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12 気が付けば納得

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「私、自由に外出する事を許されて無いから……このお屋敷の中だけが今の私の世界だわ」
「俺が……俺が外に連れて行ってあげますよ!」
「そんな事……無理だわ。だって、旦那様がお許しにならないし、執事やメイドだけじゃ無くて門番の人だっているのよ? すぐに見つかってしまうわ」
「俺に任せて下さい。伊達に庭師なんてやってませんよ、良い抜け道があるんです。すぐに戻ってくればバレませんって」

 そう言って、ドニーは若奥様の手を取って崩れた塀の隙間を抜け、滅多に人が使う事の無い裏の道を抜け、平民街へと若奥様を連れ出した。
 初めての街、しかも平民街は若奥様には初めて見る物ばかりで、お屋敷では見た事の無い程の笑顔ではしゃぐ若奥様にドニーは露店で売られていた小さな綺麗な石が嵌められた腕輪を買い、若奥様に差し出す。
 「若奥様がそうやって笑っていられる様に、何時でも俺がお屋敷から連れ出してあげますから」と、そう言ってドニーは若奥様を笑顔にして守るのが自分の務めなのだと、心に決めた。



 らしいけど、そのドニー君は俺であって、俺では無いから絶対にそんなの務めたく無いわ。
 目の前でしょんぼりとしている若奥様の上記の「自由に外出する事を許されて無いから~」を聞きながら、俺は絶賛東屋に設置されているベンチの清掃作業中だ。
 バケツの中の冷たい水で雑巾を絞り、埃と砂を綺麗に拭き上げて行く。その作業で忙しい俺は物語の様に若奥様を平民街へ連れて行ってあげれる様な時間も余裕も無い。
 それよりも、あかぎれを起こした手が雑巾を絞る度に痛む方をどうにかしたい。

「この前、旦那様と社交界に行った時も、馬車から外を垣間見ただけ……領主の妻なのに、私はこの地の街も山も畑も、何も知らないまま」
「だったら、旦那様に外出したいって言ってみたらどうですか? 目的を決めて、お付きの人をちゃんと付けるとかすれば旦那様もダメとは言わないんじゃないですかね?」
「そんな……とてもじゃ無いですけど言えません……だって、旦那様は私の事を疎ましく思っていらっしゃるのに、そんな事を言ったら余計に嫌われてしまいます」
「そうですかね。案外、一緒に行くって言うと思いますよ」

 何も知らずに今の若奥様の姿を見たなら、きっと何とかしてあげなきゃって思える様な儚さがあるんだろうけど。色々とこの後の展開を知っている今現在の俺では、「ウダウダ言ってねぇで自分で行動起こせや!!」って言ってしまいたい。

 前世で物語として読んでいた時にはその姿も切なく映ってたけど、現実で見ると他力本願って言うか、事ある毎に人の迷惑顧みず相談に来る姿が前世で言う所の『相談女』みたいで辟易とする。

ん? ……相談女?

「ドニーさん?」

 訝し気な若奥様の声が聞こえるけど、今はそれどころじゃない。ベンチを拭く手を止めて今までの事を思い出す。
 やたらと相談しに来ては一緒に座れ、だとか食事しよう、だのと誘い、勝手に相談事を垂れ流しているだけなのにお礼だと言って菓子を持って来て無理やり渡そうとして来たり。今に至っては何か期待の籠った目でチラ、チラ、と俺を見ながら自分の不幸?を嘆いている。
 これ、典型的な地雷系の相談女じゃね!?

 俺がどれだけ素っ気なくしてもしつこい位にやって来て、勘違いされそうな言動を繰り返すって、そうだよな。
 しかもこれ、今思ったんだけど……若奥様、わざと俺を当て馬にしようとしてないか?
 そう思うと、今迄の若奥様の行動の意味が全て納得出来る。

 俺は前世の記憶のおかげで絶対に当て馬になんてならねぇ! っていう思いで、若奥様自体に警戒してたから大丈夫だったけど、物語の中のドニー君はそうじゃない。
 若奥様にまんまと嵌められて、立派に当て馬となって旦那様と若奥様の恋のスパイスになって散っていった。だから物語の最後、若奥様とジグゾーゼル辺境伯の思いが通じた後には綺麗さっぱり切り捨てられて、思い出しても貰えなかったんじゃ……
 おいおいおいおい、その可能性が滅茶苦茶高い気がして来たぞ……。こえぇ、女こえぇぇ。

「ドニーさん? どうしたんですか?」

 俺を気遣う様な声に顔を上げると、目の前で若奥様が胸元で指を組み小首を傾げる、という計算し尽くされたポーズで俺に微笑みかける小技を繰り出していて口の端がヒクつく。
 今までの事も、全部若奥様の策略だったって事か。下手すりゃ、俺が梯子から落ちたあの事故もワザとだった可能性もある。

 これは、絶対に負けらんねぇ! 俺はっ、絶対に当て馬にはなんねぇぞ!!

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