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第三話 認めてくれる人
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「う……ここは?」
アマリリスが目を覚ますと、目に入ったのは見たこともない美しい紋様が描かれた高い天井だった。
辺りを見回すと、清潔感のある広い部屋にいるらしく、見るからに高そうな調度品があちこちに飾られている。
気を失っている間に、身が清められたらしく、皮膚にこびりついていた垢や血が綺麗になっていた。
磨き上げられた鱗が眩く蒼い光を放っている。
アマリリスは咄嗟にシーツを掻き抱いて、鱗を隠した。鱗を見ると、虐げられていた日々がまざまざと蘇り、震えが止まらなくなる。
コンコン。
小さなノックの音がして、「起きたのか? 入るぞ」と凛と通る声が聞こえた。
その声を聞いて、そうだ、この声の主に地下牢から救い出されたのだと記憶が鮮やかになる。
「は、はい」
震える声で答えると、見目麗しい金色の瞳の男が扉を開けて部屋に入ってきた。
男は真っ直ぐにアマリリスの元へやってきて、視線を合わせるように膝をついた。
「具合はどうだ? 急なことで混乱しているだろうが、俺は君の味方だ。俺の名はアデルバート。アデルと呼んでくれ」
「あ、アデル様……?」
恐る恐る請われるままに名を呼ぶと、アデルバートは蕩けるような笑みを浮かべた。
そのことに、アマリリスの心臓は跳ね上がる。
こんなに優しい笑みを向けられたのは、いつぶりだろうか。
ギュッと胸が詰まり、目頭が熱くなる。
「あの、ここは……?」
気を紛らわすために、震える声を絞り出す。アマリリスが連れ出されたのは一体どこなのか。今、どういう状況なのか。分からないことだらけなのだ。
「ここはエクセリヴァーグ帝国。竜の血を引く王が治める国だ。我が国では竜は尊い存在で、その血を引くものは丁重に扱われる」
「え……」
祖国とまるで逆の考え方を持つことに、驚きを隠せない。
だって、竜は忌むべき存在だと、だからアマリリスは酷い扱いを受けても然るべきなのだと、ずっとずっとそう言われ続けてきたから。
「アマリリス、どうか隠さないで。俺に君の鱗を見せてはくれないか?」
「あ……で、でも」
「大丈夫」
アデルバートは赤子をあやすようにアマリリスの頭を撫で、固く握られていた手を解くと、そっと鱗を隠すシーツをずらしていく。露わになった蒼い光に、アマリリスはギュッと瞳を閉じた。
「ああ、とても綺麗だ」
「……え?」
耳が拾った言葉を理解できずに、アマリリスは呆けた顔をしてアデルバートを見つめてしまった。
そんなアマリリスの瞳を真っ直ぐ見据えて、再びアデルバートは口を開いた。
「綺麗だよ。アマリリス」
「そ、んな……そんなはずはありません。この鱗のせいで、私は……」
「アマリリス」
高い治癒力のおかげで、身体に傷跡は残ってはいないが、アマリリスの身体は見えない傷だらけなのだ。
震える身体を抱き締めるように腕を回すも、そっとその腕を解かれてしまう。
そして温かな何かに身体が包み込まれた。
抱き締められている。
そう気付いたアマリリスの顔にカッと熱が集まった。
「アマリリス、君はよく頑張った。俺が君を見つけるまで、よく耐え抜いてくれた。こうして君と出会うことができて本当によかった。これからは俺が必ず君を幸せにすると誓う。だからもう、自分のことや、この美しい鱗のことを卑下しないでくれ」
「アデル様……うっ、グスッ」
温かく逞しい腕に抱かれながら、優しく背中を撫でられたアマリリスは、込み上げてくる涙を堪えることができなかった。
涙はもう、枯れたと思っていたのに。
温かな雫が止まることなく頬を滑っていく。
これまで疎ましく思っていた鱗を、綺麗だと言ってくれた。
アマリリスの存在を認めてくれた。
それだけでなく、諦めていた明るい未来までも与えてくれようとしている。
アマリリスの渇ききった心が、少しずつ優しさの水を得て、潤いを取り戻していく。
アマリリスはしばらく声を上げて泣き続けた。
アマリリスが目を覚ますと、目に入ったのは見たこともない美しい紋様が描かれた高い天井だった。
辺りを見回すと、清潔感のある広い部屋にいるらしく、見るからに高そうな調度品があちこちに飾られている。
気を失っている間に、身が清められたらしく、皮膚にこびりついていた垢や血が綺麗になっていた。
磨き上げられた鱗が眩く蒼い光を放っている。
アマリリスは咄嗟にシーツを掻き抱いて、鱗を隠した。鱗を見ると、虐げられていた日々がまざまざと蘇り、震えが止まらなくなる。
コンコン。
小さなノックの音がして、「起きたのか? 入るぞ」と凛と通る声が聞こえた。
その声を聞いて、そうだ、この声の主に地下牢から救い出されたのだと記憶が鮮やかになる。
「は、はい」
震える声で答えると、見目麗しい金色の瞳の男が扉を開けて部屋に入ってきた。
男は真っ直ぐにアマリリスの元へやってきて、視線を合わせるように膝をついた。
「具合はどうだ? 急なことで混乱しているだろうが、俺は君の味方だ。俺の名はアデルバート。アデルと呼んでくれ」
「あ、アデル様……?」
恐る恐る請われるままに名を呼ぶと、アデルバートは蕩けるような笑みを浮かべた。
そのことに、アマリリスの心臓は跳ね上がる。
こんなに優しい笑みを向けられたのは、いつぶりだろうか。
ギュッと胸が詰まり、目頭が熱くなる。
「あの、ここは……?」
気を紛らわすために、震える声を絞り出す。アマリリスが連れ出されたのは一体どこなのか。今、どういう状況なのか。分からないことだらけなのだ。
「ここはエクセリヴァーグ帝国。竜の血を引く王が治める国だ。我が国では竜は尊い存在で、その血を引くものは丁重に扱われる」
「え……」
祖国とまるで逆の考え方を持つことに、驚きを隠せない。
だって、竜は忌むべき存在だと、だからアマリリスは酷い扱いを受けても然るべきなのだと、ずっとずっとそう言われ続けてきたから。
「アマリリス、どうか隠さないで。俺に君の鱗を見せてはくれないか?」
「あ……で、でも」
「大丈夫」
アデルバートは赤子をあやすようにアマリリスの頭を撫で、固く握られていた手を解くと、そっと鱗を隠すシーツをずらしていく。露わになった蒼い光に、アマリリスはギュッと瞳を閉じた。
「ああ、とても綺麗だ」
「……え?」
耳が拾った言葉を理解できずに、アマリリスは呆けた顔をしてアデルバートを見つめてしまった。
そんなアマリリスの瞳を真っ直ぐ見据えて、再びアデルバートは口を開いた。
「綺麗だよ。アマリリス」
「そ、んな……そんなはずはありません。この鱗のせいで、私は……」
「アマリリス」
高い治癒力のおかげで、身体に傷跡は残ってはいないが、アマリリスの身体は見えない傷だらけなのだ。
震える身体を抱き締めるように腕を回すも、そっとその腕を解かれてしまう。
そして温かな何かに身体が包み込まれた。
抱き締められている。
そう気付いたアマリリスの顔にカッと熱が集まった。
「アマリリス、君はよく頑張った。俺が君を見つけるまで、よく耐え抜いてくれた。こうして君と出会うことができて本当によかった。これからは俺が必ず君を幸せにすると誓う。だからもう、自分のことや、この美しい鱗のことを卑下しないでくれ」
「アデル様……うっ、グスッ」
温かく逞しい腕に抱かれながら、優しく背中を撫でられたアマリリスは、込み上げてくる涙を堪えることができなかった。
涙はもう、枯れたと思っていたのに。
温かな雫が止まることなく頬を滑っていく。
これまで疎ましく思っていた鱗を、綺麗だと言ってくれた。
アマリリスの存在を認めてくれた。
それだけでなく、諦めていた明るい未来までも与えてくれようとしている。
アマリリスの渇ききった心が、少しずつ優しさの水を得て、潤いを取り戻していく。
アマリリスはしばらく声を上げて泣き続けた。
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