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17 あなたを探して
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注意⚠️ 触手のような表現があります。苦手な方は注意してください
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日曜の異邦人で賑わうフィーアの街を、ヴァイスを探して彷徨い歩く。ローブに切り取られた視界から覗く街ではまだ魔導士探しが流行っているらしい。フードをしっかりと被って移動しながら、俺の思考は先ほどまでの会話を反芻していた。
今日は休みと聞いていたから、ヴァイスは詰所にいるだろうかと訪ねてすぐに俺は衛兵さん達に囲まれた。入り口にいる人にヴァイスのことを聞こうとしたらあれよあれよという間に囲まれてしまったのだ。みんな興味深そうに俺を見て、口々にヴァイスのいいところをアピールしていく。さながらプレゼンのような怒涛の勢いだった。
それらが次第に脱線し、モテるのが羨ましいだの賭けに負けて悔しいだの、解毒薬が美味しかったありがとうヴァイスでなく俺と付き合わないか?だのと矢継ぎ早に紡がれる。お付き合いの申し入れだけはしっかりとお断りした。さてどうしたものかと戸惑ってる中で、後ろからした聞き覚えのある声を耳が拾って思わずその人の服を鷲掴んだ。
昨日ヴァイスに声をかけてた人。多分よく一緒に巡回してるその人は俺に掴まれたことに驚いていたけれど、俺の「ヴァイスがどこにいるか知ってますか」という質問に快く答えてくれた。フードで隠れてて顔はわからなかったけど。声が笑ってたから少なくとも悪い印象は与えてない、はず。
周りの衛兵さんに本当に見分けがついてるんだなと感心されたけど、わかるのはヴァイスだけとちゃんと訂正はした。声だけなら聞き覚えがあるから、何人かは話したこともあるんだろうけど。
顔も名前も知っているのはヴァイスだけ。
よく見えないながらに目を合わせてそう返した俺に、ヴァイスとよく一緒にいる人は苦笑いしながら「あいつをよろしくな」と言って送り出してくれた。後ろでまだプレゼンをしたそうな人たちが大勢いたけど、恋仲の邪魔をすると蹴られるぞって押し戻すおまけ付きで。こっちにもそういう言い回しあるんだ。それともゲームだからなのかな。そもそも恋仲じゃないんだけど、どうなんだろ。
あの人はヴァイスが東の森にいるかもと言っていた。すれ違いにならないように街の中を確認しながら門を潜って森へと足を伸ばす。いつもと曜日は違うけれど、ヴァイスは休みの時はこのぐらいの時間に森に行くらしい。偵察隊にとっては巡回と鍛錬を兼ねた散歩みたいなものなんだって。
その時に一輪だけ、大事そうに花を摘んで帰ってくるとこっそり教えてくれた。普段の俺がログインするよりも早い時間。いつもそうやってお花を用意してたのかな。ログインした時には裏庭にいないから、多分ヴァイスは裏庭まで足を運んでお花を置いて一度詰所に戻ってるんだよね。わざわざ戻らなくてもいいのに。ずっと待っててくれてもいいのに。
そこまで考えたところで思考を止める。身勝手すぎる願いだと、そう思ったから。俺の我儘でヴァイスの都合を決めるなんて、そんなことしちゃ駄目だ。
ぎゅ、とローブを掴む。身体の調子はいいのに、少しずつ積み重なった不安が波のように押し寄せては引いて思考が揺らめく。お守りのピアスはここにはない。胸につっかえた何かがどんどん大きくなって息が詰まりそうになる。
願えばきっとヴァイスは叶えてくれる。無理をしてでも。だからこそ俺は願ってはいけない。それなのに、ヴァイスに会いたい。
昨日ヴァイスを主人と認めたのに。いや、認めたからこそ、会って抱きしめてほしい気持ちが募る。抱きしめられて、あの体温に触れて、この不安も溶けてなくなってくればいいのに。そう考える自分が嫌で、自責の念と subの性質 の波に揉まれて苦しい。
ふらつく足に力が入らなくて、いつの間にか辿りついた森の端で蹲る。寄りかかった木の幹がカサついて痛い。耳に触れた手にはただ皮膚の感触だけが残った。不安が押し寄せる、呼吸が乱れる。息が、詰まる。
大きな波に飲み込まれそうになったその瞬間、何かに足を掴まれて俺は暗い穴の中に引き摺り込まれた。
カツン、と小石が落ちた音で意識がはっきりとする。乱れていた呼吸はそのままに、突然訪れた緊急事態に思考だけが嫌に静かに凪いだ。
ずるりと蠢く何かに足と掴まれている。足だけでなく、腕や胴にも伸びてきたそれを確認しようと思うよりも先に口が呪文を唱えていた。
「『光よここへ』!」
照らされた灯りの下で見えたのは蔦植物。でもそれが一瞬で光に伸びて包み飲み込んだことで俺はその正体を悟った。植物系の魔物、しかも魔力を吸収して成長するタイプのやつ。
再び暗くなった視界を閉じて、冷静さを取り戻した頭で必死にギードさんに見せてもらった図鑑の内容を思い出す。確かこのタイプの魔物は森にはいないはずだ。異邦人か行商の荷物に種子が紛れてたのかもしれない。弱点は火だけど俺が掴まれてるから燃やすのは駄目だとして、打てる手は。
「ひ、ぅあ」
絡みついた蔦がぬるりと服の隙間に潜って蠢く。そういえば火に弱いけど燃えないように粘液で身を守ってるとか書いてあった気がする。肌を這う蔦が触手みたいで気持ち悪い。AWOって年齢制限は15歳以上のはずなんだけど、こんな生物いていいの。
ズボンに潜り込んだ蔦がぺたりとした下半身を這っていく。アバターの年齢を下げたから未成年仕様になっててよかった。何もよくないけど。登録時のアカウントの年齢はもちろんだけど、見た目年齢も性的なあれこれの規制の基準になっているらしくて俺の下半身には何もついていない。だからといって気持ち悪さが減るわけでもないから早くどうにかしたい。
どんどん吸われるMPに次第に力が入らなくなっていく。MPがなくなったらどうなるんだっけ?体力も消費されて死に戻るのかな。もしかして最近この辺りの魔物が農園に出たりしてたのってこれが原因だったりして。可能性は高そう。腕にも巻き付いてるからマジックポーションも出せない。静かな思考は焦りに支配されて何も浮かばず、呼吸がまた乱れ始める。
一抹の望みをかけて魔法を唱えるも、MPが足りなくて威力が出なかった。何もできない。力が入らなくて暗い視界がぐらつく。気持ち悪い、怖い、さむい__さびしい。
薄れゆく意識の中で、ヴァイスの声が聞こえた気がする。あなたは来ちゃ駄目だよ。死に戻りできないんだから。俺を助けなくていいから、拠点で抱きしめてくれればそれで。
こんな時にでも自分勝手な願いに自嘲して、俺の視界は暗く閉ざされた。
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日曜の異邦人で賑わうフィーアの街を、ヴァイスを探して彷徨い歩く。ローブに切り取られた視界から覗く街ではまだ魔導士探しが流行っているらしい。フードをしっかりと被って移動しながら、俺の思考は先ほどまでの会話を反芻していた。
今日は休みと聞いていたから、ヴァイスは詰所にいるだろうかと訪ねてすぐに俺は衛兵さん達に囲まれた。入り口にいる人にヴァイスのことを聞こうとしたらあれよあれよという間に囲まれてしまったのだ。みんな興味深そうに俺を見て、口々にヴァイスのいいところをアピールしていく。さながらプレゼンのような怒涛の勢いだった。
それらが次第に脱線し、モテるのが羨ましいだの賭けに負けて悔しいだの、解毒薬が美味しかったありがとうヴァイスでなく俺と付き合わないか?だのと矢継ぎ早に紡がれる。お付き合いの申し入れだけはしっかりとお断りした。さてどうしたものかと戸惑ってる中で、後ろからした聞き覚えのある声を耳が拾って思わずその人の服を鷲掴んだ。
昨日ヴァイスに声をかけてた人。多分よく一緒に巡回してるその人は俺に掴まれたことに驚いていたけれど、俺の「ヴァイスがどこにいるか知ってますか」という質問に快く答えてくれた。フードで隠れてて顔はわからなかったけど。声が笑ってたから少なくとも悪い印象は与えてない、はず。
周りの衛兵さんに本当に見分けがついてるんだなと感心されたけど、わかるのはヴァイスだけとちゃんと訂正はした。声だけなら聞き覚えがあるから、何人かは話したこともあるんだろうけど。
顔も名前も知っているのはヴァイスだけ。
よく見えないながらに目を合わせてそう返した俺に、ヴァイスとよく一緒にいる人は苦笑いしながら「あいつをよろしくな」と言って送り出してくれた。後ろでまだプレゼンをしたそうな人たちが大勢いたけど、恋仲の邪魔をすると蹴られるぞって押し戻すおまけ付きで。こっちにもそういう言い回しあるんだ。それともゲームだからなのかな。そもそも恋仲じゃないんだけど、どうなんだろ。
あの人はヴァイスが東の森にいるかもと言っていた。すれ違いにならないように街の中を確認しながら門を潜って森へと足を伸ばす。いつもと曜日は違うけれど、ヴァイスは休みの時はこのぐらいの時間に森に行くらしい。偵察隊にとっては巡回と鍛錬を兼ねた散歩みたいなものなんだって。
その時に一輪だけ、大事そうに花を摘んで帰ってくるとこっそり教えてくれた。普段の俺がログインするよりも早い時間。いつもそうやってお花を用意してたのかな。ログインした時には裏庭にいないから、多分ヴァイスは裏庭まで足を運んでお花を置いて一度詰所に戻ってるんだよね。わざわざ戻らなくてもいいのに。ずっと待っててくれてもいいのに。
そこまで考えたところで思考を止める。身勝手すぎる願いだと、そう思ったから。俺の我儘でヴァイスの都合を決めるなんて、そんなことしちゃ駄目だ。
ぎゅ、とローブを掴む。身体の調子はいいのに、少しずつ積み重なった不安が波のように押し寄せては引いて思考が揺らめく。お守りのピアスはここにはない。胸につっかえた何かがどんどん大きくなって息が詰まりそうになる。
願えばきっとヴァイスは叶えてくれる。無理をしてでも。だからこそ俺は願ってはいけない。それなのに、ヴァイスに会いたい。
昨日ヴァイスを主人と認めたのに。いや、認めたからこそ、会って抱きしめてほしい気持ちが募る。抱きしめられて、あの体温に触れて、この不安も溶けてなくなってくればいいのに。そう考える自分が嫌で、自責の念と subの性質 の波に揉まれて苦しい。
ふらつく足に力が入らなくて、いつの間にか辿りついた森の端で蹲る。寄りかかった木の幹がカサついて痛い。耳に触れた手にはただ皮膚の感触だけが残った。不安が押し寄せる、呼吸が乱れる。息が、詰まる。
大きな波に飲み込まれそうになったその瞬間、何かに足を掴まれて俺は暗い穴の中に引き摺り込まれた。
カツン、と小石が落ちた音で意識がはっきりとする。乱れていた呼吸はそのままに、突然訪れた緊急事態に思考だけが嫌に静かに凪いだ。
ずるりと蠢く何かに足と掴まれている。足だけでなく、腕や胴にも伸びてきたそれを確認しようと思うよりも先に口が呪文を唱えていた。
「『光よここへ』!」
照らされた灯りの下で見えたのは蔦植物。でもそれが一瞬で光に伸びて包み飲み込んだことで俺はその正体を悟った。植物系の魔物、しかも魔力を吸収して成長するタイプのやつ。
再び暗くなった視界を閉じて、冷静さを取り戻した頭で必死にギードさんに見せてもらった図鑑の内容を思い出す。確かこのタイプの魔物は森にはいないはずだ。異邦人か行商の荷物に種子が紛れてたのかもしれない。弱点は火だけど俺が掴まれてるから燃やすのは駄目だとして、打てる手は。
「ひ、ぅあ」
絡みついた蔦がぬるりと服の隙間に潜って蠢く。そういえば火に弱いけど燃えないように粘液で身を守ってるとか書いてあった気がする。肌を這う蔦が触手みたいで気持ち悪い。AWOって年齢制限は15歳以上のはずなんだけど、こんな生物いていいの。
ズボンに潜り込んだ蔦がぺたりとした下半身を這っていく。アバターの年齢を下げたから未成年仕様になっててよかった。何もよくないけど。登録時のアカウントの年齢はもちろんだけど、見た目年齢も性的なあれこれの規制の基準になっているらしくて俺の下半身には何もついていない。だからといって気持ち悪さが減るわけでもないから早くどうにかしたい。
どんどん吸われるMPに次第に力が入らなくなっていく。MPがなくなったらどうなるんだっけ?体力も消費されて死に戻るのかな。もしかして最近この辺りの魔物が農園に出たりしてたのってこれが原因だったりして。可能性は高そう。腕にも巻き付いてるからマジックポーションも出せない。静かな思考は焦りに支配されて何も浮かばず、呼吸がまた乱れ始める。
一抹の望みをかけて魔法を唱えるも、MPが足りなくて威力が出なかった。何もできない。力が入らなくて暗い視界がぐらつく。気持ち悪い、怖い、さむい__さびしい。
薄れゆく意識の中で、ヴァイスの声が聞こえた気がする。あなたは来ちゃ駄目だよ。死に戻りできないんだから。俺を助けなくていいから、拠点で抱きしめてくれればそれで。
こんな時にでも自分勝手な願いに自嘲して、俺の視界は暗く閉ざされた。
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