上 下
174 / 342

《170》違和感

しおりを挟む







「キャハハハ」


子供たちが、広場を走りすぎていった。
人々は皆穏やかな笑顔を浮かべていた。


(暖かい国·····)


ロイドの隣に並ぶ。
転生するまで、生きていることがこんなに素晴らしいことだとは、知らなかった。


「ウォルターせんぱ···」


ノワは、ぴたりと口を閉じた。


「·····?」


紫のローブに身を包んだ2人組が、細い路地の前に佇んでいた。
胸元には、羽の大きな鳥の刺繍が施されている。

神殿の紋章だ。

彼らは、群がる子供たちに飲み物とパンを分け与えていた。


最近、神殿は、慈善活動を行っている。

しかしノワが目にしている光景は、何かが歪だった。

漠然と"いやな感じ"がする。

ポッカリと黒いフードの奥が、こちらを見ているような気がした。


「·····?」


コップ一杯に注がれた水が小さな子供の手に渡る。


(なんだ、これ·····)


神経を逆なでされるような、不吉な予感だ。

ノワの身体は、独りでに動き出していた。


「パトリック?」


ロイドの呼び掛けを無視して進む。人混みを縫い、路地まで駆けて──手は、水が入っていたタンクを、ひっくり返した。

数人の叫び声が上がった。

人々は何事かと立ち止まり、コップをひったくられた子供は泣きわめいている。

頭から浴びた聖水は、生ぬるく、肌に張り付くようだ。

ぐらりと、地面が歪んだ。


「パトリック!お前、何を·····」


かけてくるロイドの影がぼやける。

意識は、強制的に遮断された。



















「特に問題ありません。眠っているだけなので、時期に目が覚めるかと·····」


頭の片隅で、何人かの話し声が聞こえる。

意識は酷くぼんやりとしていた。


「突然駆けだしたと思ったら、聖水の入った樽をひっくり返した」


「ノワが?」


「ああ·····意識を失ったのは、その後だ」


一人はロイドだ。

先程まで聞いていた、丈夫な声だった。


「私は一度席を外しますが·····」


女性の声は、保険医のものだろう。

あたたかい手が、手を握った。

角張っていて大きな手だ。ふわりと、爽やかなコロンの香りがした。


「よりによって神殿の物に·····」

「俺から話を聞いてみる」


うっすらと視界が開く。支配の端で、眩いブロンドがなびいた。


「早く目を覚ませ」





 



短い夢を見ていた気がする。

鼻の先がくすぐったい。ノワはゆっくりと目を開いた。


「·····え·····?」


学園の医務室だ。

ベッドのすぐ横の椅子に、フィアンが腰掛けていた。


両腕を組み、まぶたを閉じている。

ノワは瞬きを繰り返した。












しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

わたしが嫌いな幼馴染の執着から逃げたい。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:26,109pt お気に入り:2,768

前世の因縁は断ち切ります~二度目の人生は幸せに~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:89,809pt お気に入り:2,098

ニコニココラム「R(リターンズ)」 稀世の「旅」、「趣味」、「世の中のよろず事件」への独り言

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:425pt お気に入り:28

処理中です...