上 下
175 / 342

《171》謝罪

しおりを挟む





「·····フィアン様·····?」


金の睫毛が軽く震える。

切れ長の目が開かれると、ルビーのような瞳が姿を現した。


「体調はどうだ?」


「あ·····大丈夫で·····」


す、とまで言い、口を閉じる。少し前の記憶が、脳裏に蘇ってきた。

なんてことをしてしまったんだ。


「ノワ?」


「ぼ、ぼ、僕·····!」


ベッドの上で正座する。
もはや謝罪の言葉さえ浮かばない。

神殿と学園の間に確執でも出来たら、どう責任を取れば良いのだろう。

震え出した手先は、身に覚えのあるぬくもりに包まれた。


「横になれ」

「で、でも·····」

「早く」


フィアンに促され、ベッドに横になる。


「何があったのか教えてくれるか?」


手は握られたままだった。


「い·····嫌な感じがして·····」

「嫌な感じ?」


ノワは戸惑うように視線をさまよわせた。

神殿を悪く言うことは、不敬罪にあたる。


「言ってごらん」


凛々しい声が、いくらか優しい。

彼は怒っていないのだろうか。


「俺には、何を話しても大丈夫だ」


ノワの心配を他所に、フィアンは力強く宣言した。


「ほら」


フィアンが耳を寄せる。

秘密事を打ち明けるような緊張感が、胸を騒がせた。

そっと彼の肩口へ手を添え、耳元に唇をちかづける。


「嫌な感じがして·····聖水が·····」

「具体的には?」


なんの信憑性もない話を信じろだなんて、無理な話だ。

こんな状況に喜んでいることだって、フィアンが知れば、どれほど呆れるだろう。


「·····分かりません·····」

「それは困ったな」

「あっ」


不意に、膝から力が抜ける。

フィアンの耳元に唇が触れた。


「·····!ごめんなさ·····」


やってしまった。
後ずさろうとしたノワの手は、フィアンに掴まれた。


「こういうのは、よくあるのか?」

「えっ?」


質問の意図が分からない。

繋がった手がとても熱く感じられた。


「不注意だな」


流れるような視線がノワを見つめる。



「ごめんなさい·····」


怒られてしまった。
唇が触れたことが、余程気に触ったらしい。

好きな人から嫌がられるのは予想以上にこたえる。ノワは唇を噛み締めた。


「?」


フィアンがノワを覗き込んだ。


「俺以外にこういうことをしたら、駄目だ」


告げられた言葉を、脳内で反芻する。


(どういうこと·····?)


そっとフィアンを見上げる。光を集めたスカーレットが、眩しそうに細められた。


「フィアン様·····」


魅力的な人。格好よくて、頼もしくて、揺るぎない信念を持った、強い人。

けれど時折、分からなくなる。


「あの·····」











しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

プレイメイト(SM連作短編)

BL / 連載中 24h.ポイント:149pt お気に入り:579

将軍の宝玉

BL / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:2,720

この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

BL / 完結 24h.ポイント:355pt お気に入り:3,628

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:36,387pt お気に入り:29,942

間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

BL / 連載中 24h.ポイント:1,478pt お気に入り:288

行ってみたいな異世界へ

BL / 完結 24h.ポイント:99pt お気に入り:1,420

目覚めたらヤバそうな男にキスされてたんですが!?

BL / 完結 24h.ポイント:205pt お気に入り:833

ツンデレでごめんなさい!〜素直になれない僕〜

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:24

処理中です...