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【60話】図星
しおりを挟む有無を言わせぬ物言いだ。
とりあえず、従った方が良い。千秋は言われるがまま支度を始めた。
服を着替えながら、そっと扉の向こうを覗いてみる。
ウィルの背中が見えた。
横顔もかっこいい。
目も、鼻も、口も、全てセクシーだ。アホみたいなことを考えていたら、不意に彼がこちらを振り向いた。
千秋は慌てて彼の死角に隠れた。
「チアキさん···本当に急いで下さい。全員が部屋を出るまで、ウィルさんも出られないんですから」
「ええ?!」
未だ現状を把握出来ていないが、自分の身支度がウィルにも関係しているらしい。
眠気は完全に覚まされた。
シャツを通した手を水に濡らし、髪の毛を整える。靴下を引っ張りながら片方では靴を履き、部屋を駆け回りぬがらジャケットのボタンを閉めた。
一体こんな早朝に何があるというのか。
程なくして支度が終わると、千秋はロイに続いて寮室を飛び出した。
「ごめんね」
先を行くロイに並ぼうと、必死に足を動かす。
「謝罪されたところで状況は変わらないので」
結構ですと、千秋に比べ全く涼しい顔のロイからは、容赦ない返答が来た。
会った頃から知ってはいたが、かなりの性悪毒舌だ。
「チアキさん」
色素の薄い目が、端だけでこちらを睨む。
「講義、真面目に受けてないでしょう」
「ぎくっ」
図星だ。
サッと顔を背ける。
相手はいくらか呆れたように遠くを眺めた。
「授業の終わりに、今日の贄祭について説明されたはずですよ。遅刻でもしたら、ユラン様や寮の監督生の顔に泥を塗るところでした」
朗読するような説教の内容は、刺激が強すぎる。
「どうしよう」
ロイは、ギクリとして千秋を振り返った。
黒い瞳が潤んでいる。
涙には特殊な意味があると教えたことを忘れたのだろうか。こんなところで泣き出されたら、たまったものではない。
「···いつまで歩いてるつもりですか」
「こ、これでも走って···わぁっ?!」
身体がふわりと宙に浮き、一瞬、重力から開放された。
「急ぎますよ」
慌てふためいていると、頭上からロイの声がした。
彼は千秋を軽々と姫抱きしたまま走り出した。
「ひぃっ」
咄嗟にロイの首元にしがみつく。
風のような速さだ。城門を出たロイは、転がり落ちるようにして丘を駆けた。
向かっているのは、大聖堂の方向らしかった。
「恥ずかし···」
振動のせいで震えた声が情けない。
ロイはため息混じりに千秋を見下ろした。
柔らかな頬が胸元に押し付けられる。首にまわされた腕は、小刻みに震えていた。
彼は学園に来た時からこうだった。
なんの根拠もなく自分を信頼して、頼りの綱にするのだ。酷いことしないからとか、何を根拠に言っているのか不思議で仕方ない。
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