ゴドウィン校のヴァンパイア達~望まぬ転生~

亜依流.@.@

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【72話】嘘

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ミュカは一瞬視線を泳がせた。


「え、と、僕·····」

「匂いがする。探してるんだ」


こうしている間にも、千秋の身になにか起きるかもしれない。
ミュカは「あ」と思い出したように声を上げた。


「会いました。えっと、第1中講義室の場所を聞かれたので、多分、そこにいらっしゃるんじゃ···」


しりすぼみに消える返答。数秒後、空間には褪せたため息が落とされた。


「どうして嘘つくんだ?」

「·····!」


ミュカの顔がサッと青ざめる。


「君、長い間千秋といただろ」



























どのくらい時間が経ったのだろう。
暗い部屋の中、千秋は立ち上がることも出来ずにいた。

少しでも身動きを取れば、捻挫した足首が耐え難いほどに痛みを訴える。
倉庫は、見る限り長年人の足が遠のいているようだった。

偶然誰かが見つけてくれるなんてこともなさそうだ。
外から聞こえる狼のような遠吠えに、千秋は全身が凍てつくようだった。

高い窓から見える外は、真っ暗だ。
時折、すぐ隣の森を駆ける野生動物の足音が聞こえてくる。

───ガタン、と、扉の向こうから物音がした。

全身から血の気が引いてゆく。
ガタガタと、扉が続けざまに音を立てる。
千秋は失禁してしまいそうだった。

どうせ最後が動物の餌となる運命なら、貴重だなんだと重宝してくれる吸血鬼に身を捧げればよかった。

阿呆らしいことを混乱する頭で考えるが、時は既に遅い。
バキッ、と鈍い音がして、扉が壊された。
千秋はかたく目を閉じた。

近づいてくる足跡は···──二足歩行だ。


「···──千秋」


夜風に乗って聞き覚えのある声が囁かれた。
千秋はそっと瞼を開けた。
漏れる月の光のおかげで、相手のシルエットがあらわになる。


「ジュリオ·····?」


千秋が名前を呼ぶと、彼はほっとしたように息をついた。


「なんで、ここが·····?」


そういうのは後で、と告げたジュリオは、真っ直ぐに駆け寄ってきて、目の前に跪く。


「立てる?」

「足、捻って、動けなくて···」


安心すると、そこはさらに痛みを増したように感じる。


「見せて」


美しい顔が俯かれる。
高い鼻から滑らかな影が落ちる。蒼く光る両目は、とても綺麗だった。


「左の、足首···」


ジュリオの手がそっと足首に添えられた。


「痛っ·····」

「!ごめん」


千秋は首を振った。
彼が謝る必要は無い。

不思議な吸血鬼だと思った。
彼の態度は、他の誰とも違っていた。
千秋がニンゲンだからという理由で興味を持ったのではない、唯一の存在だ。

彼にとって、自分は、何なんだろう?
ふと、そんなことを思った。
長く角張った指が、まるで壊れ物に触れるように、千秋の足を持ち上げる。







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