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《14》望まぬ訪問者

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『親愛なる弟,アレクシスへ



僕が家を出てから一週間が過ぎましたが、変わらず元気で過ごしていますか?



僕はもちろん元気です。

学園での生活は慣れないことも多く忙しいですが、毎日が充実していて楽しいです。



ただ、アレクに会えないことはとても寂しいです。

昨日は、子供の頃アレクと一緒に寝た夢を見ました。夜中に目が覚めた時にアレクが側にいなかったから、寂しくて泣いてしまいました。

最近はずっと一緒に寝てくれませんね。




今度の休暇で家に帰った時は、一緒に眠れるといいな─────』





差出人は義兄のノワ・ボース・パトリック。
文字を目で追っていたアレクシスは、一度固く瞼を閉じた。

深いため息が漏れる。
癖のある丸文字は、確かにノワの筆癖だった。



『──ところで、テストの成績がとても良かったらしく、生徒会役員に抜擢されました。

アレクが一緒に勉強してくれたおかげです。



生徒会長の皇子殿下は、僕の幼い頃からの憧れです。

彼と一緒に委員会活動ができるのだと思うと、今から心が踊ります。



アレクには心から感謝しています──』





「·····」


喜ぶのも束の間だった。

手紙の内容はだんだんと1人の人物に変わる。
先を読む視線はすっと凍いてついていった。





『大好きな皇子殿下の役に立てるように──』





ビリビリビリビリ。


最終行を読む前に、血管の浮き出た指が手紙を破り割く。
横真っ二つになった手紙はさらに片切れのみ細かく破られ、ゴミ箱に捨てられた。


「あ、アレクシス?どうしたんだね·····」


向かいのソファに座った父親が困惑したように問う。


「不要な話柄があったので」


アレクシスは至って冷静に返答した。


「ほ、ほう·····?」


兄からの手紙半分を木っ端微塵に破り捨てるなんて、一体どれほど酷いことが書かれていたのだろうか。アントニーの疑問は口には出されなかった。

部屋を出て廊下を進む。
アレクシスは、手元に残った紙の半分を丁寧に折り畳み、胸ポケットにしまった。

ノワの言動ひとつで心をかき乱されてしまう。欲望に任せて彼をどうにかしてしまおうと思った瞬間は数しれない。

しかし、ノワを傷付けることなど、到底できなかった。

誰よりも愛おしくて、同じくらいに憎くて仕方ないのだ。
だから感情を殺すために表情を消した。

長い脚が、ふと立ち止まる。

ここまで自分を狂わせておいて他の者に好意を寄せるなど、許さない。


「生徒会·····」


入学までは約1年。

彼の中で小さな野望が生まれた。






















ゴツン。と、鈍い音が響いた。

目の前の男の身体が傾く。
上手くいった。ガッツポーズした時──腕を、強く引きよせられた。


「うわっ?!」


視界が反転する。
振動とともにベットに組み敷かれ、状況を理解した頃には、両腕を頭上で拘束されていた。


「·····んで、この後は?」


自分に覆いかぶさった相手の頬を、鮮血が滴る。
ノワはぱちくりと瞬きを繰り返した。


「まさか、もう終わりかよ」

「は?」


隈の滲んだ目元は楽しげにこちらを見下ろしていた。

腕を振り払おうともがくが、ビクともしない。
驚くほど簡単に自由を奪われてしまったのだ。


「は、なせ·····」

「はなせ?」


呟きに男が聞き返す。
彼の身体は小刻みに震え出した。
クツクツと押し殺すような笑い声は、段々と勢いを増してゆく。


「っふは…はは……あはははは!」


ノワは呆然として彼を見上げた。


「は·····」

「殴りつけた奴に震え声で『離せ』って·····」


笑い声が、ピタリと止む。


「·····殺されてぇのか?」


冷たい唇は、わざとらしくうーんと唸った。


「どうしてやろうか」


指を1本ずつ折ってやろうか、と、かすれた声が呟く。
感情をともさない瞳がじっとりとノワを見下ろした。

彼は本気だ。


「ちょ、ちょっと待て!」

「あ?」

「何でもするから!」


咄嗟に叫ぶ。
相手は物色するようにノワを眺めた。


「例えば?」


例えば、と彼の言葉を反復する。
ノワは脳ミソをフル起動させたのち、名案を思いついた。


「友達になろう」

「···············は?」


悪い提案ではないはずだ。

学園生活を送る上で、知り合いは多ければ多い程良い。
ここで言う友人とは、今後、必要な時に力を借す都合のいい協力者を指していた。

数秒間の沈黙が訪れる。

時計の針さえ止まった気がした。


「アホな奴」














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