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14 当て馬は捨て駒でもあるらしい
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午前中頑張ったおかげで午後はそれ程忙しくもなく、その日の仕事は何時もより早く、あっさり終わってしまった。
普段なら喜び勇んで帰る所だが、今日は昼にアルフから一方的にさせられた街へ行く約束のせいで凄く憂鬱だ。
いや、別に俺は承諾してねぇし帰ってもいいよな。なんの目的で街に行くのか聞いてねぇし、それなのに俺がわざわざ付き合う理由なんて無いし。
……でもなぁ、毎日昼飯持って来てくれてるし……何度か若奥様から逃げるのに利用させて貰ったし……口は悪いけど、そこまで悪い奴じゃねぇし……
裏門の脇でしゃがんで地面に転がっている小石を指で弾きながら、俺はそんな事をツラツラと考えていた。
早く仕事が終わった俺が裏門に行けば当然まだアルフは来てないし、気にせず帰ればいいと思うのに、どうにも裏門を通るのに躊躇してしまってこの有様だ。
大体、アイツの言う仕事終わりって何時だよ。俺とアイツじゃ仕事が終わる時間は違うっていうのに、曖昧な約束してんじゃねぇよ。
「あれ? お前、庭師の小間使いじゃねぇか。こんな所でなにしてんだよ」
誰かの声と同時に俺の上に影が掛かる。暗くなった視界に顔を上げると、厳つい顔のオッサン、確か……馬丁の人だったか? 庭と厩って繋がってるから顔を合わせる事がたまにあるから知ってる。
「俺、小間使いじゃ無くって庭師見習いなんすけど。今は、ちょっと時間潰してるだけなんで」
「小間使いも見習いも似たようなもんだろ。しかし、こんな所で時間潰してるって。お前、もっと違う所で時間潰せよ。ん? もしかして、若奥様を待ってるとかじゃねぇだろうな。最近、毎日若奥様と庭で会ってるだろ。お前、もさいくせにやるなぁ」
「はぁ!? 違うし! そんな訳ねぇだろうが!」
今一番言われたく無い事を言われて、思わず乱暴な言葉遣いで否定してしまった途端、スパーンと頭頂部を叩かれた。
「いっで!」
「目上の人間に対する口がなってねぇんだよ! 俺はよぉ、心配して言ってやってんだぞ? 領主様の妻に横恋慕なんざ、とんだ命知らずだからな。で? 実際どうなんだよ」
心配してる、とか言いながら顔がニヤニヤしてて面白がってるのが丸分りだ。そりゃぁ傍からすりゃ、お屋敷の主の妻と庭師の下男の色恋沙汰なんて酒の肴に持って来いの醜聞だもんな。
「ご期待に添えなくて申し訳無いけど、そんなんじゃねぇっすよ。俺は若奥様にそんな気は一切無いし、若奥様は旦那様の事を誰かに話したいだけで、色恋とかは微塵も無いんで。寧ろ早く旦那様と仲睦まじくなって貰わないと、俺仕事しづらいんすよ。俺、土仕事してんのにずーっと隣で小綺麗なドレス着た人がいるんすよ? もし汚したら……なんて思ったら土も耕せねぇ」
「はー? 何だそれ。本当に何も無いのか? ちょっと位意識したりとかねぇの? 手と手が触れて……とかよ」
「何言ってるんすか?」
このオッサン、顔に似合わず発想が乙女趣味なんだけど。
俺のドン引いた顔に気が付いたのか、慌てた様に「近頃の若者の好みに合わせただけだろうが!」とか何とか言ってて余計に引いた。必死かよ。
「ま、まぁ、お前じゃ確かに無理だわな! 蛙みてぇな顔した男に若奥様が靡く訳がねぇ」
照れ隠しか誤魔化しか、馬丁のオッサンはしゃがんでる俺の横に来て、覆いかぶさる様に腕を頭に乗せて来やがった。
誰が蛙顔だ! 俺の口がデカいからって、似て無いわ!?
「だから、若奥様もお前を選んで愚痴を吐き出しに行ってんだろうな。お前相手じゃ、若奥様の心が動く事は絶対に無いって誰が見ても分かるからな。若奥様も上手い事人選んでんなぁ。フハハハハハ」
ああ、なるほど。当て馬にするにしても、何で俺なんだろうと思ってたけど、なるほどな。俺が相手だと、周りから見れば俺が一方的に若奥様に恋慕してるだけに映るからか。
馬丁のオッサンから出た言葉がずっと俺の中で疑問だった所にストンと落ちた。
なるほど! 俺ってばすっげぇ丁度いい存在だったって事だな。いなくなっても困らないし心も痛まない存在。それがドニー君! 悔しいけど納得したわ!
スッキリした半面、その事実にガックリと肩が落ちる。
ドニー君、可哀想~。
普段なら喜び勇んで帰る所だが、今日は昼にアルフから一方的にさせられた街へ行く約束のせいで凄く憂鬱だ。
いや、別に俺は承諾してねぇし帰ってもいいよな。なんの目的で街に行くのか聞いてねぇし、それなのに俺がわざわざ付き合う理由なんて無いし。
……でもなぁ、毎日昼飯持って来てくれてるし……何度か若奥様から逃げるのに利用させて貰ったし……口は悪いけど、そこまで悪い奴じゃねぇし……
裏門の脇でしゃがんで地面に転がっている小石を指で弾きながら、俺はそんな事をツラツラと考えていた。
早く仕事が終わった俺が裏門に行けば当然まだアルフは来てないし、気にせず帰ればいいと思うのに、どうにも裏門を通るのに躊躇してしまってこの有様だ。
大体、アイツの言う仕事終わりって何時だよ。俺とアイツじゃ仕事が終わる時間は違うっていうのに、曖昧な約束してんじゃねぇよ。
「あれ? お前、庭師の小間使いじゃねぇか。こんな所でなにしてんだよ」
誰かの声と同時に俺の上に影が掛かる。暗くなった視界に顔を上げると、厳つい顔のオッサン、確か……馬丁の人だったか? 庭と厩って繋がってるから顔を合わせる事がたまにあるから知ってる。
「俺、小間使いじゃ無くって庭師見習いなんすけど。今は、ちょっと時間潰してるだけなんで」
「小間使いも見習いも似たようなもんだろ。しかし、こんな所で時間潰してるって。お前、もっと違う所で時間潰せよ。ん? もしかして、若奥様を待ってるとかじゃねぇだろうな。最近、毎日若奥様と庭で会ってるだろ。お前、もさいくせにやるなぁ」
「はぁ!? 違うし! そんな訳ねぇだろうが!」
今一番言われたく無い事を言われて、思わず乱暴な言葉遣いで否定してしまった途端、スパーンと頭頂部を叩かれた。
「いっで!」
「目上の人間に対する口がなってねぇんだよ! 俺はよぉ、心配して言ってやってんだぞ? 領主様の妻に横恋慕なんざ、とんだ命知らずだからな。で? 実際どうなんだよ」
心配してる、とか言いながら顔がニヤニヤしてて面白がってるのが丸分りだ。そりゃぁ傍からすりゃ、お屋敷の主の妻と庭師の下男の色恋沙汰なんて酒の肴に持って来いの醜聞だもんな。
「ご期待に添えなくて申し訳無いけど、そんなんじゃねぇっすよ。俺は若奥様にそんな気は一切無いし、若奥様は旦那様の事を誰かに話したいだけで、色恋とかは微塵も無いんで。寧ろ早く旦那様と仲睦まじくなって貰わないと、俺仕事しづらいんすよ。俺、土仕事してんのにずーっと隣で小綺麗なドレス着た人がいるんすよ? もし汚したら……なんて思ったら土も耕せねぇ」
「はー? 何だそれ。本当に何も無いのか? ちょっと位意識したりとかねぇの? 手と手が触れて……とかよ」
「何言ってるんすか?」
このオッサン、顔に似合わず発想が乙女趣味なんだけど。
俺のドン引いた顔に気が付いたのか、慌てた様に「近頃の若者の好みに合わせただけだろうが!」とか何とか言ってて余計に引いた。必死かよ。
「ま、まぁ、お前じゃ確かに無理だわな! 蛙みてぇな顔した男に若奥様が靡く訳がねぇ」
照れ隠しか誤魔化しか、馬丁のオッサンはしゃがんでる俺の横に来て、覆いかぶさる様に腕を頭に乗せて来やがった。
誰が蛙顔だ! 俺の口がデカいからって、似て無いわ!?
「だから、若奥様もお前を選んで愚痴を吐き出しに行ってんだろうな。お前相手じゃ、若奥様の心が動く事は絶対に無いって誰が見ても分かるからな。若奥様も上手い事人選んでんなぁ。フハハハハハ」
ああ、なるほど。当て馬にするにしても、何で俺なんだろうと思ってたけど、なるほどな。俺が相手だと、周りから見れば俺が一方的に若奥様に恋慕してるだけに映るからか。
馬丁のオッサンから出た言葉がずっと俺の中で疑問だった所にストンと落ちた。
なるほど! 俺ってばすっげぇ丁度いい存在だったって事だな。いなくなっても困らないし心も痛まない存在。それがドニー君! 悔しいけど納得したわ!
スッキリした半面、その事実にガックリと肩が落ちる。
ドニー君、可哀想~。
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