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〖118〗お姫様
しおりを挟むクレイは、突進してきた男の武器を蹴り落とし、ついでに後頭部を蹴りあげる。
攻撃に反応できたのは生き残りなだけあるが、それでも到底脅威には及ばない。
リアムの加勢へ向かったクレイは、直後、地面を飛び上がった。
頬を風圧がかけてゆく。少し遅れてから、首元に熱が走った。
20メートル先に、黒服に身を包んだ男がいた。
仮面を被った男だ。手袋をはめた手には、腹のそれた剣を握っている。
───あの短剣を、あの距離からどうやって?
クレイはホルスターから剣を取り出した。
「·····?」
久しぶりに感じる違和感に、ふと手のひらを見つめる。
ずいぶん昔に感じたきり、なくなっていた感覚──これは、強者に会った時の興奮と、恐怖心だ。
「!」
一方、後方のクレイを振り返ったリアムは、場内の異変をいち早く察知した。
18人が参加している試合のうち、自分達を除けば敵は15人。
そのうち二人がパンドラ、他13人は眼中に無い実力者たちだ。
しかし、様子がおかしい。
その13人のうち全員が、一斉にクレイを標的としている。
彼らの中心にいるのは、仮面をつけた褐色の肌の男。
彼を、どこかで見たことがある。
「よそ見ですか?」
「!」
切り込んできた長剣を、短剣の背で流す。
「おっとぉ!」
ボルドーの枯葉が目の前で散る。
首を切り損ねた。
「急ぐのは良くないっすよ、せっかく·····」
彼は休む間もなく攻撃を繰り返した。
踊るようなステップで長剣を振り回す。
相手は笑っていた。
「アンタみたいな人と手合わせできるんだからさ」
「イカレ野郎が」
「はは!」
一度攻撃が止むと、数歩下がった彼は、流暢に礼をしてみせた。
「パンドラの狂犬、バレン・ルーチェンです。以後お見知りおきを、赤髪の───」
バレンは1度言葉を切った。
攻撃を受け止めた腕がジリジリと痛む。
「血の気が多い人っすね」
「お前らの目的はなんだ?」
2人は軋む剣を挟み、睨み合う。
「幻の財宝か?」
リアムの問いかけに、バレンは片眉を上げた。
それは肯定とも否定とも取れる表情だった。
「間違いじゃァありませんが·····そうっすねぇ、俺達が望む物は、それよりもずっと脆くて───」
バレンの剣の腹に亀裂が入る。彼はそれを予期していたように、新しい長剣を引き抜いた。
後退りざま、彼は囁いた。
「麗しい、お姫様を」
「姫·····?」
目の前で白銀がはじける。
リアムは彼が逃げた方向へ閃光弾を投げ込み、数十メートル背後へ飛び移った。
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