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1.凍える街

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  鋼のような銀髪に、野生の狼を思わせる碧眼。
筋肉質な体躯、少し驚くほど長い腕脚をオーダーメイドの最高級スーツに通した紳士は、1種のゴシップ記事に目をとめた。


" 解体危機の穂村グループ、黎刀院が買収"


通りがかる人皆が思わず振り返るほど美形な紳士だ。
部下の耳打ちに、彼はそっとため息をつく。

期待外れと言うには、もう何度も経験をし、くたびれたようなそれだ。


「やっと、貴方の全てを手に入れたと思ったのに····」


男は誰にともなく呟いた。


「もぬけの殻か」
















   冬の寒さが厳しい真夜中、街頭の下を黒猫が駆け抜けた。
何か咥えている。巣には、きっと子猫や、或いは食わせる番がいたりするのだろう。

どこか自分に似ている。

"まかない"と称した消費期限切れ廃棄の弁当を抱え、ヒカルは地面を蹴った。
靴底が破けたらしく、雪解けが染み込んだ。

煉瓦造りの建物が建ち並ぶ路地。雪は止んだが、風は氷のように冷たい。
時折寝転ぶ浮浪者が息をしているのか、今では興味がない。

早く帰って、焜炉の調子が良かったら白湯でも飲もう。
適当な理由をつけつつ、待っているパートナーのため、一身に行先を進んだ。

街灯が減ってきた。
端に生ゴミの溜まった路地をくぐって、広い道路に出る。

道路を渡った向かいの古びた建物。その端に取り付けられた小さい煉瓦倉庫みたいなのが、いまの我が家だ。

高窓からいつもより明るい光を確認したら、気分はとたんに落ち込んだ。
それから微かな怒りが込み上げる。仕方がない、醜くて大人気ない思いだと分かっていても、どうしようもないのだ。

鍵は持ち歩くことを許可されていないから、半地下の入口に向かって煩く階段をおり、無言のまま扉を叩く。
10数秒後、扉が開いて、出てきたのは明るい茶髪の青年。
今朝ぶりの恋人だった。


「ヒカル、おかえり!いま愛斗が来てるんだ」


にこやかに言って、春陽が背後を見やる。
着古してよれたロングTシャツが傾くと、床に女座りをした男が見えた。
女性が男装しているような、線の細い少年だ。

彼が来ているのなんて、明かりが漏れた窓を見ればすぐに分かる。
普段は電気代が馬鹿にならないからと渋っているからだ。


「····それじゃあ、僕、帰るね」


不機嫌が顔を出ていたらしく、愛斗はそそくさと上着を羽織り出す。
寒いから気をつけて、またねと声をかける恋人に、苛立ちが募る。声をかけられた方も愛想の良い振りをしながら、こちらを見ることは1度もなかった。

少年が消えた扉に鍵をかけ、こちらを振り返った春陽は、どこか釈然としない顔だった。


「年下の、それも恩人に対して·····あの態度は無いだろ」














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