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そして誰もいなくなるか
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なんか胸がざわざわするなぁ。ペピタの態度とか、食堂に誰も来ないとか。うちのメイドは結構個性があるけど、仕事はちゃんとすると思ってたよ。
使用人室のドアを開けると、シータちゃんが頭を抱えていた。
「シータちゃん、どしたの?」
私が言うと、彼女は複雑な顔になった。喜んでいるが、しかし、なんだか疑っているようでもある眼差し。私、何かまずいことやっちゃったかな?
「ノラ、このイタズラをしたのは貴方?」
そう言ってボードを指差した。なになに、食事当番は……ノラ。ええっ、まさか本当に私が食事を作ることになってたの? いやいや、ありえない。だとしたら昨日誰かが教えてくれるはずだもんね。
「イタズラってどういうこと? 私、食事当番の話なんて聞いてないよ~」
「……そう、よね。貴方はサボリ魔だけど、イタズラはしない子だと信じていたわ。けど、それじゃあおかしいのよ」
「おかしい?」
「ええ。そもそも食事を作れるのが私だけなら、食事当番なんて項目があること自体おかしいのよ。でも実際、作れるのは私だけ」
シータちゃんは何言ってるんだろう。食事なんて、エイダにもエマにもメリッサにも作れるのに。ペピタは、まだまだ練習中だけどね。
「そんなことないよ。メリッサの料理、すっごく美味しいじゃん。エマも……」
「何言ってるの。使用人は私と貴方、ペピタの三人だけよ」
……やばい、マジで意味分かんない。ペピタもそうだけど、なんでみんながいないことにされてるの? シータちゃんはふざけてこんなことする人じゃないよ。なのにどうして?
「いやいや、シータちゃんおかしいよ! エイダ、エマ、メリッサの三人もいたでしょ!」
「……聞いたことないわね。私はメイド長として、全ての使用人を把握しているつもりよ」
やばい、なんか分からないけどやばい気がする。私がおかしいの? そういえば今日は三人とも会ってないっけ。いや、メリッサは私のことを起こしに来てくれた。やっぱりいるよ。
「でも、でも……」
「分かりました、じゃあペピタを呼んできます。彼女からも話を聞きましょう」
使用人室から出て行くシータちゃんの背中を、私はただじっと見つめていた。ペピタも、エイダをいないもののように扱っていた。話を聞いても無駄なのかな。
● ● ●
お庭の掃除は本当に大変です。特に薔薇庭園の手入れは私には難しすぎます。なんて思っていたら、メイド長が向こうからやってきました。手伝ってくれるのでしょうか。
私が一礼すると、メイド長は言いました。
「ペピタ。ちょっと使用人室まできてもらえるかしら」
「あの、お庭の掃除は……」
「そのことも含めて、皆で話し合いたいことがあるの」
メイド長はいつにも増して真剣な顔つきです。皆っていうと、ノラちゃんもかな。新しい担当の振り分けかもしれないです。正直に、私にはお庭掃除は難しいって言うべきかもしれません。
● ● ●
「の、ノラちゃん……どうしちゃったの?」
「どうもこうもないって! なんで二人とも忘れちゃったの!? エイダも、エマもメリッサも!」
ペピタを連れて戻ってきてからも、ノラはずっとこの調子です。彼女の言う三人は、この屋敷にはいません。でも、確かに気になることが多すぎます。
まず最初にロッカーの件。屋敷で働く使用人は三人、それに対してロッカーの数は六つ。私は使用人の数だけロッカーを用意するから、三つでなければおかしい。仮に異動などでロッカーが余ったとしても、翌日には物置に持っていく。
次に担当表。清掃場所は、書斎、玄関、チェスの間、客室二つ、給湯室、浴室、食堂、地下室、庭。これだけの場所を三人で回していたとは、正直考えづらい。でも実際、三人で回せていたはず。
最後に食事当番。これは確かに腑に落ちない。昼食と夕食の食事当番を決めるのは、メイド長の仕事。でも、私はノラを当番にした覚えはないし、もともとする気もない。ではなぜ、ノラになっていたのか。
「ペピタ、エマのことすら思い出せないの? 箒をなくした時、助けてくれたのはエマじゃん! それに料理も教えてくれて、それに、それに……」
「ノラちゃん、落ち着いて。確かに箒はなくしたけど、探したのは自分だよ。料理だって、私が一人で練習してたし」
ノラが嘘をつくとは思えません。彼女は、私の次に屋敷に勤めている歴が長い。彼女のことはよく知っているつもりです。
しかし、言っていることはペピタが正しいのです。屋敷の使用人は三人。ただ、食事当番のことだけが気になります。
「……そうだ、人魂! シータもペピタも人魂のことを思い出してよ!」
人魂。確か、ペピタが見たと言っていました。書斎に上がる途中の窓で、青白く光る玉があったとか。
でもそれは……あれ。誰が流した噂でしょうか。私は違うし、ノラは毎日引きこもっています。
「最初にエイダ、次にメリッサ! ペピタも見たって言ってたでしょ!」
「うーん、確かに見たけど……あれれ?」
ペピタも私と同じように、混乱しているようです。ではノラの言うように、他の三人もいたと? 訳が分かりません。だとしたらなぜ、記憶にないのか。頭が痛くなってきました。
「ごめんなさい、ちょっと風に当たってきます」
私は席を外すことにしました。ノラの言うことが本当なら、どこかに痕跡が残っているはずです。エイダでも、メリッサでも、エマでも。誰でもいいから、その人がいた証さえあれば。
「私も。ちょっと頭が痛くて」
ペピタも同じ考えなのでしょうか。私とペピタの言うことと、ノラの言うこと。どちらが真実だとしても、この状況がおかしいことには変わりありません。
使用人室のドアを開けると、シータちゃんが頭を抱えていた。
「シータちゃん、どしたの?」
私が言うと、彼女は複雑な顔になった。喜んでいるが、しかし、なんだか疑っているようでもある眼差し。私、何かまずいことやっちゃったかな?
「ノラ、このイタズラをしたのは貴方?」
そう言ってボードを指差した。なになに、食事当番は……ノラ。ええっ、まさか本当に私が食事を作ることになってたの? いやいや、ありえない。だとしたら昨日誰かが教えてくれるはずだもんね。
「イタズラってどういうこと? 私、食事当番の話なんて聞いてないよ~」
「……そう、よね。貴方はサボリ魔だけど、イタズラはしない子だと信じていたわ。けど、それじゃあおかしいのよ」
「おかしい?」
「ええ。そもそも食事を作れるのが私だけなら、食事当番なんて項目があること自体おかしいのよ。でも実際、作れるのは私だけ」
シータちゃんは何言ってるんだろう。食事なんて、エイダにもエマにもメリッサにも作れるのに。ペピタは、まだまだ練習中だけどね。
「そんなことないよ。メリッサの料理、すっごく美味しいじゃん。エマも……」
「何言ってるの。使用人は私と貴方、ペピタの三人だけよ」
……やばい、マジで意味分かんない。ペピタもそうだけど、なんでみんながいないことにされてるの? シータちゃんはふざけてこんなことする人じゃないよ。なのにどうして?
「いやいや、シータちゃんおかしいよ! エイダ、エマ、メリッサの三人もいたでしょ!」
「……聞いたことないわね。私はメイド長として、全ての使用人を把握しているつもりよ」
やばい、なんか分からないけどやばい気がする。私がおかしいの? そういえば今日は三人とも会ってないっけ。いや、メリッサは私のことを起こしに来てくれた。やっぱりいるよ。
「でも、でも……」
「分かりました、じゃあペピタを呼んできます。彼女からも話を聞きましょう」
使用人室から出て行くシータちゃんの背中を、私はただじっと見つめていた。ペピタも、エイダをいないもののように扱っていた。話を聞いても無駄なのかな。
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お庭の掃除は本当に大変です。特に薔薇庭園の手入れは私には難しすぎます。なんて思っていたら、メイド長が向こうからやってきました。手伝ってくれるのでしょうか。
私が一礼すると、メイド長は言いました。
「ペピタ。ちょっと使用人室まできてもらえるかしら」
「あの、お庭の掃除は……」
「そのことも含めて、皆で話し合いたいことがあるの」
メイド長はいつにも増して真剣な顔つきです。皆っていうと、ノラちゃんもかな。新しい担当の振り分けかもしれないです。正直に、私にはお庭掃除は難しいって言うべきかもしれません。
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「の、ノラちゃん……どうしちゃったの?」
「どうもこうもないって! なんで二人とも忘れちゃったの!? エイダも、エマもメリッサも!」
ペピタを連れて戻ってきてからも、ノラはずっとこの調子です。彼女の言う三人は、この屋敷にはいません。でも、確かに気になることが多すぎます。
まず最初にロッカーの件。屋敷で働く使用人は三人、それに対してロッカーの数は六つ。私は使用人の数だけロッカーを用意するから、三つでなければおかしい。仮に異動などでロッカーが余ったとしても、翌日には物置に持っていく。
次に担当表。清掃場所は、書斎、玄関、チェスの間、客室二つ、給湯室、浴室、食堂、地下室、庭。これだけの場所を三人で回していたとは、正直考えづらい。でも実際、三人で回せていたはず。
最後に食事当番。これは確かに腑に落ちない。昼食と夕食の食事当番を決めるのは、メイド長の仕事。でも、私はノラを当番にした覚えはないし、もともとする気もない。ではなぜ、ノラになっていたのか。
「ペピタ、エマのことすら思い出せないの? 箒をなくした時、助けてくれたのはエマじゃん! それに料理も教えてくれて、それに、それに……」
「ノラちゃん、落ち着いて。確かに箒はなくしたけど、探したのは自分だよ。料理だって、私が一人で練習してたし」
ノラが嘘をつくとは思えません。彼女は、私の次に屋敷に勤めている歴が長い。彼女のことはよく知っているつもりです。
しかし、言っていることはペピタが正しいのです。屋敷の使用人は三人。ただ、食事当番のことだけが気になります。
「……そうだ、人魂! シータもペピタも人魂のことを思い出してよ!」
人魂。確か、ペピタが見たと言っていました。書斎に上がる途中の窓で、青白く光る玉があったとか。
でもそれは……あれ。誰が流した噂でしょうか。私は違うし、ノラは毎日引きこもっています。
「最初にエイダ、次にメリッサ! ペピタも見たって言ってたでしょ!」
「うーん、確かに見たけど……あれれ?」
ペピタも私と同じように、混乱しているようです。ではノラの言うように、他の三人もいたと? 訳が分かりません。だとしたらなぜ、記憶にないのか。頭が痛くなってきました。
「ごめんなさい、ちょっと風に当たってきます」
私は席を外すことにしました。ノラの言うことが本当なら、どこかに痕跡が残っているはずです。エイダでも、メリッサでも、エマでも。誰でもいいから、その人がいた証さえあれば。
「私も。ちょっと頭が痛くて」
ペピタも同じ考えなのでしょうか。私とペピタの言うことと、ノラの言うこと。どちらが真実だとしても、この状況がおかしいことには変わりありません。
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