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《171》謝罪
しおりを挟む「·····フィアン様·····?」
金の睫毛が軽く震える。
切れ長の目が開かれると、ルビーのような瞳が姿を現した。
「体調はどうだ?」
「あ·····大丈夫で·····」
す、とまで言い、口を閉じる。少し前の記憶が、脳裏に蘇ってきた。
なんてことをしてしまったんだ。
「ノワ?」
「ぼ、ぼ、僕·····!」
ベッドの上で正座する。
もはや謝罪の言葉さえ浮かばない。
神殿と学園の間に確執でも出来たら、どう責任を取れば良いのだろう。
震え出した手先は、身に覚えのあるぬくもりに包まれた。
「横になれ」
「で、でも·····」
「早く」
フィアンに促され、ベッドに横になる。
「何があったのか教えてくれるか?」
手は握られたままだった。
「い·····嫌な感じがして·····」
「嫌な感じ?」
ノワは戸惑うように視線をさまよわせた。
神殿を悪く言うことは、不敬罪にあたる。
「言ってごらん」
凛々しい声が、いくらか優しい。
彼は怒っていないのだろうか。
「俺には、何を話しても大丈夫だ」
ノワの心配を他所に、フィアンは力強く宣言した。
「ほら」
フィアンが耳を寄せる。
秘密事を打ち明けるような緊張感が、胸を騒がせた。
そっと彼の肩口へ手を添え、耳元に唇をちかづける。
「嫌な感じがして·····聖水が·····」
「具体的には?」
なんの信憑性もない話を信じろだなんて、無理な話だ。
こんな状況に喜んでいることだって、フィアンが知れば、どれほど呆れるだろう。
「·····分かりません·····」
「それは困ったな」
「あっ」
不意に、膝から力が抜ける。
フィアンの耳元に唇が触れた。
「·····!ごめんなさ·····」
やってしまった。
後ずさろうとしたノワの手は、フィアンに掴まれた。
「こういうのは、よくあるのか?」
「えっ?」
質問の意図が分からない。
繋がった手がとても熱く感じられた。
「不注意だな」
流れるような視線がノワを見つめる。
「ごめんなさい·····」
怒られてしまった。
唇が触れたことが、余程気に触ったらしい。
好きな人から嫌がられるのは予想以上にこたえる。ノワは唇を噛み締めた。
「?」
フィアンがノワを覗き込んだ。
「俺以外にこういうことをしたら、駄目だ」
告げられた言葉を、脳内で反芻する。
(どういうこと·····?)
そっとフィアンを見上げる。光を集めたスカーレットが、眩しそうに細められた。
「フィアン様·····」
魅力的な人。格好よくて、頼もしくて、揺るぎない信念を持った、強い人。
けれど時折、分からなくなる。
「あの·····」
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