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🍸62.本当の自分🍾
しおりを挟む見失ってしまった。
(名前·····)
信号が点滅し始める。
すれ違っただろうか?
(どっち?)
また足踏みしてしまう。
(どっちに·····)
カラフルな人並みを眺めながら気持ちが焦った。
そろそろ見つからなければ、飛び出た気持ちが引っ込んでしまいそうだ。
何を発するのかも決める前に口を開いた時───不意に、少し強引に肩を引き寄せられた。
「───ルチアちゃん」
気がつけば赤に変わりかけていた信号から歩道へ引き寄せられる。
冷たくなった空気が纏う香りを見上げたら、彼がいた。
甘いマスクの、スッキリして精悍な瞳が見開かれるから、ミチルは思わず両手を握りしめた。
「レイさん·····」
「信号の真ん中でぼうっとして·····危ないじゃないか」
当たり前のように歩道側へ寄せられる。
向かいのショーウィンドウに二人が映る。
凄く高いヒールを履いてるのに、彼とは30センチくらい身長差がありそうだ。黒いトレンチコートがモデルのようなスタイルに合ってとても格好いい。
そして今日は、手に小さな紙袋を持っている。
見た事ある。ガラス張りの、妙に高級感あるチョコレート専門店の袋だ。
彼はチョコレートが好きなんだ。
白い前歯がチョコレートを砕いたら、どんなに特別だろうか。
知らなかった。
顔のタイプとか以前に、自分はメンクイなんだ。だから、今世紀最大級の美男子であるレイに、自然と目がいくのは変な事じゃない。やっと落ち着けた。
「気になる?」
「えっ」
びっくりして彼をみあげる。
考えていることがバレたのかと思ったが、どうやら違うらしい。
相手は手にしている紙袋をちょっと持ち上げた。
紙袋を凝視していたから、レイはこれに興味があると思ったようだった。
「受け取って」
だけど、それは受け取れない。
自分用にしてはラッピングがほどこされてる。誰かにあげるつもりだったものだ。
「これは君に、お店で会えたら渡そうと思ってた」
「甘いもの、好きでしょう」と、低い男の声が、少し甘く言う。
そして気がつくようにはにかんだ。
「昨日会ったばかりなのに、プレゼントなんて、ちょっと重いかな」
初めて誰かのところに駆け寄った。別の世界に住む、華やかな住人へ。
そしたら相手もちょうど、自分へのプレゼントを手にしていたなんて、嘘みたいな話。
何度かまばたきを繰り返してから、どんな顔をしたらいいかわからなくなる。
彼みたいな男にそんなことを言われた女性は、きっと今日イチ幸せだろう。
ロマンチックな曲が流れ出しそうな街並みだ。
レイは何も知らない。
この自分の本当の姿が、ホストにハマり、多額の売掛金を背負って複数人の男に慰みものにされていることなど。
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