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《279》ノワの策略

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毎夜0時から1時、イアードが眠っている間に女神の慈悲を執行する。
その間はレハルトが外の見張りを行ってくれれば問題ない。


「ノワ様が殿下に直接お申し出してみては?」


レハルトの提案には首を振った。
ワケは言うまでもない。


"私としても幸いでした"


赤い瞳が蔑むようにこちらを見やった。
心底汚いものを見るような視線が全身を辱め、興味をなくしたように逸らされたのだ。


"淫売"

"汚ぇって言ったんだよ"


彼の意思はそれが全てだ。

またあの冷たい瞳で、声で傷つけられるのが怖い。そんな情けないとことは白状出来なかった。


「彼を助けたいんです」


少しの沈黙の後、頭上に、触れるだけの重みを感じた。


「·····えっ?」

「あ、申し訳ありません」


レハルトの手のひらがぱっと離れる。本当に素敵な方だと言って、彼はにっこりしてみせた。


「殿下は、聖徒様をなにか勘違いなさっているようです」


エキゾチックな顔が優しく微笑むと、妙に怪しく見えるのは気のせいだろうか。
そんなことより頭を撫でられた。
ノワは動揺しながら「いいえ」と首を振る。

彼からしたら、自分が幼く見えるのだろうか。少しムッとしながらも嫌な気分ではなかった。

その後、ノワはレハルトに送られ、部屋に戻った。


「聖徒様、まるで本物の女神様のようでした」


去り際、その場に跪いたレハルトが言う。
彼はノワの手の甲に口付け、そうだ、と、思い出したように内ポケットへ手を突っ込んだ。


「ところで、下着はお召しになられますか?」

「!!!」


ノワは慌てふためき、レハルトの手からパンツをひったくる。


「おやすみなさいませ、聖徒様」


胡散臭い微笑みは、気の所為なんかじゃない。
深夜、ノワは飲酒の過ちを酷く後悔しながら、やっと眠りについたのだった。


























次の日から、ノワはジョセフに案内を頼み、城内を忙しなく散策した。

聖徒に対する偏見を無くすためには、実際に関わり、知ってもらうことが大切だ。
そして自分自身も、まずは使用人たちの様子や大公爵邸について知る。我ながらナイスアイディアだ。

ロイドとレイゲルには待機していてもらうことにした。
最大限警戒を解くためだ。

上階から順に屋敷を歩き、見かけた使用人に片っ端から声をかけてゆく。
対人は得意だ。
大事なのは笑顔。初め戸惑うように返事をしてきたメイドも、どこか冷ややかだったフットマンも、話すうちに意外そうな、角の取れた態度になっていった。










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