消えたことも……」
レイさんは小さな声で言葉を吐き、俯く。しかし直ぐに顔をあげて言い放った。
「……チロさん。全て知っている貴方に質問です。貴方は私の愛を受け取ってくれますか?……返事は今頂けると嬉しいのですが……」
レイさんは不安そうに、上目遣いでこちらを見る。
……レイさんの告白に対する俺の答えは……
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