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《170》違和感
しおりを挟む「キャハハハ」
子供たちが、広場を走りすぎていった。
人々は皆穏やかな笑顔を浮かべていた。
(暖かい国·····)
ロイドの隣に並ぶ。
転生するまで、生きていることがこんなに素晴らしいことだとは、知らなかった。
「ウォルターせんぱ···」
ノワは、ぴたりと口を閉じた。
「·····?」
紫のローブに身を包んだ2人組が、細い路地の前に佇んでいた。
胸元には、羽の大きな鳥の刺繍が施されている。
神殿の紋章だ。
彼らは、群がる子供たちに飲み物とパンを分け与えていた。
最近、神殿は、慈善活動を行っている。
しかしノワが目にしている光景は、何かが歪だった。
漠然と"いやな感じ"がする。
ポッカリと黒いフードの奥が、こちらを見ているような気がした。
「·····?」
コップ一杯に注がれた水が小さな子供の手に渡る。
(なんだ、これ·····)
神経を逆なでされるような、不吉な予感だ。
ノワの身体は、独りでに動き出していた。
「パトリック?」
ロイドの呼び掛けを無視して進む。人混みを縫い、路地まで駆けて──手は、水が入っていたタンクを、ひっくり返した。
数人の叫び声が上がった。
人々は何事かと立ち止まり、コップをひったくられた子供は泣きわめいている。
頭から浴びた聖水は、生ぬるく、肌に張り付くようだ。
ぐらりと、地面が歪んだ。
「パトリック!お前、何を·····」
かけてくるロイドの影がぼやける。
意識は、強制的に遮断された。
「特に問題ありません。眠っているだけなので、時期に目が覚めるかと·····」
頭の片隅で、何人かの話し声が聞こえる。
意識は酷くぼんやりとしていた。
「突然駆けだしたと思ったら、聖水の入った樽をひっくり返した」
「ノワが?」
「ああ·····意識を失ったのは、その後だ」
一人はロイドだ。
先程まで聞いていた、丈夫な声だった。
「私は一度席を外しますが·····」
女性の声は、保険医のものだろう。
あたたかい手が、手を握った。
角張っていて大きな手だ。ふわりと、爽やかなコロンの香りがした。
「よりによって神殿の物に·····」
「俺から話を聞いてみる」
うっすらと視界が開く。支配の端で、眩いブロンドがなびいた。
「早く目を覚ませ」
短い夢を見ていた気がする。
鼻の先がくすぐったい。ノワはゆっくりと目を開いた。
「·····え·····?」
学園の医務室だ。
ベッドのすぐ横の椅子に、フィアンが腰掛けていた。
両腕を組み、まぶたを閉じている。
ノワは瞬きを繰り返した。
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