31 / 34
31 確認は大事
しおりを挟む
ワンチャン手を出してもらえるかなという俺の思惑は失敗に終わった。
それっぽい雰囲気に持ち込めばいけると思ったんだけど。どうやらバレていたらしい。眉を下げたヴァイスに「今日はもう絶対に手を出さないよ」と釘を刺されてしまった。俺って顔に出やすいのかな。困らせたいわけじゃないし、潔く諦めよう。
「あなたから俺と同じ香りがしたら気分良いっていうの、嘘じゃないからね」
「それは疑ってないから安心して」
膝の上に乗り上げたままの俺の頬に、宥めるようにヴァイスがキスを落とす。そのぐらいの接触ならしてもいいんだ。香りが移るようにすり寄れば、少しだけくすぐったそうな声。丸めた背中に添えられた手があたたかくて、落ち着いている心拍に今なら言えるかなと口を開く。
「俺はまだ、ちょっと疑ってるから」
あなたが俺を好きなこと。小さくてかわいい、女の子じゃなくていいのかってこと。いつかあなたが本当に待ってた人が現れた時に、この手を離さないって約束を後悔しないかとか。
ヴァイスの顔は見れない。肩に額を押し付けて、できるだけ冷静に言葉を紡ぐように口を動かす。しつこすぎて、それこそ嫌われるかもなんて。そう考えてる時点で目の前のdomを信じてないのだと嫌でも自覚する。
「“大切にしたいって“、前にも言われたことあるよ。……俺を利用したかっただけで、俺のことなんか好きじゃなくて、男を抱きたくないからそれっぽい言い訳で誤魔化してただけの人だった」
碌でもない男としか付き合ったことがないけど、あれが一番酷かったなと他人事のように考える。あの時は色々と不安定だったから付け込みやすかったんだろうな。恋は盲目というけれど、本当に好きだったかと問われれば首を傾げてしまう。何かに縋りつきたいときに、たまたま居た人に執着しただけなのかもしれない。
「だめなんだよね、俺。あなたに負担をかけたくないって言ったけど、本当は俺がパートナーになる人がいないとだめなの」
どれだけ薬で抑えていても、所詮は応急処置でしかないのだ。満たされない欲求は体調に影響を及ぼす。それが高ランクのswitchで、domとsubそれぞれの欲求を抱えているのなら尚更。
背中を撫でる手が優しい。くっついてるところから伝わる体温が心地よくて、愛おしい。
「体調が悪いと人恋しくなるって言えばいいのかな。さむくて、さびしくて、ちょっと優しくされただけで好きになっちゃう。俺が悪いの。被害者ぶってるけど、利用されるのもあなたを信じられないのも自業自得」
肩に手を置いて身体を離す。さっきコマンドを掛けてもらって良かった。プレイしたお陰で思ってたより冷静に話をすることができてる。
ふ、と軽く息を吐いた。無意識に強張っていた身体の力が抜ける。俺は今どんな顔をしてるんだろう。笑えてるといいな。大丈夫だよって、あなたに伝わるといいいな。
「ヴァイスのことが好き。あなたが、俺を好きなのもきっと本当だと思う。あなたが約束を破るような人じゃないって知ってる。でも俺はこんな感じだから、嫌いになったら教えて。我慢しないで」
じっとこちらを見つめるアイスグレーは真剣で揺らがない。あなたのくれる言葉が、行動が、俺のことを考えてくれてるのはちゃんと伝わってるから。
「その日が来るまではそばに居させて。あなたのことを信じさせて。……しんみりしちゃったけど、要するに大切にされすぎても不安になるからほどほどに手を出してねってこと」
最後だけ少し明るく言えば、深刻にしたくないのが伝わったのかヴァイスも表情を和らげてくれた。離れた距離を埋めるように抱きつけばきつく抱き返してくれる。すき。この人とずっと一緒にいれるように頑張ろう。とりあえずいつ手を出されてもいいように慣らすところからかな。
「ベル、俺からもいくつか言っていい?」
「なあに」
抱きついたまま、目を閉じてヴァイスの声に耳を傾ける。不安だって言えてえらいねと頭を撫でられて、合間に挟まれるご褒美にふわふわと意識が浮つく。
「まずひとつ目。いまの話を聞いて、尚更ベルのことを大切にしようって思った。傷ついてる君に優しくしたいし大事にしたい。俺に愛されてるんだって君が思えるように、君のことを考えて君が傷つかないような方法を一緒に選ばせてほしい」
今日はもうしないけど、機会を見て少しずつ手を出すね。落ち着いた声を注ぎ込まれると同時に、乗り上げて晒したままの俺の足をヴァイスの指が掠める。くすぐったくて小さく声を漏らすと下でほったらかしになってた毛布が引き上げられた。
「ふたつ目。君を傷つけた奴っていま何してるの?別れてそのまま、なんて危ないことしてないよね」
あ、珍しくヴァイスの語気が強い。穏やかな人なのに俺のために怒ってくれてるんだ。
体勢の関係でいつもより下にある視線を感じながら、過去に付き合ってた人のことを思い出す。傷つけたってどのくらいが目安なんだろう。害があったかどうかかな。
「えっとね、1人目はストーカーになって家に侵入されたから通報して捕まってて、」
「ちょっと待って」
突然のストップ。これまた珍しく話を遮られたので顔を覗き込めば、ヴァイスは頭が痛いとでもいうように額を抑えていた。
「ベル、1人目ってことは複数人いるっていうことであってる?」
「害があったかどうかでいえばそうなるかな」
質問の意図と違ったのかと問えば、眉間に皺を寄せたヴァイスから苦々しく「あってる」との返事が聞こえた。険しい顔もかっこいい。俺の前では中々見せてくれない表情だ。
「2人目は……浮気って害に入る?」
「入るよ」
入るんだ。俺としては理由が納得できるものだったから、そこまで害に思わなかったのだけど。アバターと違って現実ではどう頑張っても小さい女の子にはなれないし。ショートヘアが好きって聞いたから髪を切ったのに、あの人が手を取ったのは髪の長い子だったな。
ああでも、これをリザから聞かされたら俺も相手に怒りたくなるから確かに害だったのかも。
「浮気されて女の子が良いって言われたからそのまま別れて終わり。女の子の方は明らかにお金目当てみたいだったし、いまは財布にでもなってるんじゃないかな」
もう捨てられてる可能性あるけど。俺もまさか別れた数日後に、浮気相手の女の子が別のイケメンとデートしてる現場を目撃するとは思わなかった。
「最後が“大切にしたい“って言ってきた人。無理やりcolorをつけられそうになったから威圧して逃げて……助けてくれた人を経由して姉さんに話が伝わっちゃったから、それ以降は姉さんが対応してて俺も詳しくは知らない」
多分示談とかじゃないかな、とは思う。暴力性の捌け口にしたかったのはもちろんあるだろうけど、家のこととか色々あって俺を利用したかったみたいだし。お互い立場的な関係で全く関わらないのは難しいんだよね。
うちはもう姉さんが家を継ぐことが決まってるし、俺が出ないといけないような集まりもないから会うことはないはず。
「color?」
「domとsubが正式にパートナーになった時につける証?みたいなやつ。一般的なのが首輪で、これをsubが受け取ることで『このdomを信頼して命令に従います』って意思表示になるの」
さっき暴力性の捌け口って言ったけど、人によってはそれを望むsubや暴力を振るいたくないdomもいるわけで。そういうお互いの許容範囲と欲求の確認、プレイと信頼を重ねてパートナーになる相手を探していくのが本来の形式だ。
subが合意することで初めてdomは命令する権利を得るのに、低ランクのdomはその辺りを勘違いしてる人が多い。従うかどうかの決定権はsubが持ってるはずなのにね。domに威圧されちゃうと萎縮してsubは自分の意見を言えないことが多いから、威圧をきちんと制御してあげないとsubdorpになる危険性が高まるんだけど。
「ベル、抱きしめてもいい?」
なんでかなあって思いを馳せていたらヴァイスが控えめにそう聞いてきた。あなたにならいつでも歓迎なのに。
そろそろ膝立ちも辛くなってきたので懐に潜り込むように身を預ければ、横抱きでぎゅっと抱きしめられる。このすっぽり包まれる感じ、やっぱり安心する。
「君に信じてもらえるまで……ううん、信じてもらえてからも。何度だってベルのことを好きって伝えるし、愛してるって言わせて」
俺の耳に髪をかけて、真剣な顔をしたヴァイスがそう告げた。いつも髪をかけたあと頸に這わされる指は耳に添えられたままだ。多分さっきの話のせい。あれされるとぞわぞわするけど、そこまで嫌いな感触じゃないから気にしないで良いよ。
「俺、まだ疑ってるけどあなた相手にはちょっと自信あるんだよね」
抱きしめられたまま、隙間から手を伸ばして夜色の髪に触れる。遊ぶように髪を梳いて彼の頬に手を添えた。
「あなたの顔すごく俺の好み。お祖母様や母さん曰く『初めて会った時に好みドンピシャの顔でビビッときた相手が運命の人』らしいから、あなたがそうだったら良いなって」
ちなみに父さんも母さんに一目惚れしている。隣の席に座ったお嬢さんがあまりにも可憐で、緊張して声をかけられなかったんだと珍しく酔っていた時に惚気られた。そのあとすぐに母さんから連絡先を聞かれて交際を始めたらしい。我が家は女性陣の方が行動力がある。
「初めて会った時のあなた、ナンパみたいな声の掛け方するんだもん。わざと雑な対応してたけど、覗き込んできたあなたの顔にすごくどきどきしてたんだから」
俺の突然の告白に、ヴァイスが少し呆気に取られたあとアイスグレーの瞳をやわらかく細める。やっぱり笑った顔が一番好き。
「一目惚れだったの?」
「うん、あなたもでしょ」
前にそんな感じのこと言ってたよね。あれが『ビビッときた』ってやつなら、きっとあなたが俺の運命なんだと思う。
いつもヴァイスが俺にするようにふにふにと頬を触ってみれば、お返しと言わんばかりにキスの雨が降ってくる。目を閉じてそれを享受しながら、心の中で愛してると唱えて噛み締めた。
まだ言葉にはできないけど、あなたが運命だって信じられたら。その時は俺からも愛してるって伝えたいな。
それっぽい雰囲気に持ち込めばいけると思ったんだけど。どうやらバレていたらしい。眉を下げたヴァイスに「今日はもう絶対に手を出さないよ」と釘を刺されてしまった。俺って顔に出やすいのかな。困らせたいわけじゃないし、潔く諦めよう。
「あなたから俺と同じ香りがしたら気分良いっていうの、嘘じゃないからね」
「それは疑ってないから安心して」
膝の上に乗り上げたままの俺の頬に、宥めるようにヴァイスがキスを落とす。そのぐらいの接触ならしてもいいんだ。香りが移るようにすり寄れば、少しだけくすぐったそうな声。丸めた背中に添えられた手があたたかくて、落ち着いている心拍に今なら言えるかなと口を開く。
「俺はまだ、ちょっと疑ってるから」
あなたが俺を好きなこと。小さくてかわいい、女の子じゃなくていいのかってこと。いつかあなたが本当に待ってた人が現れた時に、この手を離さないって約束を後悔しないかとか。
ヴァイスの顔は見れない。肩に額を押し付けて、できるだけ冷静に言葉を紡ぐように口を動かす。しつこすぎて、それこそ嫌われるかもなんて。そう考えてる時点で目の前のdomを信じてないのだと嫌でも自覚する。
「“大切にしたいって“、前にも言われたことあるよ。……俺を利用したかっただけで、俺のことなんか好きじゃなくて、男を抱きたくないからそれっぽい言い訳で誤魔化してただけの人だった」
碌でもない男としか付き合ったことがないけど、あれが一番酷かったなと他人事のように考える。あの時は色々と不安定だったから付け込みやすかったんだろうな。恋は盲目というけれど、本当に好きだったかと問われれば首を傾げてしまう。何かに縋りつきたいときに、たまたま居た人に執着しただけなのかもしれない。
「だめなんだよね、俺。あなたに負担をかけたくないって言ったけど、本当は俺がパートナーになる人がいないとだめなの」
どれだけ薬で抑えていても、所詮は応急処置でしかないのだ。満たされない欲求は体調に影響を及ぼす。それが高ランクのswitchで、domとsubそれぞれの欲求を抱えているのなら尚更。
背中を撫でる手が優しい。くっついてるところから伝わる体温が心地よくて、愛おしい。
「体調が悪いと人恋しくなるって言えばいいのかな。さむくて、さびしくて、ちょっと優しくされただけで好きになっちゃう。俺が悪いの。被害者ぶってるけど、利用されるのもあなたを信じられないのも自業自得」
肩に手を置いて身体を離す。さっきコマンドを掛けてもらって良かった。プレイしたお陰で思ってたより冷静に話をすることができてる。
ふ、と軽く息を吐いた。無意識に強張っていた身体の力が抜ける。俺は今どんな顔をしてるんだろう。笑えてるといいな。大丈夫だよって、あなたに伝わるといいいな。
「ヴァイスのことが好き。あなたが、俺を好きなのもきっと本当だと思う。あなたが約束を破るような人じゃないって知ってる。でも俺はこんな感じだから、嫌いになったら教えて。我慢しないで」
じっとこちらを見つめるアイスグレーは真剣で揺らがない。あなたのくれる言葉が、行動が、俺のことを考えてくれてるのはちゃんと伝わってるから。
「その日が来るまではそばに居させて。あなたのことを信じさせて。……しんみりしちゃったけど、要するに大切にされすぎても不安になるからほどほどに手を出してねってこと」
最後だけ少し明るく言えば、深刻にしたくないのが伝わったのかヴァイスも表情を和らげてくれた。離れた距離を埋めるように抱きつけばきつく抱き返してくれる。すき。この人とずっと一緒にいれるように頑張ろう。とりあえずいつ手を出されてもいいように慣らすところからかな。
「ベル、俺からもいくつか言っていい?」
「なあに」
抱きついたまま、目を閉じてヴァイスの声に耳を傾ける。不安だって言えてえらいねと頭を撫でられて、合間に挟まれるご褒美にふわふわと意識が浮つく。
「まずひとつ目。いまの話を聞いて、尚更ベルのことを大切にしようって思った。傷ついてる君に優しくしたいし大事にしたい。俺に愛されてるんだって君が思えるように、君のことを考えて君が傷つかないような方法を一緒に選ばせてほしい」
今日はもうしないけど、機会を見て少しずつ手を出すね。落ち着いた声を注ぎ込まれると同時に、乗り上げて晒したままの俺の足をヴァイスの指が掠める。くすぐったくて小さく声を漏らすと下でほったらかしになってた毛布が引き上げられた。
「ふたつ目。君を傷つけた奴っていま何してるの?別れてそのまま、なんて危ないことしてないよね」
あ、珍しくヴァイスの語気が強い。穏やかな人なのに俺のために怒ってくれてるんだ。
体勢の関係でいつもより下にある視線を感じながら、過去に付き合ってた人のことを思い出す。傷つけたってどのくらいが目安なんだろう。害があったかどうかかな。
「えっとね、1人目はストーカーになって家に侵入されたから通報して捕まってて、」
「ちょっと待って」
突然のストップ。これまた珍しく話を遮られたので顔を覗き込めば、ヴァイスは頭が痛いとでもいうように額を抑えていた。
「ベル、1人目ってことは複数人いるっていうことであってる?」
「害があったかどうかでいえばそうなるかな」
質問の意図と違ったのかと問えば、眉間に皺を寄せたヴァイスから苦々しく「あってる」との返事が聞こえた。険しい顔もかっこいい。俺の前では中々見せてくれない表情だ。
「2人目は……浮気って害に入る?」
「入るよ」
入るんだ。俺としては理由が納得できるものだったから、そこまで害に思わなかったのだけど。アバターと違って現実ではどう頑張っても小さい女の子にはなれないし。ショートヘアが好きって聞いたから髪を切ったのに、あの人が手を取ったのは髪の長い子だったな。
ああでも、これをリザから聞かされたら俺も相手に怒りたくなるから確かに害だったのかも。
「浮気されて女の子が良いって言われたからそのまま別れて終わり。女の子の方は明らかにお金目当てみたいだったし、いまは財布にでもなってるんじゃないかな」
もう捨てられてる可能性あるけど。俺もまさか別れた数日後に、浮気相手の女の子が別のイケメンとデートしてる現場を目撃するとは思わなかった。
「最後が“大切にしたい“って言ってきた人。無理やりcolorをつけられそうになったから威圧して逃げて……助けてくれた人を経由して姉さんに話が伝わっちゃったから、それ以降は姉さんが対応してて俺も詳しくは知らない」
多分示談とかじゃないかな、とは思う。暴力性の捌け口にしたかったのはもちろんあるだろうけど、家のこととか色々あって俺を利用したかったみたいだし。お互い立場的な関係で全く関わらないのは難しいんだよね。
うちはもう姉さんが家を継ぐことが決まってるし、俺が出ないといけないような集まりもないから会うことはないはず。
「color?」
「domとsubが正式にパートナーになった時につける証?みたいなやつ。一般的なのが首輪で、これをsubが受け取ることで『このdomを信頼して命令に従います』って意思表示になるの」
さっき暴力性の捌け口って言ったけど、人によってはそれを望むsubや暴力を振るいたくないdomもいるわけで。そういうお互いの許容範囲と欲求の確認、プレイと信頼を重ねてパートナーになる相手を探していくのが本来の形式だ。
subが合意することで初めてdomは命令する権利を得るのに、低ランクのdomはその辺りを勘違いしてる人が多い。従うかどうかの決定権はsubが持ってるはずなのにね。domに威圧されちゃうと萎縮してsubは自分の意見を言えないことが多いから、威圧をきちんと制御してあげないとsubdorpになる危険性が高まるんだけど。
「ベル、抱きしめてもいい?」
なんでかなあって思いを馳せていたらヴァイスが控えめにそう聞いてきた。あなたにならいつでも歓迎なのに。
そろそろ膝立ちも辛くなってきたので懐に潜り込むように身を預ければ、横抱きでぎゅっと抱きしめられる。このすっぽり包まれる感じ、やっぱり安心する。
「君に信じてもらえるまで……ううん、信じてもらえてからも。何度だってベルのことを好きって伝えるし、愛してるって言わせて」
俺の耳に髪をかけて、真剣な顔をしたヴァイスがそう告げた。いつも髪をかけたあと頸に這わされる指は耳に添えられたままだ。多分さっきの話のせい。あれされるとぞわぞわするけど、そこまで嫌いな感触じゃないから気にしないで良いよ。
「俺、まだ疑ってるけどあなた相手にはちょっと自信あるんだよね」
抱きしめられたまま、隙間から手を伸ばして夜色の髪に触れる。遊ぶように髪を梳いて彼の頬に手を添えた。
「あなたの顔すごく俺の好み。お祖母様や母さん曰く『初めて会った時に好みドンピシャの顔でビビッときた相手が運命の人』らしいから、あなたがそうだったら良いなって」
ちなみに父さんも母さんに一目惚れしている。隣の席に座ったお嬢さんがあまりにも可憐で、緊張して声をかけられなかったんだと珍しく酔っていた時に惚気られた。そのあとすぐに母さんから連絡先を聞かれて交際を始めたらしい。我が家は女性陣の方が行動力がある。
「初めて会った時のあなた、ナンパみたいな声の掛け方するんだもん。わざと雑な対応してたけど、覗き込んできたあなたの顔にすごくどきどきしてたんだから」
俺の突然の告白に、ヴァイスが少し呆気に取られたあとアイスグレーの瞳をやわらかく細める。やっぱり笑った顔が一番好き。
「一目惚れだったの?」
「うん、あなたもでしょ」
前にそんな感じのこと言ってたよね。あれが『ビビッときた』ってやつなら、きっとあなたが俺の運命なんだと思う。
いつもヴァイスが俺にするようにふにふにと頬を触ってみれば、お返しと言わんばかりにキスの雨が降ってくる。目を閉じてそれを享受しながら、心の中で愛してると唱えて噛み締めた。
まだ言葉にはできないけど、あなたが運命だって信じられたら。その時は俺からも愛してるって伝えたいな。
12
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
隠れSubは大好きなDomに跪きたい
みー
BL
ある日ハイランクDomの榊千鶴に告白してきたのは、Subを怖がらせているという噂のあの子でー。
更新がずいぶん遅れてしまいました。全話加筆修正いたしましたので、また読んでいただけると嬉しいです。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
婚約破棄されたSubですが、新しく伴侶になったDomに溺愛コマンド受けてます。
猫宮乾
BL
【完結済み】僕(ルイス)は、Subに生まれた侯爵令息だ。許婚である公爵令息のヘルナンドに無茶な命令をされて何度もSub dropしていたが、ある日婚約破棄される。内心ではホッとしていた僕に対し、その時、その場にいたクライヴ第二王子殿下が、新しい婚約者に立候補すると言い出した。以後、Domであるクライヴ殿下に溺愛され、愛に溢れるコマンドを囁かれ、僕の悲惨だったこれまでの境遇が一変する。※異世界婚約破棄×Dom/Subユニバースのお話です。独自設定も含まれます。(☆)挿入無し性描写、(★)挿入有り性描写です。第10回BL大賞応募作です。応援・ご投票していただけましたら嬉しいです! ▼一日2話以上更新。あと、(微弱ですが)ざまぁ要素が含まれます。D/Sお好きな方のほか、D/Sご存じなくとも婚約破棄系好きな方にもお楽しみいただけましたら嬉しいです!(性描写に痛い系は含まれません。ただ、たまに激しい時があります)
ゲームにはそんな設定無かっただろ!
猫宮乾
BL
大学生の俺は、【月の旋律 ~ 魔法の言葉 ~】というBLゲームのテストのバイトをしている。異世界の魔法学園が舞台で、女性がいない代わりにDomやSubといった性別がある設定のゲームだった。特にゲームが得意なわけでもなく、何周もしてスチルを回収した俺は、やっとその内容をまとめる事に決めたのだが、飲み物を取りに行こうとして階段から落下した。そして気づくと、転生していた。なんと、テストをしていたBLゲームの世界に……名もなき脇役というか、出てきたのかすら不明なモブとして。 ※という、異世界ファンタジー×BLゲーム転生×Dom/Subユニバースなお話です。D/Sユニバース設定には、独自要素がかなり含まれています、ご容赦願います。また、D/Sユニバースをご存じなくても、恐らく特に問題なくご覧頂けると思います。
世界で一番優しいKNEELをあなたに
珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。
Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。
抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。
しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。
※Dom/Subユニバース独自設定有り
※やんわりモブレ有り
※Usual✕Sub
※ダイナミクスの変異あり
【本編完結】落ちた先の異世界で番と言われてもわかりません
ミミナガ
BL
この世界では落ち人(おちびと)と呼ばれる異世界人がたまに現れるが、特に珍しくもない存在だった。
14歳のイオは家族が留守中に高熱を出してそのまま永眠し、気が付くとこの世界に転生していた。そして冒険者ギルドのギルドマスターに拾われ生活する術を教わった。
それから5年、Cランク冒険者として採取を専門に細々と生計を立てていた。
ある日Sランク冒険者のオオカミ獣人と出会い、猛アピールをされる。その上自分のことを「番」だと言うのだが、人族であるイオには番の感覚がわからないので戸惑うばかり。
使命も役割もチートもない異世界転生で健気に生きていく自己肯定感低めの真面目な青年と、甘やかしてくれるハイスペック年上オオカミ獣人の話です。
ベッタベタの王道異世界転生BLを目指しました。
本編完結。番外編は不定期更新です。R-15は保険。
コメント欄に関しまして、ネタバレ配慮は特にしていませんのでネタバレ厳禁の方はご注意下さい。
不器用な僕とご主人様の約束
いち
BL
敬語のクラブオーナー×年下のやんちゃっ子。遊んでばかりいるSubの雪はある日ナイトクラブでDomの華藍を知ります。ちょっと暑くなってくる前に出会った二人の短編です。
🍸カンパリオレンジのカクテル言葉は初恋だそうです。素敵ですね。
※pixivにも同様の作品を掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる