ブラザーフッド:インテリヤクザと三下ヤクザの洒落にならない話 【全話執筆完了!毎日更新中!】

美風慶伍

文字の大きさ
24 / 78
弐:名古屋

弐の伍:名古屋/ドレスアップ

しおりを挟む
 俺はベンツをUターンさせる。
 名古屋城を右に見ながら名古屋最大の商業エリアである栄町へとたどり着いた。名古屋テレビ塔を見上げながら、緑地公園のある大通りへと滑り込む。そしてアレンの誘導であいているコインパーキングを見つけ手頃な店へと足を運ぶ。
 ここで俺はあえて高級店を選んで入った。

 見栄を張ったわけじゃない。安い店より、高級店の方が不特定多数の目に留まる率を下げられるからだ。第一、出入りが激しい店は落ち着かない。そう言うのは昔から主義じゃなかった。店はビジネスマン向けの高級店で、ランチ時間帯と、ディナータイムのそれぞれに店を開けるタイプの店だった。空いて間もない店に入り込みエビフライのたっぷり乗った重のセットを頼む。
 田沼のやつ、てっきりそこいらのファミレスにでも入るのかと思っていたらしい。突然のことに戸惑っていた。だが、食い物が目の前に来た途端に態度が変わった。
 
「ゴチになります」

 きちんと礼を口にして箸に手を付けた。
 よし、ここも合格だ。礼儀をきちんと口にできないやつはゴメンだ。
 流石にここで雑談をするような余裕は田沼のやつにはなかった。空きっ腹を満たすのに必死だった。それでも俺と言う同行者が居る手前、下品な真似はできないと思ったらしい。あわてて食べるのをこらえようとしているのがはっきりわかる。
 半分以上を食い終えるあたりで俺は尋ねる。
 
「昨日は何を食ったんだ?」

 その問いに田沼はそっけなく答えた。
 
「何も――、缶コーヒーやらお菓子やらでなんとか凌いでました」
「生活費も入らないのか?」
「はい、雀の涙ほどです。必要経費は自分持ちの事が多いし、いつもギリギリです」
「不満を言えば命が無い――か」

 俺が告げた核心に田沼は頷く。それがこいつが置かれている状況なのだ。逃げられない。避けられない。飢えさえ満たせない。死ぬのを漫然と待つようなものだ。そして俺はもう一つ、重要な事を尋ねる。
 
「お前みたいなの何人居るんだ?」

 つまり榊原が〝飼い殺し〟にしている連中の数だ。

「最低100人は。増減が激しいんで総数はわかりません」

 その答えに俺は思わず眉をひそめた。増えるのはわかる。だが減ると言うのが不愉快だ。離脱する人間が居ない以上、死ぬか売り飛ばされるか――それしかないからだ。
 
「悪いな。飯食ってる最中に」
「いえ、大丈夫です」

 そんなやり取りの間に食事は終わる。
 
「――ごちそうさまでした」

 丁寧に頭を下げて礼をしてくる。スレた外見に見合わず礼儀をわきまえられるのが俺には好感度だった。
 支払いを済ませて店を出る。俺は田沼に向けて告げる。
 
「〝食〟が足りたら、次は〝衣〟だな」
「えっ?」

 田沼のやつ。俺が一瞬、何を言っているのかわからなかったらしい。驚いた風のあいつに俺は言った。
 
「服装だよ。ずっと同じもの着回してるんだろ?」

 田沼は田沼で、今日誰に会おうとも恥をかかせないようにこいつなりに神経を使ったらしい。汚れもなく丁寧に洗われていてシワもない。だが、着古した一張羅で有ることは隠しようがない。ジーンズの裾も擦り切れ、スカジャンもあちこちほつれていた。食にも困る生活を強いられている以上、着衣に金をかけられるはずがないのだ。
 おそらく、榊原のやつもそれを見越しているはずだ。奴隷代わりにこきつかうやつに身ぎれいになられては、支配者側のしめしがつかないと言うわけだ。誰かに出会い交渉に臨もうとしても、見くびられることもあるだろう。それを狙っているに違いないのだ。
 だが――
 
「仮にも俺と一緒に別組織の連中と交渉に向かうんだ。それなりの格好をしてもらわないと困るからな」

――俺にもメンツがあるのだ。俺の〝格〟を傷つけられては迷惑なのだ。田沼は〝はっ〟とした表情をする。俺はさらに畳み掛けた。

「でも、流石に背広は着たことないだろ」
「はい」

 似合わぬ格好はかえって恥をかく。着慣れた服装に合わせるほうがベストだ。

「なら、お前に似合った系統にしよう。バイカーファッションは?」
「昔、金のあるころはよくやってました」
「よし、それで行こう」

 俺の言葉に田沼がうなずく。そして一言――
 
「ありがとうございます」

――と、しっかりとした口調で伝えてきた。
 俺はここに来て、氷室のオヤジが俺に必要経費として電子マネーカードを渡してきた理由が腑に落ちたのである。
 
 栄町からさらに南へと移動する。
 するとそこに〝大須〟と呼ばれるエリアがある。古くからの商業の町で、サブカルの発信地エリアでもある。
 東京ならば渋谷か上野アメ横、大阪なら日本橋か心斎橋と言ったところか、
 そこでいくつかの店を物色してアイテムを揃える。1時間もする頃には、先程出会ったばかりのみすぼらしい三下はどこにも居なかった。
 
 ラムレザーのダブルのライダースブルゾン、白の無地のシャツ、黒のスラックスパンツ、脚に履くのはレザーのショートブーツ――基本を抑えつつ嫌味にならないあたりにコイツ自身が本来持っているセンスの良さが感じられる。
 それに着替えさせた事ではっきりわかったことがある。田沼のやつ、想像以上に〝ガタイ〟が良いのだ。
 
 手足が長く肩幅もガッチリしている。筋肉もしっかりついており、それでいてマッチョじゃないのは過剰に威圧を与えない意味で都合がいい。
 俺は田沼に問うた。
 
「昔、なにかやってたのか?」
「高校まで〝キック〟を」
「キックボクシングか?」
「はい」

 面白い。だが〝やっている〟と〝強かった〟ではまるで意味が違う。
 
「どこまで行ったんだ?」
「高校生のアマ大会で準優勝まで行きました。プロのジムからお声もかかったんですけどね」
「すごいな――」
 
 俺は素直に称賛の声をかけた。だが――

「でも街なかでケンカをやらかして、3年のときに退学喰らいました。それ以来はずっとストリートです」

 まさかのストリートファイト系、どうりで。
 
「拳が硬いのはそれか」
「わかりますか?」
「あぁ」

 俺もヤクザだ。インテリヤクザのフリをしてるが荒事の経験が無いわけじゃない。相手の体格を見ただけで大抵のスペックは予想できる。

「〝前〟がついたのはそれか」
「過剰防衛で捕まりました。おふくろに縁切りされたのはその時です」

 駐車場へと道を歩きながら語り合えば、やつはしみじみとつぶやいていた。
 
「しかたないさ。それだけの事をしたのなら。でも、向こうさんが〝無事〟なら十分だ」

 かく言う俺も実家の親とはもう何年も会ってない。探している素振りもない。ヤクザの世界に身を置いてるとそう言う奴には事欠かない。

「はい、穏便に生きているだけでもそれでいいです」

 その言葉にはヤツ自身が心を砕いている家族への思いがにじみ出ていた。ならば掛ける言葉は一つだけだ。
 
「だったら、それこそ〝結果〟をださないとな」
「はい」

 俺の問に田沼のやつは明確にはっきりと答えた。
 そして俺たちは車へと乗り込んでいく。時計が示した時刻は午後1時――、
 頃合いだ。交渉場所へと乗りこむ――
 
 さぁ、行くぜ。
 決戦地は犬山・明治村だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...