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《261》忘れ物

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裸の肌が擦れ合う。モジモジしていると、内腿に吸いつかれた。


「ひ·····っ·····」

「ノワくん、愛しています」


デリックは再開してから、3年前のウブさが嘘みたいに積極的になった。

彼曰く、ノワを一度失ったことがきっかけらしい。

薄暗い視界には、盛り上がった布団だけが見える。
その中で、少し体を触れ合わせているだけだと、ノワは自分に言い聞かせた。


「·····あ·····っ·····」

「ノワくん·····」


時折、布越しに、硬い熱が当たる。
手で、口で、好きなように体を弄ばれる。
ノワはそっと足先を伸ばした。

聖徒同士の治癒は無意味だ。
気持ちよくもどかしい愛戯は、朝方まで続いた。

























「お早いですね」


シャワーから上がったノワは、背後の声に飛び上がった。


「おはようございます、ノワ様」


ルイセが聖書を片手に佇んでいる。


「あ、お、おはよう」


声は裏返り、右手と右足が同時に前へ出る。
とても挙動不審になってしまった。


「デミリオン神父にはもうお会いしたようですね」

「へっ?!」


モノクルが光る。
ノワは慌てて彼に背を向けた。


「ぼ、僕、下着を忘れてきたから、また後で!」


「どこに忘れたんでしょうね」


小さなつぶやき声は、ノワには届いていない。

昨夜は散々だった。
慰みを求めてノワの部屋に向かったら、肝心の本人がいないではないか。諦めて廊下に出たところでレイゲルとロイドに鉢合わせ、睨み合った挙句部屋を確認しようとする彼らを止める羽目になった。
近衛騎士2人にノワが部屋に居ないことがバレたら、大騒ぎになる。

細い背中が角に消える。

(まあ、チャンスは何度でもあるし、気長に行くか)

民に神の教えを説き、子供達に神学を教える。時には迷える人々の相談に乗り、希望を与える。

あくびが出るほど退屈な仕事だが、数日に1回来るノワに会うことが密かな楽しみだ。
今の生活もなかなか悪くない。

窓の向こうから、子供たちの声に交じって、ノワの笑い声が聞こえてきた。






















高原では、神父服姿のデリックが子供達に手を引かれて笑っていた。
豪奢な軍服より余程似合っていた。ノワは馬車に揺られながら、何度もそれを思い出しては、喜ばしい気分になった。

大公領に向かうため、教会にはひと月ほどいけなくなる。
デリックの体調が気がかりだったが、見たところ彼は問題なさそうだった。

馬車は宮殿の塀をくぐり、敷地内の林を進む。


「?」


窓から外を眺めていたノワは、行く先へ目を凝らした。

城門の前に、数人の騎士がいる。













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