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第一章 転生生活編

5話 修行

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 魔王ジルに魔法を教えてもらうことになった日からいつもの丘で魔王ジルと魔法の特訓が始まった。

 まず最初に始めたのは、全ての魔法を無詠唱で行えるようにすることだった、この世界においてやはり魔法の無詠唱は高等技術の部類になるらしく、とても難易度が高いらしい。

 普通は皆詠唱から魔法を発動させるらしいがそれだと戦闘において遅れをとる可能性があるので無詠唱でできるようにと魔王ジルからの教えだった。

 魔王ジルはいつもイメージだの魔力を感じろだの何度も同じことを繰り返し言言ってきた、魔王ジルには実体がないので言葉によるレクチャーのみだ、それが相まって俺はなかなか無詠唱で魔法を発動させることが出来なかった、しかし俺はそれでも必死に頑張った。

(違うもっとこう魔力の流れを意識しろ)
「こうですか!」

 俺は試行錯誤して色々試すが、それでもなかなか上手くいかないやはり高等技術というだけあってそう簡単には行かないみたいだ。

(違う、もっと自然体に)
「難しすぎますよ」

 俺は何度心が折れそうになったことか、しかし二度目の人生で後悔はしたくないし、そもそもこれは自分の身を守るために必要なことだ、ここで折れるわけには行かない、そして半年の月日が流れやっとのことで無詠唱魔法を行えるようになった。

「やりましたよ師匠! 無詠唱です!」
(おう!やっとか! かなり時間が掛かったな、まあまだガキのお前ならこんなもんか!)
「師匠、ありがとうございます」

 俺はやっとの事で無詠唱を成功させることが出来た、いや我ながら本当によく頑張った、それ故に達成感が凄い、初めて味わう感覚だ。

(礼はいい、これで次の修行に入れるな!)

 そして魔王ジルはそう言って、次の修行に入るぞと、最初に言っていたとうりかなりスパルタだ、そして次の修行は無詠唱から術の威力や操作を正確にできる様に訓練するみたいだ、なに次はコントロール系か、しかしそんなことをしてなんの意味があるのだろうか、俺はてっきりもう中級、上級を習えると思っていたのに・・・・・・。

「師匠!まだ初級なんですか、もう中級、上級を習ってもいいのでは?」

 俺は早く、中級、上級を習いたくて魔王ジルにそう言った、というのも中級上級魔法がどんなものか見てみたいという好奇心が大きかったからだ、しかし魔王ジルはそんな俺の話を聞いて少し怒りながら。

(馬鹿野郎! こういうのはな、最初の基礎が肝心なんだよ! だからお前にはまだ中級、上級は早い!)

 なるほどな、確かに基礎は肝心だ、魔王ジルの言っていることは一理ある、教え方はぶっきらぼうだが案外ちゃんと考えてくれているんだな。

 やっぱりこの人いい人じゃないか、ここは魔王ジルの言うことを素直に受け止めて聞いていた方がいいだろう、何事も基礎が肝心だと言うし。

 そして俺は内心早く中級、上級を習いたい気持ちを抑え魔王ジルの言うことに従って魔法のコントロールの訓練を始めた、この時コントロールぐらいスグに慣れるだろうと思っていたがそれは大きな間違いでここからが更に難しかった、術は簡単に発動させることが出来るのだが魔力のコントロールが上手くいかない。

 魔力の流れをなかなか掴めないのだ、それほどまでに魔法のコントロールは難しかった、それから俺は必死になって毎日初級魔術のコントロールに取り組んだ。

(ダメだ、もっと集中しろ)
「は、はい」

 これまた何度心が折れそうになったことか、しかし俺はまた超頑張った、こうして修行しているうちに月日は流れ三年が経った。

 俺は九歳になっていた、最初のうちは全然魔法のコントロールがダメダメだったが、今では完璧に初級魔術のコントロールができるようになっている、自由自在だ、そりゃ三年もひたすら修行したらこれぐらい出来て当然のことだが。

 そして遂に俺は念願の中級、上級魔術を教えてもらえることになった、いや本当に長い道のりだった今までの苦労がついに報われる時が来た。

「師匠やっとここまで来ましたね! 早く中級、上級魔術教えてください!」

 そう言うと魔王は珍しく褒めてくれた。

(あぁ! 今までよく頑張ったな、今から中級、上級魔術を教えてやる!)

 そう言って俺の頭の中でいくつかの魔法のイメージを見せてくれた、そんなことも出来るのかと俺は感心した。

 まず最初に火系の中級魔法 業火インフェルノ ファイア、次に水系のシャワースプラ、その次に風系のエアサイクロン、そして土系の砂石サンドストーン次々に様々な魔法のイメージが俺の頭の中へ流れてくる。

 俺は驚きと興奮に包まれた、だって凄かったから、それは初級魔法とは比べ物にならないぐらい、そしてついに俺はその教えて貰った魔法を発動させた。

 中級魔法はそれほど難しくなくすべて一発で発動させることができた、これには自分でも驚いた、どうやら今までの修行の成果が身を結んだみたいだ。

 そして次に俺は上級魔法を発動させた、やはり上級というだけあってこれには多少苦戦したものの何とか発動させることができた。

 ついに俺は中級魔法それに上級魔法まで習得することが出来た。

(それだけできれば十分だろう。 まあ俺様の素晴らしい指導のおかげだがな!)

 そう言って魔王ジルは笑っていた、たぶんふんぞり反ってドヤ顔でもしているのだろう、しかしここまで来れたのは紛れもなく魔王ジルのおかげだここは素直に感謝しておこう。

「そうですね、師匠のおかげです! ありがとうございました!
  あとこのまま混合魔術も教えてほしいのですが!」

 次に俺はそう切り出した、前世の知識にある空想の魔法の世界でよくでてくるやつだ二つの魔法を組み合わせ強力な一つの魔術として使うあれだ、当然ここは魔法が使えるのでこの世界にも存在していると思っていたのだが、魔王ジルから帰ってきたのは意外な返事だった。

(混合魔術? なんだそれ? そんなもんねーぞ!)
「えっ? ないんですか! 二つの魔術を組み合わせてより強力な術を発動させるんですよ!」 

 俺が魔王にそう説明すると魔王は少し考え込んでからこう言った。

(俺はそんなのやったこともないし見たこともない だから教えられん。だがその考えは面白れぇな! やってみろよ!)

 無いのか・・・・・・ やはり空想上の世界の話だったか、てっきり存在するものだと思っていたんだが、しかし魔王ジルはそれをやってみろと、魔王も知らないのに出来るのか。

 まあでも一応やってみる価値はあるもし成功すれば、この世界で新しい魔法が生まれたことになるその生みの親だ、それって結構すごいことなんじゃないか。

「師匠もしらないんですか・・・・・・ わかりましたできるかどうかわかりませんがやってみます!」

 まず俺は左手に魔力を込め火系の上級魔術を無詠唱で発動させ、そして次に右手に風系の上級魔術は発動させた、そしてその二つを重ね合わせるように術を放った。

 すると体の中から手先に大量の魔力が流れていくのを感じる、これはやばいと思ったが時すでに遅く止めるすべもなく術が放たれた。

 術は目の前の木々を吹っ飛ばしている、やったぞ成功だ、しかしできるとは思わなかったな、案外チャレンジしてみるものだ、それにしてもこの術これは凄まじい威力だな安易に使ったら行けないだろう。

「ハァ、ハァ、で、できましたけどこれは・・・・・・」
(できたな・・・・・・ しかも凄まじい威力だ、これが混合魔術か? とんでもない代物だな、昔戦ったことがある竜が使ってきた技に似ているが・・・・・・ でなんていう名前の魔術なんだ?)

 確かに凄まじい威力だ、辺りの木々を吹っ飛ばしている、これは使う時と場所を考えねば、逆にかなりの被害を出してまうかもしれない、そして魔王ジルはこの魔法の名前を聞いてきた、俺は術の威力に驚いていて名前なんて考えてもいなかったが魔王ジルが竜と言う単語を口にしていたのを聞いてとっさにこう答えた。

「名前ですか? う~ん 竜の息吹ドラゴンブレス とかですかね・・・・・・」

 そういって厨二病全開の名前を口にしてしまった、そう言うと魔王は竜の息吹ドラゴンブレス かいいなと言っている。

 まさかこんな厨二病全開のセンスの欠片もない名前がうけるとは思いもしなかった、しかしよくよく考えてみれば魔法の詠唱も術名も厨二病チックな奴が多い、なのでこの世界ではそれが普通なのだろう、特段気にすることもないのかもしれない、こうして俺はこの世界で初めてかはわからないが、混合魔術を成功させた、そして着実に魔法の実力を付けていった。

 翌日俺は村のはずれの森に来ている、なんでこんなとこにいるのかというといつも使っている丘が使えなくなったのだ、なぜ使えなくなったのかはあの混合魔術を使った日まで遡る。

 あの日俺は竜の息吹ドラゴンブレスを使用してその威力に戦慄していた、木々が根元近くから吹っ飛び残りかすが燃えている、そして地面はえぐれ地中が少しあらわになっている。

 俺は急いで水系の魔法を使い消火活動を行った、そして人が来る前に急いで逃げ帰るよう家に戻った、家に帰りつき自分の部屋に戻ってベットに腰を掛け一息つき、あの術を思い出して内心やっちまったなと考えつつ少し眠りについた、そして眠りから覚めると夕方になっていた、下の階から俺を呼ぶ母の声が聞こえる。

「ルーク! お父さんが帰ってきたから夕飯にしましょう!」
「はーい母さん! 今行きます」

 そういって俺は二階から一階のリビングに降りた、テーブルには夕飯が並べられておりもう父も母も席についている。

 そして俺は一番最後にテーブルにつき家族みんなで夕飯を食べ始めたこの家では家族全員が揃ってから夕飯をとるのが暗黙のルールみたいだ、まあ皆で食べた方が美味しいからいいんだけど、その時ふと気が付いたのだが今日の父はいつもと雰囲気が違って見える、いつもならもう少し元気でおしゃべりなのだが今日は黙っている、なんだか疲れ切っている感じだ俺はそんな父の様子が気になり。

「父さん、今日はお疲れのようですね、大丈夫ですか?」
「あぁ、今日は大変だったからな」
「あなた、なにかあったの?」
「あぁ実はな、今日村の見回り中に村の連中から報告があってな、丘の近くで大きな爆発音を聞いたらしく、その調査に行ったんだ、そしたら木々が吹っ飛ばされているのを見つけてな、魔物の仕業のようで見回りが広範囲に増えたんだよ」

 俺は心当たりがありすぎてやばいと思った、なんせそれは魔物のせいじゃなくて俺の魔法のせいだからだ。

 しかしここで父さんそれは俺のせいで魔物なんかいませんよ大丈夫ですとは言えない、息子がというかまだ父と母は俺が上級魔法を使えることすら知らない、俺は誤魔化すように。

「そうなんですね魔物ですか・・・・・・ 怖いですね」
「あぁ、だからルーク今後はあんまりあの丘の近くに行くんじゃないぞ」

 そう父に言われた、俺は素直にその言葉を受け止めた、別に俺の仕業なので行ってもいいのだが、後後それがバレて怒られるのが面倒だからだ。

 なので今日はいつもの丘じゃなく村から少し外れた森に来ている、父と母は森の奥には魔物が出るので行ったらだめと言っていたが手前ぐらいならいいだろうと勝手に判断し、そこで魔法の鍛錬を始めた一応まだ上級魔法のコントロールが不安定なのでそれを完璧にするために修行は続けていたのだ、そして俺がそれを修行をしていると魔王ジルが急に話しかけてきた。

(魔物と人の気配がするぞ! 気を付けろ!)

 そう言われてあたりを見回したが俺にはそんな気配は感じ取れなかった、どうやら目視では確認出来ないなので俺は。

「師匠、誰もいませんが気のせいでは?」
(いや気のせいなんかじゃねぇ! 確かに感じる!)
「ほんとですか? ならちょっと奥まで行ってみますね!」
(行くのかよ! まぁいい、どんな奴かわかんねぇから慎重にいけよ!)

 俺はいざとなったら魔法ぶっぱなしながら逃げればいいかとそんな呑気な考えで奥えと進んだ、そして魔王ジルに言われた通り一応細心の注意を払いながら慎重に森の奥へと入って行った。

 すると近くから音が聞こえてきたどうやらこの先に誰かいるらしい、そして進むにつれ音はだんだん大きくなりとうとうその音がする場所まで辿り着いた。

 そこでは騎士風の男と魔物らしき生物が戦っていた、魔物はアリを人間より少し大きくしたみたいなやつで、口についている牙を使い男に攻撃を仕掛けていた、男はそれを剣で受け流しながら辛うじて防いでいる、見るからに男の方が劣勢だ、というか男は後ろの茂みを気にしているようで動きが鈍く見える。

「師匠どうすればいいんでしょうか?」
(どうするも何も助けろよ! あいつあのままだとやられちまうぞ!)
「しかしあの魔物強そうですし・・・・・・ 僕が加勢しても足手まといになれるだけでは?」
(大丈夫だ!お前には俺が教えた魔術がある! いいから今から俺が言うとうりにしろ!)

 そんな事を言われてもな、俺は魔物を見るのも初めてで、しかもそれがあんなにでかいヤツだとは、正直気持ち悪い。

 でも騎士風の男が必死に戦っている、これを見捨てるわけには行かない、幸い俺は上級魔法まで使える、そして魔王ジルがついている彼の言うとうりにすれば何とかなるんじゃないか、そう思い俺は魔王ジルの指示を仰いだ。

(あの魔物はマンクラ―と言って外殻が固い殻で覆われてる、だからあの剣で倒すのは無理だ、ましてやあの感じだと到底勝てるとは思えない、だからお前の使える最大限の威力を込めた火系の魔術をぶち込んでやれ、幸いマンクラーは火に弱い外殻ごと吹き飛ばしてやれ!)

 そう言われたが果たして俺に出来るだろうか、あのマンクラーという魔物はデカくて強そうなのに、今一歩が中々踏み出せない。

 そうしているうちについに魔物の牙の攻撃によって騎士風の男の剣が弾かれたこれはやばいと思い俺はこんなとこで考え込んでもしょうがないと覚悟を決めた、なるように身を任せると心に決めて、そして俺は茂みから飛び出し何も考えず全力で火系の魔法を放った。

「業火《インフェルノ》ファイア」

 ドゴーンという音とともに目の前にいたマンクラ―が木っ端微塵に吹き飛んだ、あれ勝てた・・・・・・ 意外と楽勝だった。

 もしかして威力を高めすぎたか、いや勝てたからそんなことはどうでもいい、そして俺は騎士風の男のことを思い出した、やばい今ので巻き込んでないかと。

 すかさず騎士風の男を探す、そして爆散したマンクラーの影から騎士風の男が物凄く驚いて呆気にとられたでこちらを見ていた、どうやら巻き込んではなかったみたいだ、取り敢えずこれで一安心。

「大丈夫ですか? 怪我とかないですか?」

 そう俺が騎士風の男に 声をかけると騎士風の男は我に返ったようで。

「あぁ大丈夫だ! 助かったよ少年、危ないところだった! ありがとう、陛下魔物はこの少年が倒してくれましたのでもう出てきて大丈夫ですよ」

 すると先ほどまで男が気にしていた茂みから一人の少女が出てきた、金髪のツインテールつり目で歳は俺より3,4歳ぐらい上だろうか見るからに気が強そうだ。

「こんなあたしより子供なやつがあんな魔術を使うなんて・・・・・・
  まあいいわ! ルシウスを助けてくれたことには感謝するわ!」

 ああ思った通りの反応だまあ気にしてもしょうがない。

「陛下この少年は私達の命の恩人です、そのような言い方は・・・・・・」

 そう言われると少女はふてくされる様にそっぽを向いた。

「すまない陛下もあんな態度だが感謝はしてるので容赦してほしい君の力を見込んで頼みがある君の村があるところまでまで案内してくれないか?」

 ルシウスと呼ばれている男はそう俺に頼み込んできた、これまた面倒なことに巻き込まれたなと直感で俺は感じた、しかし一人では判断しきれないので、どうしようか迷って一応魔王ジルに相談した。

(師匠どう思います? いいですかね?)
(まあいいんじゃね? 連れてってやれよ、そいつらも大分疲弊してるみたいだしな特に男の方が)


 魔王ジルは彼等を連れて行ってやれと、そしてルシウスと呼ばれていた男の方はかなり疲弊しているらしい、まあそれは俺が見た感じでも分かる、俺はルシウスと呼ばれる男の提案を快諾し家まで連れ帰ることにした。

「いいですよ! 僕の後についてきてくださいね!」
「ありがとう、助かるよ」
「いえいえ! 当然のことをしたまでですよ」

 しかし魔術を習っていて良かったあんな強そうな魔物も一発で倒せたし修行の成果が出たんだろう、そして魔王ジルにも感謝だここまで魔法を教えてくれた、なにより俺ひとりじゃあの魔物はどうにも出来なかっただろう、やはり魔王の存在は大きいな、俺はそんなことを考えながら二人を村まで案内した。
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