303 / 342
《298》記念品?
しおりを挟むふと疑問が浮かぶ。
なんでイアードは、お酒に弱いって知ってるんだろう。
「あのさ、イアード·····」
何かの拍子に言ったのかもしれない。
ノワは質問を変えた。
「なんで、パーティや式典をしないの?」
イアードは1度、辺りを見渡した。
ノワも彼の視線を追うように、街を眺める。
大公領の皆が祝杯を上げ、国全体を盛り上げる日だ。
こんなにめでたい日なのに。
「明日は実母の命日だ」
「·····え·····」
「そこのおふたりさん!記念品はいかがですか?」
屋台から中年の男が声をかけてくる。
机の上には、アクセサリーから玩具、菓子まで様々な品物が並んでいた。
「全部、今日しか買えない品物だよ」
ノワはなんと声をかけて良いのかわからなくて、話しかけてきた屋台へ寄っていった。
実母───元皇帝の妾で、イアードの生みの母。
フィアンは、彼の母親の命日を知らなかったのだろうか。
周りの音が妙にうるさく聞こえる。先程まで心地よかったそれが、途端に騒音に変わってゆく。
彼の耳には、この音はどう聞こえていただろうか。愉快な街並みが、イアードの眼には、どう映っていたのだろうか?
ノワは懸命に机上を眺めた。
(なんで、よりによって明日?)
疑問は、不信感へと変わってゆく。
感じ取ったのは陰湿な悪意。だって、フィアンが、彼の母親の命日を知らないわけが無い。
『イアードには最低限関わるな』
二人の間に、何かあるのは知っていた。
危険だからと言い聞かせられてきた。
フィアンの言動は、いつでも正しかった。
(でも·····──)
ふと、ひとつのブローチに目が止まる。
真っ赤な宝石だ。
少しくすんでいるが、暗闇で輝くのが、どことなくイアードに似てる。
「綺麗」
見つめていたブローチが掬い取られた。
「これをくれ」
「お目が高いね!それは───」
イアードが値段よりも随分大きな硬貨を差し出す。
ギョッとした店主が何度も頭を下げるのを背後に、彼はノワを人ごみの少ない道へ導いた。
無理矢理連れてきてしまってごめんと、口の中でつぶやく。
声に出して言うには躊躇われるくらい、さっきの自分は無神経だった。
本当に知らなかったのだ。
だって、想像出来るわけない。
次々と浮かぶ言い訳も、口にすることは叶わなかった。
「やるよ」
手の中に赤を握らされる。
「いいの?」
「ずっと見てただろ」
ずっとなんかじゃない。そんなに長い間ではなかった。
彼は、自分のことを見ていてくれた。
ノワはブローチを握りしめた。
応援ありがとうございます!
16
お気に入りに追加
4,759
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる