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《299》懐かしいペナルティー
しおりを挟む「大事にする」
きつく結んでいたリボンが溶けるみたいに、心が軽くなる。
「イアード?」
緩んだ顔でイアードを見上げたノワは、首を傾げた。
彼は不可思議そうにこちらを眺めていて、目が合うと横を向いた。
「宝石が好きなら、宝石商を呼んでいくらでも好きなのを買えばいい」
「いらない」
そういうことじゃない。
冷え冷えとした美形が、少し怪訝そうな顔をする。
「これがいいから」
どう言葉に表せば良いのか分からない。
イアードの色に似てるから。そう言ったら、彼はどんな顔をするだろう。
(嫌がられる)
そんなことは目に見えている。
イアードは自分が嫌いだ。嫌っている相手にそんなことを言われたら、気持ち悪いだろう。
「好きだから」
(あれ?)
伝えようとして考えた単語は、今無関係な二文字だった。
なぜか顔が熱くなる。
変な間が流れた。
もしかすると、随分おかしなことを言ったかもしれない。
「あ、赤が好きだから」
顔を見るのが怖い。
ノワは俯いた。
「行くぞ」
口火を切ったのはイアードだった。
21時の鐘が鳴る。ロイドとレイゲルに帰ると告げていた時間だ。
すっかり忘れていた。
氷みたいに冷たくて、恐ろしささえ感じる美貌。
逞しいのに、寂しい背中。
ノワは彼の後を追いかけた。
胸の当たりが少し苦しかった。
夜の慰みのことは、とても言えなかった。
帰ってから、ノワは案の定近衛騎士二人に小言をくらった。
御心のままにとかっていう騎士の誓いはどこへ行ったのか。やれ怪我はどうだ体調はどうだと騒ぎ立て、ついにはイアードのことまで非難し始める始末だ。
楽しすぎて約束を忘れていたと言えば、レイゲルは大袈裟に泣き真似までしてみせた。
「ノワ様、今後はペナルティをもうけましょう」
ずしり、と重い声で告げたのはロイドだ。
彼の迫力は並ではない。
学生時代を思い出す。
今度こそあの体罰を与えられるのだろうか。
「噛むのだけで許してください」
やっぱり痛いのは嫌だ。
怯えながら呟いたノワだが、それが予想もしない争いの火種となった。
「えっ噛むって何の話?」
レイゲルがロイドに問う。
「お前には関係ない」
「え、え、ちょっとタンマ。俺聞いてないよ?いつの話?どういう意味かな?ロイドお前、いつから抜け駆けした?」
節々何を言っているのか分からないが、普段穏やかなレイゲルから笑みが消えると怖い。
「ノワ様、教えていただけますか?」
振り返った彼の目は座っている。
ノワの背を悪寒が駆け抜けた。
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