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91.🍸逃げる場所🍾
しおりを挟む彼の拳に目を見開く。
「ぁ、·····!」
血が滲んでる。
こちらの視線の先に気がついたレイが、胸元から取り出したハンカチでそれを隠した。
「レイさん、」
「!」
かくりと力の抜けた脚が前のめりに倒れ込む。
しっかりと抱き止められて不覚にも安堵する。
心臓はバクバクとうるさくて、車の音が遠い。
「もう大丈夫だよ」
「なぐ、なぐったの」
混乱する頭の中で単語を見つけだすしかなかった。
「血が、死んじゃう」
「ミチル」
「!」
強く抱きしめられたら、彼の体にすっぽり収まる。
大丈夫、そう言い聞かせられて、だんだん体温が戻ってくるみたいだ。
どこからともなく黒スーツの男達がやってきて、レイへ一言二言告げる。
そして指示されるまま路地裏へと向かってゆく。
「もう大丈夫だから」
レイはまた繰り返した。
「あとは警察に任せよう」
「け、さつ?」
既に警察を呼んで、あの3人組も身柄を確保するという。
そんな事をしたら、レイが彼らを殴ったことを責められるかもしれない。
弱く、必死に首を振る。
自分のせいで彼が罪に問われるなんて耐えられない。
「警察なんてだめ·····!」
ちょっと絡まれて、尻を揉まれただけだ。
始めて見る、想像もできなかった彼の暴力的な一面に怯えながら、彼を匿うのに必死になる。
レイは一言も容赦もなく、あの男たちを殴り飛ばしたのだ。
「どこか、逃·····っ」
逃げないと。
思わず引っ張った腕は、がっしりして動かない。
「ミチル」
呼ばれて彼を見上げる。
今はそれどころじゃないと分かっているのに、赤い瞳と見つめ合うと、全てを置きさって彼しか見えなくなる。
魔力を秘めたような美男だ。
両手が肩を掴む。
「もう、何からも逃げる必要なんて無い」
(あれ·····?)
懐かしい目をしている。
(もう、逃げなくていい·····?)
そういえば、さっき───なんて呼ばれた?
「俺が守るよ」
初めてミ・カリーナと会った時とおなじだ。
不思議な感覚は、忘れていた古傷を思い出させるみたいだ。
彼の言葉には魔力がこもっている。あるいはその声や、眼差しや、美しい容姿。全てが神に愛されて、彼の言うとおりになる確信がある。
レイの車に乗り込んでその場を去った。
駆けつけたパトカーからチラと聞いた話では、彼らは麻薬の取り引きをしていたという。偶然か必然か、レイはそれを知ったのか?
真相は分からない。専属の運転士が運転するのに任せながら、しばらく隣の彼に肩を寄せていた。
彼はずっと手を握っていてくれた。
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