跪いて手をとって

宵待(よいまち)

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18 5人目のあなた

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 初めてそれを自覚したのは15歳の時。

 家で萩原と高校受験の結果を確認して、ふたりとも受かったことに喜んだ萩原が嬉しさのあまり勢いで抱きついてきた。親しい相手からのスキンシップは嫌いじゃない。でも一緒に高校に行ける喜びと同時に浮かんだ物足りなさが、それを意識するきっかけだった。抱きつかれるより、抱きしめるより、抱きしめられたい。特にすっぽりと包まれるように抱きしめられるのが好き。

 switchというダイナミクスを持つ俺が、domよりもsubとしての性質が強いのだとわかった瞬間だった。

 そこから萩原と相談して、俺たちは婚約者という関係を解消した。正確には許嫁。親同士が仲が良くて「もし同い年だったら」なんて軽い口約束で結ばれた関係で、当人たちがなんか違うと意見が一致したのだ。双方の同意のもと円満に婚約は解消されたので今はもうただの幼馴染でいいだろう。



 その次に、初めてできた恋人は高校の先輩。ひとつ上の学年のdomの男で向こうから告白された。同性との恋愛も珍しくない時代だ。背の高い人で、すっぽり抱きしめられたいという条件を満たしてくれそうだったから付き合った。
 しばらくして俺が相手をそれなりに好きだなと思い始めたところで、萩原との関係を聞かれた。その頃はまだ萩原のことを名前で呼んでて、好きな相手からの「自分以外を名前で呼ばないでほしい」ってお願いに俺は戸惑いながらも頷いた。好きな人には笑っててほしいから。喜ぶ顔が見たいから。

 彼の束縛が強いと感じたのはそのすぐあと。少しずつ増えていく禁止令と閉塞感が息苦しくて、でも好きな人に嫌われたくなくていうことを聞いていた。お祖母様からもらってお守りにしていたピアスを捨てるよう言われた時にようやく俺は抵抗をして、喧嘩になって、俺から別れを切り出した。禁止令はもうないのに何かがつっかえたように息が詰まって、今もまだ萩原を名前で呼べないでいる。



 2人目はnormalの同級生。先輩と別れて傷心していた頃に仲良くなって、学年が変わる頃に告白された。俺も同じ気持ちだったから頷いて、上手く付き合えてると思ってたけど重いから別れてと告げられた。domとしてなのかsubとしてなのかはわからないけれど、俺は尽くしすぎる傾向にあるらしい。相手が喜ぶ顔が見たくてした行動が重いと切り捨てられた。その頃には背も高くなっていて、小さかった君が可愛くて好きだったのにとも言われたっけ。

 無くなったはずの禁止令と、重いと切り捨てられた相手を思った行動。俺はどうするのが正解なのかわからなくなっていた。



 3人目はdomの先輩。同じ委員会で一緒に行動してる時に告白されて、返答に困ってたら「急がなくていい」と言われた。俺がsubdropで廊下に蹲ってる時に助けてもらって、優しいところに惹かれて返事をした。優しい人だと思ってた。でも次第にコマンドがエスカレートしていって、気付けばプレイがただの暴力に変わっていた。抵抗したら「可愛げがない」と言われ、「subはこういうのが好きなんだろ」と押し倒されて、殴られて。俺の方がランクが上だったから、無理やりdomに切り替えて威圧を浴びせて逃げた。



 4人目、と言ってはいいかわからない。暴力から逃げた先が所謂そういうことの相手を探す場所で、知らないおじさんに腕を掴まれてホテルに連れて行かれそうになったところを助けてくれた。髪色は反対だけど、顔立ちはちょっとだけヴァイスに似てる適当な性格の人だった。面倒ごとはごめんだとか言いながら動けなくなった俺を自分の家まで連れ帰って、怒りながら手当てしてくれた変なやつ。
 手つきは大雑把なのに優しくて、淹れてくれたカフェオレがあたたかくて。なんでかわからないけど、気付いたら俺は今まで溜まってた不安や愚痴を吐き出していた。あの人は「へー」とか「ふーん」とか聞いてるかわからないような適当な返事をするのに、最後に「つまりお前が愛情深いってことなんじゃねえの」って頭を撫でてきた。「愛情深いから、適当に付き合った奴にも愛情を持つようになるし悩んであげれるんだろ」って、その言葉が意外で、予想してなくて、鱗の代わりに落ちた涙がしょっぱかった。

 それからなんとなく連絡先を交換して、いい加減なあの人の世話を焼いたり焼かれているうちになんとなくパートナーになった。とは言ってもプレイは「名前呼んで」とか「それとって」とかそういうので、性的なことは一切ない今までで一番健全な関係。未成年に手を出す趣味はないって言ってたけど、多分俺もあの人も付き合うかと言われても首を傾げるくらいには違う気がしてたからだと思う。
 兄貴分みたいな立ち位置だった。でも「琥珀ちゃんは寂しがりやだからな」って笑いながら雑に頭を撫でる手とか、たまに泊めてもらった時の背中に感じる体温がひどく沁みて。両親が家を空けがちで、就職したばかりの姉さんが忙しくしていた頃の俺には、あの体温はきっと必要なものだった。

 受験シーズンが始まった頃に突然と「仕事でしばらく海外に行ってくるわ」と連絡があった。メッセージアプリに送られたその一言を最後に音沙汰がない。あの人、今は何してるんだろう。



 思い返せば碌な付き合いがなくて、我ながら男運がないと思う。でも、それがあったから今の俺がいると言えば聞こえはいいだろうか。こんな俺でも、ヴァイスは好きでいてくれるかな。幻滅されちゃうかな。こんなに迷惑をかけてたら流石に嫌われたかも。

 ねえ、ヴァイス。あなたは俺のことどう思ってるの。
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