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《287》マッサージ
しおりを挟むレイゲルが怪我を作ってくるのは、決まってロイドに慈悲を施した日だ。
4日目とは、前記の回数を表す。
最近、ロイドのマナを浄化するため、数回に分けて治癒をしていた。
精悍な顔立ちに、何度かキスを落とし、口付けをする。初めてロイドに治癒を 行った時はとても緊張したし、今もそれは変わらないのだが、近頃はその後のレイゲルの傷の方が気が気でない。
レイゲルの顔に、昼下がりまでには傷ができている。
隣にいるはずなのに、目を離した隙の一瞬でだ。
目的は分からないが、わざとに違いない。
「傷を作らないように気をつけてください、次は、もう治癒しませんから」
「もちろんです。決してノワ様のお手を煩わせることは致しません」
お気遣いなくと、彼が丁寧に目礼する。
「怪我に気をつける」とは言わないらしい。
「僕の事じゃなくて、怪我をしないように気をつけてください」
今度こそはいと言わせるために、強く言い直す。
果たして返ってきたのは、この上なく満足気な微笑みだ。
怒られて喜んでいる。意味がわからない。
レイゲルは、帝国屈指の豪剣使いだ。
だからこそ厳しい訓練を乗り越え、たくさんの騎士の中からノワの近衛騎士に選ばれた。
ふざけているとしか思えない。
「こんなに沢山怪我するなら、他の人に近衛を代わってもらいます」
ノワはツンケンして言い放った。
「·····」
返事は来なかった。
(あれ)
肩を力みすぎて疲れた。
ノワはぶらぶらと腕を回した。
「お疲れのご様子ですね」
主に疲れたのはあなたのせいです。という返答を望んでいるのだろうか。
じろりと振り返る。
「·····ノワ様には到底及びませんが、私なりにお返しをさせていただきたいと思い」
レイゲルがすいと人差し指を立てる。
木の枝みたいに長い指だ。
ノワは思わず、自分の手を見下ろす。そしてすぐ視線を逸らした。
「本の知識で、マッサージを習得致しました」
「マッサージ?」
「ノワ様専用のマッサージ師です」
ニコニコ顔が冗談めかして言い、拳で胸を叩いてみせる。
ノワはパッと顔を輝かせてから、慌ててそっぽを向いた。
さっきまで怒ってたのにちょろい奴、なんて思われたら嫌だ。
「マッサージさせていただけますか?」
「·····」
無言で頷くノワは、興味のないふりをしている姿さえレイゲルを喜ばせていることに気づいていない。
レイゲルの知識は想像していたよりもずっと専門的だった。
老廃物の流れがどうちゃらこうちゃら、姿勢のせいで筋肉がどうでナントカ骨が云々。よく分からない説明を受けながら、部屋まで連れていかれる。
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