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もうなかない

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 儚い見た目と同じように、静かな人だと思っていた。
 そのミリヒが、ぼろぼろと泣きながらおれに愛を乞うなんて、想像もしてなかった。
 踏ん切りがついたら、思いっきり片思いしようって、そう思っていたのに。

「うれしい」

 だから、傷で動きにくいけど、精一杯伸び上がってミリヒにすり寄った。

「ジュタ?」
「すっきり踏ん切りがついたら、おれから言おうと思ってたんだ……だから、嬉しい……」

 傷に障らないようにって、必死におれを抱き留めてくれるミリヒの唇に、噛みついた。
 涙の味。
 温かくて柔らかい唇。
 はむって噛んで放したら、ぎゅって抱きなおされて後頭部を抑え込まれて、激しいキスになだれ込んだ。
 ミリヒの舌がおれの口の中を暴れまわる。
 唾液が流し込まれて、唇を吸われて、声も呼吸も飲みこまれた。
 待って、待って、苦しい!
 痛い!
 傷が痛くてミリヒの背中をたたいて訴える。
 唇が離れるとき、ちゅぱって音がした。

「痛いよ、ミリヒ」
「ごめん……ちょっと暴走した……嬉しすぎて……」

 普段はいかにも妖精族ですって涼しい感じだから、こんなミリヒは初めてで嬉しい。

「ミリヒ、かわいい。続きは、また今度、な」
「また、暴走したらごめん」
「男では初めてだから、お手柔らかにお願いします」
「ジュタ! どうしてそう、わざわざ!」

 俺を抱きかかえて悶絶する様は、妖精族にはあるまじき姿なんだろうけど、すごくかわいい。

 何度も世界を行き来して、流されて失って、どうしようもなく寂しくて。
 でも。
 
 なあ、『世界』。
 おれが祈るだけでご機嫌になるなら、いくらでも祈ってやる。
 だから今度は……今度こそは、おれが幸せになってもいいだろ?
 見たことも感じたこともない相手だけど、たぶん、ミリヒとの幸せは叶えてもらえると思うんだ。
 だって、ミリヒは『世界の守人』だからさ。

 優しい腕に抱きしめられて、おれはもう過去の夢を見て泣くことはないんだろうなって、ほっと息をついた。



end


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