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《263》甘い罰

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この前の出来事から、彼の想いは理解した。
しかしそんなことよりも大前提として、ユージーンは腹黒サディスト(ノワ命名)なのだ。
約束を破った相手に対して、甘い言葉だけで終わるはずがない。


「さて。そんな俺を、三度も裏切った自覚はあるみたいだ」



キタキタキタキタ。ノワは脳内で発狂した。
本題はここからに違いない。


「前回のパーティーの精算をしよう」


「ジェ、ジェダイト様は、お優しくて慈悲深い方です!ですから、あの、どうか·····」


一体どんな無理難題を押し付けられるんだろう。
彼の気が変わるようにと、精一杯のヨイショを試みる。


「成程」

「へ?」

「俺の好きな所を五つだ」


言ってみろ、と、彼はすまし顔で命令した。

歌ってみろと言われた時のことを思い出す。
こういう時、ノワは自分が無力なホトトギスになった気分になる。


「青い瞳が、あの、とても魅力的で」


「そんなの一つ一つあげたらキリがないだろう。却下だ」



よく分かってらっしゃる。


「ええっと·····性格が素晴らしくて、何をしていても所作がお綺麗で」


こういうのならセーフだろうか。不安げにユージーンを見上げると、彼は微笑を浮かべ、首をかしげた。


「顔立ちが美しくて」


なんせ顔面が良い。
直接的すぎるかもしれないが、これに尽きる。


「お仕事をこなす姿が格好よくて、あと·····」


あと1個、どうしよう。
ノワは口をもごつかせる。
性格も見た目も言ってしまった。


「まさか、終わりじゃないだろう?」


腰を支えていた手が、舐め上げるように背を撫で、首筋をさする。
ゾクゾクした刺激が波紋を広げた。


「キスがすごくて」


口にしてから、正気に戻る。
いや、違う。違わないけど、そんなことを堂々と本人に言うなんてどうかしてる。
低い笑い声が耳元をくすぐる。


「機嫌を取るのが上手くなったようだが···陛下にさえ報告すれば、俺には言わなくて良いと思ったのか?」


ユージーンはふと扉の方へ目をやった。
壁一枚をへだてて、人の気配を感じる。恐らく、追いかけてきたレイゲルかロイドが待機しているのだろう。


「君の好きなキスは、帰ってくるまでお預けだ」


頬を撫でていた手が離れてゆく。


「話は終わりだ」


良かった。
退室の許可が降りたので素直にそうさせて頂こう。
もう一度謝罪の言葉を述べ、そそくさと扉の方へ向かう。
ノブに手をかけたノワは、足を止めた。

垣間見えたのは、がっかりしたような横顔だった。











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