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《298》記念品?

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ふと疑問が浮かぶ。
なんでイアードは、お酒に弱いって知ってるんだろう。


「あのさ、イアード·····」


何かの拍子に言ったのかもしれない。
ノワは質問を変えた。


「なんで、パーティや式典をしないの?」


イアードは1度、辺りを見渡した。
ノワも彼の視線を追うように、街を眺める。
大公領の皆が祝杯を上げ、国全体を盛り上げる日だ。
こんなにめでたい日なのに。


「明日は実母の命日だ」

「·····え·····」

「そこのおふたりさん!記念品はいかがですか?」


屋台から中年の男が声をかけてくる。
机の上には、アクセサリーから玩具、菓子まで様々な品物が並んでいた。


「全部、今日しか買えない品物だよ」


ノワはなんと声をかけて良いのかわからなくて、話しかけてきた屋台へ寄っていった。
実母───元皇帝の妾で、イアードの生みの母。
フィアンは、彼の母親の命日を知らなかったのだろうか。

周りの音が妙にうるさく聞こえる。先程まで心地よかったそれが、途端に騒音に変わってゆく。

彼の耳には、この音はどう聞こえていただろうか。愉快な街並みが、イアードの眼には、どう映っていたのだろうか?

ノワは懸命に机上を眺めた。


(なんで、よりによって明日?)


疑問は、不信感へと変わってゆく。
感じ取ったのは陰湿な悪意。だって、フィアンが、彼の母親の命日を知らないわけが無い。


『イアードには最低限関わるな』


二人の間に、何かあるのは知っていた。
危険だからと言い聞かせられてきた。
フィアンの言動は、いつでも正しかった。


(でも·····──)


ふと、ひとつのブローチに目が止まる。

真っ赤な宝石だ。
少しくすんでいるが、暗闇で輝くのが、どことなくイアードに似てる。


「綺麗」


見つめていたブローチが掬い取られた。


「これをくれ」

「お目が高いね!それは───」


イアードが値段よりも随分大きな硬貨を差し出す。
ギョッとした店主が何度も頭を下げるのを背後に、彼はノワを人ごみの少ない道へ導いた。

無理矢理連れてきてしまってごめんと、口の中でつぶやく。

声に出して言うには躊躇われるくらい、さっきの自分は無神経だった。

本当に知らなかったのだ。
だって、想像出来るわけない。
次々と浮かぶ言い訳も、口にすることは叶わなかった。


「やるよ」


手の中に赤を握らされる。


「いいの?」

「ずっと見てただろ」


ずっとなんかじゃない。そんなに長い間ではなかった。
彼は、自分のことを見ていてくれた。
ノワはブローチを握りしめた。











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