【完結】悪役令息に転生した社畜は物語を変えたい。

亜依流.@.@

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《89》望み








2人の中間に立ったノワは眉をひそめた。
会話の意味することがわかっていないのは自分だけのようだ。

先にその場から去ったのはアレクシスだった。

一方的に別れの挨拶を告げ遠のいてゆく背中が冷たい。
取り残されたノワは、彼の姿が消えるのを唖然と見送った。


「さて、ノワくん」


名前を呼ばれ、キースの存在を思い出す。


「僕には再会の抱擁をしてくれないのかい?」


ノワは軽く首を振った。
モブキャラの自分がメインキャラ同士のやり取りにをどうこうするのはやめよう。巻き込まれて死ぬのがオチだ。


「遠慮しとく」


「遠慮だなんて」


キースはため息をついた。

先程の話は、決して虚勢ではない。
願いや、あるいは企みがなんであれ、叶えてやれる自信がある。

自分自身への興味でなくても、彼の注意がこちらに向いたならば、どんなに気分が良いだろう。


「ノワくん、僕は君が思うよりずっと····」


見開かれた黒い瞳に、自分の姿が映る。

利用されるのだって構わない。どうしても、欲しい。

今回の事件のおかげで、ノワがいかにかけがえのない存在かを知ることが出来たのだ。


「多くのことを叶えてあげられるよ」

















「キース·····」


一方で、キースの言葉にノワはげんなりした。

キースは、ゲーム中のナルシスト発言が原因で、1部のプレイヤーから強い反感を買ったことがある。


「僕将来のキースが心配だよ」


「また突拍子もないことを言い始めるね」


長い腕が肩へ回る。
男が無理だとか言っていたくせに、案外スキンシップが多いのだ。

ノワは大人しく肩を抱かれながら廊下を進んだ。


「キースって、世の女性がみんな自分のこと好きだと思ってるでしょ」


『金や権力を持ってしても手に入れることの出来ないものをあげるよ』


あるイベントでキースが発した台詞だ。

この後の彼の発言が一部のファンを熱狂させ、またある一部のユーザーから酷くバッシングを受けた。


『僕の視線、口付け、心·····僕の全てさ』


当時の自分とて顔を真っ赤にして一度端末の電源を切ったものだ。

なんだこのくそナルシストは、という思いが半分、あとの半分は不覚にもときめいてしまっていた。
これは他のユーザーも同じだったようだ。

「現実でいたら無理」、「自分に酔ってる」、「勘違いナルシスト」。

彼の台詞をめぐり、レビューは荒れに荒れまくった。


「さぁ····好きにさせる自信はあるよ」


キースの微笑は美の暴力だ。
確かにこれは、ナルシストに育っても仕方ないかもしれない。


(いや、違う)


ノワはぶんぶんと首を振った。


「それは、キースがたまたま金持ちで、凄くめちゃくちゃとてつもなくイケメンに生まれたからでしょ?」

「ノワくんって本当に僕の顔が好きなんだね」

「今そんな話·····」


隣のルームメイトはなぜか上機嫌だ。ノワはうーんと眉根を寄せる。


「もしそうじゃなかったら、いくらキースに才能があったって、誰でも虜にするのは難しいじゃん」


つまり、あまり自惚れるなと、遠回しに言いたかったのだ。

果たして、呆れたように笑ったキースは、ノワの肩を軽く叩いた。


「完璧なのが僕さ。"もしそうじゃなかったら"、それは僕じゃない。全く別人のキースだね」


「·····。」


どうやら、忠告は微塵も伝わらなかったらしい。

彼のためを思って言ってやったのに、なぜこちらが苛立つ羽目になるのだろうか。
ノワはキースの手を振り払い、寮室の扉を開ける。


「でも様子を見るに、ノワくんに興味を持ってもらうには、別の方法がいいのかもしれないね」

「は?なんで僕?」


ノワは不機嫌さを隠さず相手を振り返った。

キースはすぐ後ろにいた。


「わっ」


近い距離のせいで、何も無いところでバランスを崩してしまう。
背に伸びた腕のおかげで転ぶことを免れるが、安堵するのは早かった。


「ノワくんは」


強く引き寄せられる。
耳元へ熱い吐息がかかった。


「何が欲しいの?」


濡れた男の声が背筋を駆け抜ける。
ノワは咄嗟に彼の胸元を押した。


「ふざけないで····」

「君の目は何かを望んでいる目だ。そうだろう?」


──暴きたい。
彼の野望も、秘密も、他人との関係も、全てを知りたい。
こちらを見上げたノワは、ぱっちりとした二重を大きく見開いていた。

小さく震えた唇が心許ない。

キースはそっと顔をかたむけた。







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