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13 恋バナがお好き
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手を繋いだままテントを出ると、野営地の外は真っ暗になっていた。曇り空の今日は月が見えづらいとはいえ流石に暗すぎる。聞けば魔物の仕業らしく、自分の居場所を隠すかのように周りを魔法で暗くしているとか。俺は光属性のお陰でまだ見えてるけど、他の人は野営地の中でも薄暗く感じてるんじゃないかな。
そんな野営地の入り口、ギリギリ内側に位置する場所にノクスさんがいるのが見えた。白刃さんに声をかけられて振り向いたその視線は、次第に下がって繋がれたままの俺の手に終着する。
うん、気になるよね。ここに来るまでも何人かの異邦人や衛兵さんに見られてたし。巡回中に顔を合わせるたびにヴァイスが俺に構うから、衛兵さん達は大体俺のことを知っているしテント内では何も言われなかったけど。普通に考えてフードさんと異邦人が手を繋いでる様子は目立つ。アバターを変えてから外でヴァイスと会ってなかったから、衛兵さん達に最初に見られてたのって俺が誰かわからなくて戸惑ってたのかも。
「この前の心配は要らんお節介だったか」
「これは成り行きというか……ヴァイスが過保護なだけなので」
繋がれた手を見ながらしみじみと頷くノクスさんに一応訂正をしておく。そういう関係なわけじゃないしね。でも心なしかノクスさんが目を輝かしてる気がするのはなんでだろう。そんなことを考えていたら、白刃さんが剣でノクスさんを示して呆れたように口を開いた。
「この人、恋バナに飢えてるから言動には気をつけた方がいいよ」
「気をつけた方がいいってなんだ?!俺は美男美女の甘酸っぱい話が大好きなだけの無害なお兄さんだぞ!」
そう叫ぶノクスさんは拳を握りしめながら熱く語っている。いつものことなのか、白刃さんや本田さんは白い目でその様子を見ていた。ノクスさん、恋バナに飢えてたんだ。それなのにあの時は俺のことを優先してくれたってことだよね。やっぱりいい人だ。
ところで俺は男だから美男美女ではないのだけど、そのあたりはいいんだろうか。
「大体な、俺は白刃と本田もいい感じになってくれればと思って日々観察してるのに、なんだお前達は!少しぐらい俺に甘酸っぱい空気を味わせてくれても良くないか?!」
ビシッ!と指を刺された本人達は「はぁ、」と気の抜けた声を出した後、じっとお互いを見つめあった。え、あるのかな。ちょっとドキドキしながら眺めていると。結論が出たのか2人同時に小さく頷く。
「「ないなぁ…」」
「あってくれよ!!!!」
とうとう地面に項垂れて拳を叩きつけたノクスさんの悲痛な叫びが響き渡る。シルバーアックスのこういうやりとりが面白いんだよね。緊迫した場の空気を払拭してくれる存在は貴重だから。
けれどもここは野営地の入り口。ギリギリ内側とはいえ、マップの表示を見る限り魔物の攻撃範囲に届いてそうな位置だ。そろそろちゃんと仕事をしなければいけない。
暗闇に向き合って強敵の気配を探る。俺は光属性で半減してるから暗闇はあまり効いてないし、薬師のスキルで「探知」を上げているから魔物の大まかな場所は把握できた。でもこの暗闇だと他の人たちはやりづらいはずだ。もう少し光源を増やした方が良さそう。
そう思って手を翳し呪文を口にした瞬間、繋いでいた手を力強く引かれて抱き寄せられる。どうしたのかとヴァイスを見上げた後ろでノクスさんが斧を振るったのを見て、理解した。さっきまで俺がいた場所、正確には魔法で出した光源に向かって暗闇から岩が飛んできたのだ。ヴァイスが抱き寄せてくれなかったら、そしてノクスさんが斧で弾いてくれてなかったら確実に命中していた。
「ごめん、油断した」
「ベル、怪我してない?急だったから力を入れすぎたかも」
俺が謝るのと同時に、ヴァイスが繋いでいた手を離して痕になってないか確認し始める。今のは俺の不注意だし、そんなに気にしないでいいのに。少し赤くなったぐらいでどうこうなるほど俺はやわじゃない。
ノクスさんにもお礼を言おうと振り向いたら、同時に後ろから手が伸びてきて腰に回される。そのまま身体を引き寄せられて膝裏にも手が回り、俺はヴァイスに抱き上げられる形になった。
「ちょっと、そこまでしなくてもいいよ」
「ベルは羽のように軽いから大丈夫。寧ろちゃんと食べてるか心配になりそう」
「そんなに軽くないし話を逸らさないで」
上体を安定させるためにヴァイスの肩に手を乗せる。もう片方の手でペチペチと叩いて不満を示せば、首を傾げてなんてことのないように代替案を出してきた。
「なに、お姫様抱っこがよかった?」
「違うに決まってるでしょ」
即座に否定すれば楽しそうに笑われる。いつもと違って見下ろす視点だとフードが邪魔だけど、きっと俺が好きな表情をしてるんだろうな。この顔に弱いのが本人にもバレてるから俺はヴァイスの要求を拒めないことが多い。
でも今はフードで見えないから俺の不満を通します。肩に置いている手に身体を寄せて、ヴァイスの頭を抱えるように身を屈める。耳元に寄せた口で要求のついでに、少しだけ威圧を込めて言葉を紡ぐ。
「ヴァイス、もう油断しないから下ろして。『“お願い“』」
意趣返しに出した僅かな威圧はヴァイスにしか伝わっていないはずだ。でもその一言で俺がdomに切り替えたと気付いて、小さなため息と共に俺の身体は解放された。
あなたに従うのも悪くないけど、相手が結構やる気みたいだから。すぐ終わらせるためにも俺が跪かせたほうが早いみたいだし。依然手は繋いだままなんだからいいよね。
杖を取り出してしっかりと握り、前を見据える。もう油断しないし隙も与えない。探知で割り出したマップの表示と見えているぼんやりとした影で大まかな位置はわかった。杖を翳し、呪文を唱えながら術式を書き込む。
「『光よここへ』」
____________
ベルトとヴァイスが仲良く言い合いをしている時、おそらくノクスさんは邪魔にならないように口を抑えながら無言で悶えてたと思います
そんな野営地の入り口、ギリギリ内側に位置する場所にノクスさんがいるのが見えた。白刃さんに声をかけられて振り向いたその視線は、次第に下がって繋がれたままの俺の手に終着する。
うん、気になるよね。ここに来るまでも何人かの異邦人や衛兵さんに見られてたし。巡回中に顔を合わせるたびにヴァイスが俺に構うから、衛兵さん達は大体俺のことを知っているしテント内では何も言われなかったけど。普通に考えてフードさんと異邦人が手を繋いでる様子は目立つ。アバターを変えてから外でヴァイスと会ってなかったから、衛兵さん達に最初に見られてたのって俺が誰かわからなくて戸惑ってたのかも。
「この前の心配は要らんお節介だったか」
「これは成り行きというか……ヴァイスが過保護なだけなので」
繋がれた手を見ながらしみじみと頷くノクスさんに一応訂正をしておく。そういう関係なわけじゃないしね。でも心なしかノクスさんが目を輝かしてる気がするのはなんでだろう。そんなことを考えていたら、白刃さんが剣でノクスさんを示して呆れたように口を開いた。
「この人、恋バナに飢えてるから言動には気をつけた方がいいよ」
「気をつけた方がいいってなんだ?!俺は美男美女の甘酸っぱい話が大好きなだけの無害なお兄さんだぞ!」
そう叫ぶノクスさんは拳を握りしめながら熱く語っている。いつものことなのか、白刃さんや本田さんは白い目でその様子を見ていた。ノクスさん、恋バナに飢えてたんだ。それなのにあの時は俺のことを優先してくれたってことだよね。やっぱりいい人だ。
ところで俺は男だから美男美女ではないのだけど、そのあたりはいいんだろうか。
「大体な、俺は白刃と本田もいい感じになってくれればと思って日々観察してるのに、なんだお前達は!少しぐらい俺に甘酸っぱい空気を味わせてくれても良くないか?!」
ビシッ!と指を刺された本人達は「はぁ、」と気の抜けた声を出した後、じっとお互いを見つめあった。え、あるのかな。ちょっとドキドキしながら眺めていると。結論が出たのか2人同時に小さく頷く。
「「ないなぁ…」」
「あってくれよ!!!!」
とうとう地面に項垂れて拳を叩きつけたノクスさんの悲痛な叫びが響き渡る。シルバーアックスのこういうやりとりが面白いんだよね。緊迫した場の空気を払拭してくれる存在は貴重だから。
けれどもここは野営地の入り口。ギリギリ内側とはいえ、マップの表示を見る限り魔物の攻撃範囲に届いてそうな位置だ。そろそろちゃんと仕事をしなければいけない。
暗闇に向き合って強敵の気配を探る。俺は光属性で半減してるから暗闇はあまり効いてないし、薬師のスキルで「探知」を上げているから魔物の大まかな場所は把握できた。でもこの暗闇だと他の人たちはやりづらいはずだ。もう少し光源を増やした方が良さそう。
そう思って手を翳し呪文を口にした瞬間、繋いでいた手を力強く引かれて抱き寄せられる。どうしたのかとヴァイスを見上げた後ろでノクスさんが斧を振るったのを見て、理解した。さっきまで俺がいた場所、正確には魔法で出した光源に向かって暗闇から岩が飛んできたのだ。ヴァイスが抱き寄せてくれなかったら、そしてノクスさんが斧で弾いてくれてなかったら確実に命中していた。
「ごめん、油断した」
「ベル、怪我してない?急だったから力を入れすぎたかも」
俺が謝るのと同時に、ヴァイスが繋いでいた手を離して痕になってないか確認し始める。今のは俺の不注意だし、そんなに気にしないでいいのに。少し赤くなったぐらいでどうこうなるほど俺はやわじゃない。
ノクスさんにもお礼を言おうと振り向いたら、同時に後ろから手が伸びてきて腰に回される。そのまま身体を引き寄せられて膝裏にも手が回り、俺はヴァイスに抱き上げられる形になった。
「ちょっと、そこまでしなくてもいいよ」
「ベルは羽のように軽いから大丈夫。寧ろちゃんと食べてるか心配になりそう」
「そんなに軽くないし話を逸らさないで」
上体を安定させるためにヴァイスの肩に手を乗せる。もう片方の手でペチペチと叩いて不満を示せば、首を傾げてなんてことのないように代替案を出してきた。
「なに、お姫様抱っこがよかった?」
「違うに決まってるでしょ」
即座に否定すれば楽しそうに笑われる。いつもと違って見下ろす視点だとフードが邪魔だけど、きっと俺が好きな表情をしてるんだろうな。この顔に弱いのが本人にもバレてるから俺はヴァイスの要求を拒めないことが多い。
でも今はフードで見えないから俺の不満を通します。肩に置いている手に身体を寄せて、ヴァイスの頭を抱えるように身を屈める。耳元に寄せた口で要求のついでに、少しだけ威圧を込めて言葉を紡ぐ。
「ヴァイス、もう油断しないから下ろして。『“お願い“』」
意趣返しに出した僅かな威圧はヴァイスにしか伝わっていないはずだ。でもその一言で俺がdomに切り替えたと気付いて、小さなため息と共に俺の身体は解放された。
あなたに従うのも悪くないけど、相手が結構やる気みたいだから。すぐ終わらせるためにも俺が跪かせたほうが早いみたいだし。依然手は繋いだままなんだからいいよね。
杖を取り出してしっかりと握り、前を見据える。もう油断しないし隙も与えない。探知で割り出したマップの表示と見えているぼんやりとした影で大まかな位置はわかった。杖を翳し、呪文を唱えながら術式を書き込む。
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