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《262》呼び出し
しおりを挟む彼らもこちらに気づいているようだ。馬車が停車すると、騎士たちは皆馬から降り、そのうちの一人が代表してこちらへと近づいてきた。
「聖下にご挨拶申し上げます」
公爵家護衛騎士団長のゴルウィン卿だ。
ノワが馬車から下りると、彼は熊のような体躯を折り曲げ、深深と頭を下げた。
「どうしましたか?」
「閣下がお呼びです。至急、執務室までお越しくださいますよう」
(やばい)
ノワの頭上に、巨大隕石が落下してくる。
脳内にそれだけの衝撃を受けたということだ。実際に落ちてきてくれたらこの後の恐怖に怯えることもない。
『半日以上王宮を開ける時は報告しなさい』
この約束を、既に二回すっぽかしている。
死より恐ろしい罰を与えられるかもしれない。
ノワは宰相執務室まで急いだ。
ノックをして、返事を待つ。
しかし扉の向こうは沈黙だ。
席を開けているのだろうか?
「誰かと思えば」
真上から声がする。
ノワは飛び上がって、後ろを振り返った。
「愛しいノワじゃないか」
こちらを見下ろした碧眼が優しく歪む。
自分から赴いておきながら、肉食獣の住処に来てしまった気分だ。
後ずさると、扉に背がぶつかった。
「あの·····──っ!?」
伸びてきた手がノブをひねり、ノワは後ろに倒れ込んだ。
力強い腕に身体を支えられる。
次に目を開けた時、ノワはユージーンの執務室に閉じ込められていた。
個室に二人きり、しかも相手はご立腹だ。
好きな人はうんと甘やかして優しくするんじゃなかったのだろうか?ゲームの設定を全力で問いただしたい。
ユージーンが片手を持ち上げる。
ノワは目を瞑った。
ポン、と、頭の上に軽い重みが加わった。
「俺が手を上げると思ったの?」
かがみこんだユージーンがふっと笑う。
おまけのように鼻先に落とされたキスは、怖い思いをした分、甘く感じた。
「はい」と返答する訳にはいかず、精一杯首を横に振る。
本当は、学生の頃と同じく、平手打ちをされるかと思った。
そこまで痛くないが、されると思うと身構えてしまう。
「俺が君を傷つけるわけないだろう?」
彼が可笑しそうに笑う。
優雅で、それと同じくらい意地悪な笑顔だ。嫌味なところさえとても様になっている。
「こんなに愛しているのに」
ノワは思わず、美しい顔面を凝視した。
「あ、愛·····?」
「ノワが思うよりも深く、これ以上などない程にね」
濃密な男の声にめまいを起こしかける。
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