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第五章
記憶の欠片
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門桜が部屋を出て行ってから、ソファに身を預けるように、体を投げ出すと天井を見上げる。かち、かち、と針が時を刻む音だけが、部屋の静寂を崩す。
「不知夜は、あの場所にいたのか……」
ぽつ、と呟く。
シシィの言葉に、苛立ち否定した。それは、脳裏に移った映像からか、この胸の中に渦巻く感情からか。
龍が襲った城。
壊滅した瓦礫の下へ、首を巡らせる龍。
暗闇の中、大きな振動に目を開く男。
(そういえば、何度も天井を見ていたな)
ふっと目を閉じると、暗闇の中の無機質な天井が、頭を掠める。ゆっくりと目を開き、瞬けば、眼に映るのは、梁のむき出しになった天井。
木目をなぞるように、目を滑らせ再び目を閉じた。
「諦めない……」
ひんやりとした地下牢。訪れる足音。金属の擦れ合う音。響く自分の悲鳴。感覚のない手足。罵声。立ち去る音。そして訪れる、耳がおかしくなる程の静寂。静寂のなか唯一の音は、次第に弱ってくる己の呼吸。
(上に……上に出る隙を探さなくちゃいけない……絶対に死んでなるものか)
ふっと、意識が薄れかけるたびに、頭の中で己を鼓舞する。潰れたように、うまく呼吸できない肺を無理やり動かし、ゆっくり静かに少しでも、体へ酸素を流すように息を吸う。新しい空気を吸うために、肺の中の空気を、ゆっくりと吐き出す。空気を迎え入れようと、口を開く。
どん、爆音とともに、地が唸りを上げ、部屋が大きく揺れる。倒れていたことで、部屋の揺れが体へ、大きく響く。
「っが……うぐぅ」
呼吸を乱された苦しさと、響いた痛みに呻いていると、ぱら、ぱらと天井から石片が降ってくる。
「な……に」
こひゅっと、がさがさに掠れた言葉が漏れる。叫び続けて、切れた喉はその小さな音の響きすら、痛みに変わり喉を焼いた。
再び、大きな音と地響き。咆哮のような、呼び叫ぶ音が聞こえる。
(母様だ)
光も届かない、地下に閉じ込められ重厚な扉が、塞ぐ部屋では何を叫んでいるかまでは分からない。それでも確かに、遠くから聞こえる声は、会いたいと願ってやまない母の声だった。
助けに来てくれたのだと、安堵に口の端を綻ばせる。同時に、あれらの狙いどうりに、自分が餌となってしまった事に、唇を噛みしめる。
(奴らに、母様を討つ理由を与えてしまった…)
「これを餌にあれを焚きつけてやれば、我々はようやく龍の力を手に入れられる」
手の中で緑の瞳を持つ眼球を転がしながら、暗闇の中でも美しく煌めく金の髪を揺らして笑う女。歪む蒼い目が、右目を奪われた痛みに、過呼吸を起こす己を映す。
焼けるように痛む目を押さえる事も、過呼吸で苦しい胸を掻き毟る事もできない。両の手足は椅子に縛られているのか、力も入らず、動く気配はない。
だらだらと、頬を伝う熱い血が、その手の中にある眼球が、己のものなのだと物語った。
ここに連れてこられて、暫くはどう生き延びた。誰に匿われていた、と問われた。
沈黙を貫けば、爪を剥がされ、指を折られた。腕に打たれた杭、熱された鉄を当てられる。死なない程度に、災厄が生き延びたすべを聞き出そうとする。
隙を見て、激痛に呻きながらも暴れれば、この場所に連れてこられた。
そして、片目をもがれ、女はどこで知ったのか龍を呼び出す餌に、己の目を使うといった。そのあたりから、ずっと手足の感覚が無い。時々現れる女たちは、己の利用価値を餌としてからは、質問無く殴り、蹴る。頭を掴まれて、持ち上げられれば、醜いものを見るように蔑まれ、その顔に熱した鉄を当てられた。肉の焼ける音と、喉が切れてまともに出ない声から紡がれる、呼気の漏れる音。鼻に付く焼けた嫌な臭い。ろくな食事も与えられず、体力の回復もままならない。
生きていることが不思議だった。自分でも、不思議なほど意識はあった。ひたすらに、死なない。死にたくは無い。死に場所はあの山で有りたい。
ここで死ねばきっと帰れない、その思いだけで意識を保っていたのかもしれない。
何としても、帰らなければあの山に、寂しがりで心配性な母の元に、生きて帰らなければならなかった。
ぼうっと、働かない頭で天井を見上げる。ここは頑丈なのか、それとも踏み潰すことのできないほど、地下深いのか、パラパラと振動の度に、石片がぱらつく程度。時々名を呼ぶ龍の咆哮。
(そうだ、あれは俺の名前だ)
不知夜、幾度となく聞こえる龍の咆哮が、ようやく意味をなし、言葉に変わる。
「母様……ここに、ここに居る……」
届くとも思ってない、なも呼ばれない長い拷問の中、忘れかけていた自分の名前。それを呼んでくれた声に、ただ答えたかった。
奴らの思惑通り、餌となり母を呼び寄せてしまった。俺が弱かったから。俺が捕まってしまったから。薄靄のかかったような思考が、途端に動き出す。女の言葉を思い出した。
否、ようやく理解した。
「母様……早く、逃げて」
奴らは龍を手に入れるといった。ならばきっと、母を倒す手段があるという事。
手足の感覚がない。それでも腕を上げ、天井へ掌をむけようとする。二の腕が途中で切り落とされ、その先に何もない。「あぁ、もう助からない」と悟る。無事な視界が歪む。もう枯れたと思っていた涙は、まだ残っていたらしい。手足の感覚はないのではない、もう存在していないのだ。足はどうだろう、腕がないのならきっとないのか。そんな事を考えながらゆっくりと息を吐く。
(こんな事なら、さっさと諦めておけば良かった……生に固着したから、母様は俺を助けにきたんだ)
奪われたあの眼が、母の事線に触れたのだろう。きっと俺がまだ、必死に生きようとしているのを、感じたから助けにきたんだ。そうでなければ、あの思慮深い穏やかな龍が、こんな事はしない。
俺が生きていたから、そう思えば思うほど悔しくなる。どうしてこうなってしまったのか、どうして己はこんな目に会わなければならなかったのか。俺が何をしたというのか。どうして、ばかりが浮かぶ。
ただ、母の山を守り、静かに生を全うしたかった。
肉体亡き後、門桜が訪れるのを、静かに、ただ静かに、母様たちを見守りながら待ちたかった。
静穏な、時間を過ごしたかった。
叶わない望みばかりが浮かぶ。悔しくて、苦しくて、溢れ出した涙は止まらない。呼吸ができなくなる。
(母様を巻き込んで、俺は死ぬのか……俺のせいで)
母の元に帰る為にと、耐えてきた事が、今こうして母を巻き込み、危険に晒した。
母の為と言いながら、結局は自分の為だ。浅はかな自分の行動が、この結果を招いた。
「目を開けて」
呼吸の難しさから視界が暗くなる。不意に耳の奥で、凛とした柔らかい声が響く。母の声に似ている気がした。
閉じかけた目を開くと、自分を覗き込む真っ白な少女。誰だ、あの女にも似ている。けれど、それよりも、人の姿になった時の、母にも似ている気がする。
「神座を、月と太陽を渡してはいけない」
少女が何やら呟く。けれども、一度生きる気力を失った、不知夜の耳には届かない。
少女が手を振るうと、体が軽くなったように感じた。体を支配していた、痛みが薄まる。次第に、天井が近づき意識が遠のく。
「龍よ、その怒りを鎮め、帰り給へ。貴女の宝はここにある。どうか愚かな人間を捨て、山へ戻れ」
遠く、再び少女の声が響いた。響く音の度、喉だけが焼けるように、じくじくと痛んだ。
ふっと、目を開く。静かな部屋に、かち、かち、と規則正しい、時計の音が響く。
耳の奥まで、心臓が移動したように、鼓動がうるさい。はっはと荒い呼吸をすれば、どっと溢れた汗を拭う。
「今……のは、夢……か?」
うな垂れるように、体を前に倒して顔を覆う。寝ていたのか、どれだけ経ったのか、首を巡らせて壁の時計を見る。針は、それ程進んではいなかった。
(今のは、不知夜の最期……か?それにしても、あの少女は、どこかで会ったような……)
うぅんと眉を寄せる。どこで会っただろうか、思い出そうと首をひねる。
「それより、この話……門桜にしておいた方がいいか」
また、泣かせてしまうだろうか。多分、先日思い出した内容よりも痛そうだ、と考えながら、腕を組む。じくと、喉が痛んだように感じ、違和感に眉を寄せると、喉をさする。
「声、別に普通だよな……あんな夢見たからか?」
最期に残っていたのは、耳に残る、水面を撥ねる水滴の様に凛とした、涼やかな女性の声。あの声は、自分の口から出たのではないか。最期だけははっきりと耳に届いた。確かに鼓膜を震わせた。
「いや、そんな声は出せんよな。自分の声すら、掠れてまともに出なかったんだし……なら、あの時母様を退けさせた人間がいるのか?」
それは聞いた方がいいのか、もしかしたら門桜たちの知り合いかもしれない。その人が瀕死の自分を、龍に返してくれたのでは無いだろうかと考える。
「そうだな、門桜にそれくらいなら、聞いてもいいか……」
心優しい門桜の顔が、悲しげに歪む姿な簡単に思い浮かんでしまう。あの顔は、あまりさせたいものでも無いと、苦笑いを浮かべると立ち上がった。
(まずは、壬生にでも話してみようか、それで、話していい内容を判断してもらおう)
自分がなんともなくても、門桜が悲しげな顔をする事もある。あの時、顔を引きつらせてはいたが、気にしてはいなさそうだった。
彼なら、門桜が悲しむ感情を理解できる。どこまで話していいか、判断してもらおう。
部屋を出ると、しんと静まりかえり特に人の気配がない。首をひねると、慣れた部屋の間取りをなぞるように、歩く。
裏へ続く廊下へ出ると、奥から話し声が聞こえた。
「不知夜は、あの場所にいたのか……」
ぽつ、と呟く。
シシィの言葉に、苛立ち否定した。それは、脳裏に移った映像からか、この胸の中に渦巻く感情からか。
龍が襲った城。
壊滅した瓦礫の下へ、首を巡らせる龍。
暗闇の中、大きな振動に目を開く男。
(そういえば、何度も天井を見ていたな)
ふっと目を閉じると、暗闇の中の無機質な天井が、頭を掠める。ゆっくりと目を開き、瞬けば、眼に映るのは、梁のむき出しになった天井。
木目をなぞるように、目を滑らせ再び目を閉じた。
「諦めない……」
ひんやりとした地下牢。訪れる足音。金属の擦れ合う音。響く自分の悲鳴。感覚のない手足。罵声。立ち去る音。そして訪れる、耳がおかしくなる程の静寂。静寂のなか唯一の音は、次第に弱ってくる己の呼吸。
(上に……上に出る隙を探さなくちゃいけない……絶対に死んでなるものか)
ふっと、意識が薄れかけるたびに、頭の中で己を鼓舞する。潰れたように、うまく呼吸できない肺を無理やり動かし、ゆっくり静かに少しでも、体へ酸素を流すように息を吸う。新しい空気を吸うために、肺の中の空気を、ゆっくりと吐き出す。空気を迎え入れようと、口を開く。
どん、爆音とともに、地が唸りを上げ、部屋が大きく揺れる。倒れていたことで、部屋の揺れが体へ、大きく響く。
「っが……うぐぅ」
呼吸を乱された苦しさと、響いた痛みに呻いていると、ぱら、ぱらと天井から石片が降ってくる。
「な……に」
こひゅっと、がさがさに掠れた言葉が漏れる。叫び続けて、切れた喉はその小さな音の響きすら、痛みに変わり喉を焼いた。
再び、大きな音と地響き。咆哮のような、呼び叫ぶ音が聞こえる。
(母様だ)
光も届かない、地下に閉じ込められ重厚な扉が、塞ぐ部屋では何を叫んでいるかまでは分からない。それでも確かに、遠くから聞こえる声は、会いたいと願ってやまない母の声だった。
助けに来てくれたのだと、安堵に口の端を綻ばせる。同時に、あれらの狙いどうりに、自分が餌となってしまった事に、唇を噛みしめる。
(奴らに、母様を討つ理由を与えてしまった…)
「これを餌にあれを焚きつけてやれば、我々はようやく龍の力を手に入れられる」
手の中で緑の瞳を持つ眼球を転がしながら、暗闇の中でも美しく煌めく金の髪を揺らして笑う女。歪む蒼い目が、右目を奪われた痛みに、過呼吸を起こす己を映す。
焼けるように痛む目を押さえる事も、過呼吸で苦しい胸を掻き毟る事もできない。両の手足は椅子に縛られているのか、力も入らず、動く気配はない。
だらだらと、頬を伝う熱い血が、その手の中にある眼球が、己のものなのだと物語った。
ここに連れてこられて、暫くはどう生き延びた。誰に匿われていた、と問われた。
沈黙を貫けば、爪を剥がされ、指を折られた。腕に打たれた杭、熱された鉄を当てられる。死なない程度に、災厄が生き延びたすべを聞き出そうとする。
隙を見て、激痛に呻きながらも暴れれば、この場所に連れてこられた。
そして、片目をもがれ、女はどこで知ったのか龍を呼び出す餌に、己の目を使うといった。そのあたりから、ずっと手足の感覚が無い。時々現れる女たちは、己の利用価値を餌としてからは、質問無く殴り、蹴る。頭を掴まれて、持ち上げられれば、醜いものを見るように蔑まれ、その顔に熱した鉄を当てられた。肉の焼ける音と、喉が切れてまともに出ない声から紡がれる、呼気の漏れる音。鼻に付く焼けた嫌な臭い。ろくな食事も与えられず、体力の回復もままならない。
生きていることが不思議だった。自分でも、不思議なほど意識はあった。ひたすらに、死なない。死にたくは無い。死に場所はあの山で有りたい。
ここで死ねばきっと帰れない、その思いだけで意識を保っていたのかもしれない。
何としても、帰らなければあの山に、寂しがりで心配性な母の元に、生きて帰らなければならなかった。
ぼうっと、働かない頭で天井を見上げる。ここは頑丈なのか、それとも踏み潰すことのできないほど、地下深いのか、パラパラと振動の度に、石片がぱらつく程度。時々名を呼ぶ龍の咆哮。
(そうだ、あれは俺の名前だ)
不知夜、幾度となく聞こえる龍の咆哮が、ようやく意味をなし、言葉に変わる。
「母様……ここに、ここに居る……」
届くとも思ってない、なも呼ばれない長い拷問の中、忘れかけていた自分の名前。それを呼んでくれた声に、ただ答えたかった。
奴らの思惑通り、餌となり母を呼び寄せてしまった。俺が弱かったから。俺が捕まってしまったから。薄靄のかかったような思考が、途端に動き出す。女の言葉を思い出した。
否、ようやく理解した。
「母様……早く、逃げて」
奴らは龍を手に入れるといった。ならばきっと、母を倒す手段があるという事。
手足の感覚がない。それでも腕を上げ、天井へ掌をむけようとする。二の腕が途中で切り落とされ、その先に何もない。「あぁ、もう助からない」と悟る。無事な視界が歪む。もう枯れたと思っていた涙は、まだ残っていたらしい。手足の感覚はないのではない、もう存在していないのだ。足はどうだろう、腕がないのならきっとないのか。そんな事を考えながらゆっくりと息を吐く。
(こんな事なら、さっさと諦めておけば良かった……生に固着したから、母様は俺を助けにきたんだ)
奪われたあの眼が、母の事線に触れたのだろう。きっと俺がまだ、必死に生きようとしているのを、感じたから助けにきたんだ。そうでなければ、あの思慮深い穏やかな龍が、こんな事はしない。
俺が生きていたから、そう思えば思うほど悔しくなる。どうしてこうなってしまったのか、どうして己はこんな目に会わなければならなかったのか。俺が何をしたというのか。どうして、ばかりが浮かぶ。
ただ、母の山を守り、静かに生を全うしたかった。
肉体亡き後、門桜が訪れるのを、静かに、ただ静かに、母様たちを見守りながら待ちたかった。
静穏な、時間を過ごしたかった。
叶わない望みばかりが浮かぶ。悔しくて、苦しくて、溢れ出した涙は止まらない。呼吸ができなくなる。
(母様を巻き込んで、俺は死ぬのか……俺のせいで)
母の元に帰る為にと、耐えてきた事が、今こうして母を巻き込み、危険に晒した。
母の為と言いながら、結局は自分の為だ。浅はかな自分の行動が、この結果を招いた。
「目を開けて」
呼吸の難しさから視界が暗くなる。不意に耳の奥で、凛とした柔らかい声が響く。母の声に似ている気がした。
閉じかけた目を開くと、自分を覗き込む真っ白な少女。誰だ、あの女にも似ている。けれど、それよりも、人の姿になった時の、母にも似ている気がする。
「神座を、月と太陽を渡してはいけない」
少女が何やら呟く。けれども、一度生きる気力を失った、不知夜の耳には届かない。
少女が手を振るうと、体が軽くなったように感じた。体を支配していた、痛みが薄まる。次第に、天井が近づき意識が遠のく。
「龍よ、その怒りを鎮め、帰り給へ。貴女の宝はここにある。どうか愚かな人間を捨て、山へ戻れ」
遠く、再び少女の声が響いた。響く音の度、喉だけが焼けるように、じくじくと痛んだ。
ふっと、目を開く。静かな部屋に、かち、かち、と規則正しい、時計の音が響く。
耳の奥まで、心臓が移動したように、鼓動がうるさい。はっはと荒い呼吸をすれば、どっと溢れた汗を拭う。
「今……のは、夢……か?」
うな垂れるように、体を前に倒して顔を覆う。寝ていたのか、どれだけ経ったのか、首を巡らせて壁の時計を見る。針は、それ程進んではいなかった。
(今のは、不知夜の最期……か?それにしても、あの少女は、どこかで会ったような……)
うぅんと眉を寄せる。どこで会っただろうか、思い出そうと首をひねる。
「それより、この話……門桜にしておいた方がいいか」
また、泣かせてしまうだろうか。多分、先日思い出した内容よりも痛そうだ、と考えながら、腕を組む。じくと、喉が痛んだように感じ、違和感に眉を寄せると、喉をさする。
「声、別に普通だよな……あんな夢見たからか?」
最期に残っていたのは、耳に残る、水面を撥ねる水滴の様に凛とした、涼やかな女性の声。あの声は、自分の口から出たのではないか。最期だけははっきりと耳に届いた。確かに鼓膜を震わせた。
「いや、そんな声は出せんよな。自分の声すら、掠れてまともに出なかったんだし……なら、あの時母様を退けさせた人間がいるのか?」
それは聞いた方がいいのか、もしかしたら門桜たちの知り合いかもしれない。その人が瀕死の自分を、龍に返してくれたのでは無いだろうかと考える。
「そうだな、門桜にそれくらいなら、聞いてもいいか……」
心優しい門桜の顔が、悲しげに歪む姿な簡単に思い浮かんでしまう。あの顔は、あまりさせたいものでも無いと、苦笑いを浮かべると立ち上がった。
(まずは、壬生にでも話してみようか、それで、話していい内容を判断してもらおう)
自分がなんともなくても、門桜が悲しげな顔をする事もある。あの時、顔を引きつらせてはいたが、気にしてはいなさそうだった。
彼なら、門桜が悲しむ感情を理解できる。どこまで話していいか、判断してもらおう。
部屋を出ると、しんと静まりかえり特に人の気配がない。首をひねると、慣れた部屋の間取りをなぞるように、歩く。
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