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《307》望み
しおりを挟むノワはしがみつくようにジョセフの服を掴んでいた。
甘えるようにすり寄せられた頬を撫で、腰を引き寄せる。
やっと、脆弱な姿を見せてくれた。
日の傾きがました頃、背に回されていた手から、力が抜けた。
「ノワ様·····」
やがて、ノワはすやすやと寝息を立てていた。
ジョセフはノワを抱き上げ、寝室へと連れていった。
「ん·····」
ベットへそっと下ろす。
導かれるように手を伸ばすが、それは寝返りを打ったノワに遮られた。
「私なら」
寝室を去り際、ジョセフはボソリと呟いた。
「決してこんな風にはしないのに」
目が覚めた時、部屋は薄暗かった。
「本日の夕食はどう致しますか?」
先に聞いてきたのはジョセフだ。
イアードと同じ席に着くのを案じてくれているらしい。ノワは笑顔を作った。
こんな思いをする原因は、全部、彼を愛した自分のエゴのせいだ。
きっとこれから何回も味わうことになる想いだ。
昇華することも消すことも出来ない。
だからその日の晩餐も、ノワはイアードと食事を共にした。
彼が望むのは、波風立たぬ友好的な関係だろう。
もちろん個人関ではない。
大公国と聖徒として。また王宮との繋がりを円滑にするために、自分との関係を破棄することは望まないはずだ。
イアードがこちらを嫌っていたとしても、軽蔑していたとしても、敵対など以ての外。形だけでも、順調な関わりを保つのが彼の望みだ。
せめて、それに応えることにしよう。
だから、今だって最悪の空気感で、ナイフとフォークを動かしている。
それなのに。
(なんで?)
おそるおそる向かいを見ると、鋭い瞳と目が合う。
彼の全意識がこっちに集中している。
ノワは咳払いした。
「あの·····イアード?」
「何が望みだったんだ?」
彼は静かな声で言った。
「言う通りにしてやるよ」
「·····え?」
望むのは、彼の安寧。
見返りなど求めていない。
本当は、あの手で、優しく抱きしめて欲しいなんて、あまりにも女々しい。
リダルだった頃のイアードが聞いたら、きっと愉快げに笑いながら馬鹿にするだろう。
けれど今の彼だったら、形だけでも自分を抱いたり、するのだろう。
そんなことを望んでるんじゃない。
ノワは席を立ち上がった。
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