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《144》湖

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「こんなとこまできて喧嘩なんて、何してるんだ」


「レ、レイゲル先輩!」


木陰から姿を現したレイゲルが、パンパンと手を叩く。

ノワは慌てふためき、リダルの胸元を押す。

ビクともしない。
相手は憮然としてノワを捕まえていた。


「リダル!早く、放してよ!」

「貧弱」

「は?!ふざけ·····うわっ」


次の瞬間、ノワの肩が強い力に引き寄せられる。


「いい加減にしなさい」


リダルからノワを解放したのはレイゲルだった。

彼は2人を交互にみやり、ため息をつく。


「君ら、仲良かったんじゃないの?何かあった?」


説明のしようがない。


「ごめんなさい·····」


ノワは小さく呟いた。


「素直でよろしい。さあ、準備して、周囲の探索に行こう」


ぽんぽんと頭を撫でられる。

リダルはレイゲルに会釈し、テントの方へと去っていった。

なんて無愛想な奴だろう。ノワは知らず知らず拳をにぎりしめる。


「大丈夫?」


レイゲルは案ずるようにこちらを見やった。


「いじわるされてたんじゃない?」


どうやら彼は、自分がリダルに虐められていると思ったらしい。


「大丈夫です」

「そっか。まあ、何かされたら言うんだよ」

「何か·····」


ぽん、と、脳内にセクシーな口元が浮かぶ。

ノワは発狂を飲み込んだ。


「俺達も行こうか」


レイゲルが笑いかける。


「はい」


ノワは釈然としない思いを抱えたまま、彼の後に続いた。





「100キロ先の海岸を目標に進む」


支度を終えると、ロイドが今後の計画を話し始めた。


「海岸?」

「ああ。ドゥジーヤは岩場を好む傾向にある。ホム海岸なら、住処にうってつけだろう」


むやみやたらと探すだけでは、見つけることは難しい。ロイドの提案通り、ノワ達はホム海岸を目指して出発した。

ホム海岸は、この世の最果てともいわれている。
海水の乾涸びた岩場の先に、底の見えない崖がある為だった。


「ホム海岸·····」


ぽつりと呟く。

何かを思い出せそうなのに、思い出せない。
歯がゆい気分だった。


  まるまる半日、足場の悪い森を歩き続けた。

ノワの足は悲鳴を上げていた。


「近くに湖があるみたいだ」


立ち止まったレイゲルが、木の幹に生えている湿生植物を指さす。

水辺付近でのみ生息している草だ。
少し進むと、木々の間から青い水面が見えた。

ロイドが湖の底をのぞき込む。


「水深も浅いし、入っても問題無いな」

「じゃあ、今日はここを拠点にしよう」


言うが早いが、レイゲルはばっとシャツを脱いだ。


「二年はテントを張っててくれ。俺とレイゲルが戻ってきたら交代する」


ロイドも、レイゲルと同様シャツを脱ぎ捨てる。
湖へ向かおうとしたレイゲルは、ノワと目が合うと「そうだ」と明るい声を上げた。









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