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《212》嘘ばかり
しおりを挟む突如、扉が吹き飛んだ。
「うわ、びっくりした」
後ろで待機していたもう一人の騎士が、鎧の仮面を外す。
「レイゲル先輩·····?」
「ノワ」
ふりかえったレイゲルは大股で駆け寄ってくる。腕はこちらを力強く抱き締めた。
「怖かっただろう。無事で良かった」
大きな体を抱きしめ返し、再び、涙が込み上げる。
悔しくて悔しくて、たまらない。
どんなに願ったって、やっぱり、自分はリダルのように強くはなれない。
彼のいない世界で、足掻くことは出来るのだろうか。
「リダルが·····」
「リダル?」
聞き返したレイゲルは深刻そうな顔をした。
「·····ノワ、落ち着いて聞いてくれ。リダルは、実は皇·····」
分かっているが、この先は聞きたくない。
ノワは両耳を塞いだ。濡れた瞳の向こうで、今度は黒髪の幻覚が見えた。
「·····え?」
瞬きをすると、視界から霞みが取り除かれる。
砂埃を立てた扉の向こうから、背の高い男が現れた。
彼は鬱陶しそうに黒髪をかきあげた。
「は·····え·····?」
「殿下」
紫髪の男が彼をそう呼ぶ。
「外の警備はどうですか?」
「全員片付けた。シヴァー達が攻め込んできたら、乱戦に紛れてこいつを逃がす」
こいつ、という言葉と共に、新しい登場人物は親指でこちらを指す。
目の前で死んだはずの男が分からない話をしている。ノワは、それこそ死人を見るような目で彼を眺めた。
「リ·····リダル·····?」
そっと呼びかけると、赤い瞳が目の端でこちらを見下ろす。
片方には眼帯がつけられていた。
「本物?」
「ノワ、この方は、イアード皇子殿下だ」
レイゲルが言う。
「は·····?」
全く意味がわからない。
様々な驚きのあまり、涙はすっかり引っ込んでしまった。
「よお」
血色のない唇が弧を描く。
導かれるように頬に手を伸ばす。かがみこんだ相手を抱きしめると、夜風の匂いがした。
「助けに来てやったろ」
───信じろ。誰でもなく、お前を助けてやれる俺だけを。
あの日、彼はそう言った。
「やっぱり、嘘ばっかりだったんじゃないか」
リダルという存在自体が、全て嘘だったなんて、誰が想像できただろう。
この野郎、何を持って信用しろなんて言ったんだ。
そうわめいてやりたいのをこらえて、しょっぱい唾液を飲み込む。
振り上げられた剣が、ベットへ繋がる鎖を断ち切る。目の前で鉄の破片がキラキラと舞った。
それがまるで魔法の粉みたいだった。
「でも、信じてあげる」
冷たい手が後頭部にまわされる。
ノワはまた泣き出しそうになるのをこらえて、はにかんだ。
「イアード」
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