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《211》諦め

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「·····いや·····ぁ·····っ」


強く吸いつかれ、痛みを感じた頃、肌を優しくなめとられる。
ノワは抵抗をやめた。


「·····ふっ·····ぅ·····」


泣き声を押し殺す。
何をしても無駄なんだ。


「リダル·····」


うわ言のように、彼の名を呟く。
返事は来るわけが無い。

リダルが死んだ。


「リダル·····っうぅ·····」


「ノワ様·····さぁ、私の名前をお呼びください」


もう、助けには来てくれない。

そして自分も、彼を守ることが出来なかった。


「さぁ」


ボタンを外され、シャツがはだける。
裸の肌に他人の温もりが触れる。

次の瞬間、ノワは脚を蹴りあげた。


「グ·····っ!?」


踵がルイセの股間に命中する。
かがみこんだ彼から逃げ出そうとし、足首を捕まれた。
ベッドへ倒れ込むと同時に、体に重圧がかかった。


「この、クズ野郎!離せ!」

「·····なぜだ?なぜあなたは未だ、そんなにも·····」


混乱を隠しきれない声が、なぜを繰り返す。

(リダルだったら)

彼だったら、絶対に諦めたりなどしない。
きっと、哀しみも痛みも無視して、目的のために突き進むのだろう。

まだ終わってない。
諦めてたまるものか。


「見てろよ、リダル!」


ノワはルイセの首元めがけ肘をひねる。
こんな時のために自らあみ出した護身術だが、腕は予想外に宙を切った。
のしかかっていた重圧が大幅に軽減する。バフン、と、マットが振動した。


「··········?」


振り返ると、ベットに倒れ込んだルイセが、泡を吹いて気を失っていた。

宙を切ったと思ったが、ものすごいスピードで攻撃が当たっていたのだろうか。すぐに変われるはずはないと思っていたが、もしかすると自分は武術の天才かもしれない。

手のひらを見下ろした時だった。


「1回呼べば、充分聞こえる」


ノワはピタリと固まった。

少し掠れた、夜風のような声。セクシーなため息まで、そっくり記憶のままだ。


(ああ、嫌だ)


ショックのあまり幻聴まで聞こえてきてしまった。


「あっ」


足に鎖がひっかかり、倒れ込む。
ベットから落ちる前に、大きな影に支えられた。


「·····?」


報告に来ていた騎士だ。
陰のできた視界の先で、高い鼻が傾く。一瞬黒髪に見えたのは、青の濃いバイオレットだ。


「すぐにでもお助けしたかったのですが」


相手が囁く。
あかりに照らされたのは、いくつか年上の、エキゾチックな雰囲気の男だ。


「タイミングというものがありまして」

「·····へ·····」


激しい衝撃音とともに、部屋を涼しい風が吹き抜けた。





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