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《134》兄の出番

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「うん!いいよ」


ならば今こそ、兄の出番だ。
片手の拳で胸を叩き、そうしてから、慌てて付け足した。


「あと、痛いのも、駄目だよ」

「それは·····善処します」

「え!?」

「冗談です」


無表情なせいで冗談がわかりにくい。ノワは多少不安になった。


「じゃあ、1分間だけ」

「善処します」

「絶対!」

「·····分かりました」


これも冗談だと言って欲しかったのだが、返答は違っていた。


「わっ」


早速、頬から首元を大きな手のひらが撫でた。
長い指が髪の間に滑り込まれる。鳥肌が立って、ノワは思わず身震いした。


「·····っ?」


なんだか、想像していた甘え方と大分違う。


「アレク」


名前を呼ぶと、はいと素っ気ない返事だけが呟かれた。
腰を引き寄せられる。
もう片方の手は腿に触れた。


「兄さん·····」


色素の薄い瞳がじっとりとこちらを見つめるのを、綺麗だなんて考えて見つめ返してみる。

高い鼻が傾いた。


「·····ん·····っ」


唇が触れる寸前、ノワは顔を背けた。
何をされそうになったのかも知らず、ただ偶然、脇腹を撫でた手に気を取られたからだ。


「くすぐったい·····」


へらりと笑みを見せた上唇に、ぬくもりが触れた。


「·····?」


見上げた弟の顔は、こころなしか上気している。

自分よりも、ずっと体の大きな男だ。こちらを支えた手はとても熱かった。


「·····嫌ですか?」

「··········?」


ぱくぱくと口を動かしたのち、ノワは、小さく首を振る。
気の所為だ。
たまたま、唇に、彼のそこが触れただけで。


「兄さん、こっち、見て」

「?·····ン·····っ」


少し上をむくと、やはり唇を重ねられた。

逞しい腕に引き寄せられ、体勢がかたよる。今回のは、ただくっつくだけとは違う。


「·····っはぁ·····っ·····ん·····」


ノワは慌てて口を離す。しかし息を吸うまもなく、また熱い唇に捕まってしまった。

侵入してきた舌が、器用に唾液を舐めとる。


「·····??·····っ」


怯えた口内は、翻弄されるうち柔らかくなっていった。


「ん·····ぅン·····」


(あ·····れ·····?)


ぴちゃぴちゃと遊ぶような水音がする。
ノワは胸の前で両手を握りしめ、優しいキスを甘受していた。


「はぁ·····っ」


そっと唇が離れた頃、乱れた呼吸を繰り返し、俯く。


(な、なんで·····?)


触れ合っていた唇がじんじんと熱い。


「っ·····?!」


こめかみにキスを落とされ、ノワは慌てて後ずさった。

追うように、首に鼻筋を押し付けられた。


「兄さん·····」

「·····あ·····っ」


低い男の声だ。対照的に、自分からは驚くほど弱々しい声が漏れる。

両肩を掴まれ、ベッドに押し倒されてしまう。

さすがに、洒落にならない。


「ア、レク、待っ·········ひぁ······っ」











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