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56.父と子(ルイ視点)

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ディアルドの瞳がじっとルイを捉えている。

「はい。不甲斐ない話ですが、戦場で致命傷を追いドグライアスの地下牢で拘束されていた時にある魔族に助けられました。」

「…魔族から輸血を受けたそうだな。」

あまり感情の読めないディアルドだが、今は怒りを纏っている。

やはり血に拘るか…。

「はい。コウモリ魔族から2回受けました。彼のおかげで一命を取り留めたのです。」

ルイも毅然とした態度でディアルドと向き合った。

ディアルドは左手を眉間に当て、ため息を付いた。

「そうか。敵である魔族から施しを受けるなどお前は聖騎士師団長としてもクラウド公爵家としても恥だな。そこまでして生き長らえたかったか。」

冷たい瞳と言葉にさらに緊張が高まる。

「…はい。私はこの戦争を終わらせるためなら何度でも立ち上がります。それが恥だと言われる方法だとしても。魔族の血が流れ、剣を握れなくなった以上聖騎士団からは退団しますし、どんな処分でも受け入れます。ただ、魔族に助けてもらった事は恥だとは思いません。」

「ふん、開き直りか。」

ディアルドは腕を組み蔑むようにルイを見た。

「お前はの処遇はアスディア国王が下すだろう。
まあ、聖騎士団は確実に退団になるがな。」

ディアルドは立ち上がり部屋を出ようとする。
ルイはベッドから立ち上がりディアルドを呼び止めた。

「総括司令官、いや、父上。
母上の無念を晴らせず申し訳ありませんでした。私の弱さ故、魔族に捕縛され魔王との戦いにも敗れました。…ご期待に応えられず、弱い息子で申し訳ありません。」

ルイは深々と頭を下げる。
今回の事で改めて自分の弱さを痛感した。生きて帰ってきたことを恥だとは思わないが、やはり自分に期待し育ててくれた父には申し訳ない気持ちとやり切れない気持ちでいっぱいだった。

おそらくクラウド公爵家からは除名され勘当される。
そう覚悟を決めた時、ディアルドに体を起こされ抱きしめられた。

「総括司令官としてもクラウド公爵家当主としても魔族に施しを受けたお前を許すことはできないが、ルインハルトの父として、お前が無事に帰ってきてくれて心から安堵した。
私もお前を助けた魔族には感謝してもしきれない。妻のようにお前まで失うのではないかと恐ろしかった。
生きて戻ってきてくれてありがとう。
お前は今も私の自慢の息子だ。」

父の意外な言葉にルイは目を丸くした。
大きな手がルイの背中をぽんぽんと叩く。
こんな風に抱擁されたのは初めてではないだろうか。
いや、きっとルイが生まれた時から厳しく不器用ながら愛情を注いでくれていた。それは今も変わらず。

私はいつも気付くのが遅いな…。

ルイは心底自分の愚かさに情けなくなる。

父の背中に手を回し、「ありがとう、父さん。ごめん。」とポツリと言った。




そしてディアルドはルイの部屋から退室した。
外にはクラウド公爵家に長年仕えてきた執事のジョゼフが控えていた。

「もっとゆっくり父子の時間を過ごしたらどうですか?あなた方は会話が少なすぎます。」

「十分だ。まだ仕事が残っている。」

そう言って歩き出したディアルドの後をジョゼフが追う。

ルイが戻ってきた日、屋敷にいたディアルドは何度もルイの部屋に訪れ、意識の戻らない息子に声をかけていた。
意識が戻ったと聞いた時は、移動に3日かかる隣国で仕事をしていたが寝ず食べずでたった1日で戻ってきた。
ディアルドは怒っていたのではなく、寝不足と疲労で怒っているようにみえただけなのだ。

こんなに家族思いなのに、強面の顔と竜人の変なプライドと極度な口下手のせいで家族には全然伝わっていない。

そういえば昔、ディアルドに輸血が必要になった時、家族には「純血のためだ」と言って拒否した事があった。
しかし家族が席を外すと小さな声で「体に針なんかさせるか」と子供のような事を言っていた。
実際にディアルドが嫌だったのは『純血でなくなる事』ではなく注射針だったのだ。

ジョゼフは「本当に不器用な人だ」と微笑んだ。
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