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番外編 遠ざかる背中
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馬の背から、屋敷の門前が見える。
白い外壁と、咲き誇る春の庭。
その中に立つエリシアは、陽光を受けて眩しいほどだった。
(……もう、あいつの隣が似合う)
そう思えば、胸が締め付けられる。
二年前、彼女がアランと契約結婚したと聞いた時、心の奥でわずかな期待が生まれた。
期限が終われば、自分の番が来るかもしれない――そんな淡い望み。
だが、その二年間は想像以上に長く、そして短かった。
彼女は泣き、迷い、時に俺に助けを求めた。
その一瞬一瞬が、俺にとっては救いであり、罪でもあった。
(もう、助けを求められることはないだろう)
馬の手綱を握る手に力が入る。
未練はある。だが、それ以上に、彼女には幸せでいてほしい。
たとえその幸せが、俺以外の男によるものでも。
「……立派に、公爵夫人だな」
最後にそう告げた時、彼女は笑った。
あの笑顔を守るためなら、自分はどれだけでも距離を置ける――そう思えた。
背を向け、馬を進める。
振り返らない。
もし振り返ってしまえば、二年間積み上げた覚悟が崩れてしまうから。
春の風が頬を撫で、花の香りが遠くなっていく。
心の奥に残った熱は、しばらく消えそうになかった。
(……泣かされたら、その時は迎えに行く)
それだけを胸に刻み、俺は遠ざかる屋敷を後にした。
白い外壁と、咲き誇る春の庭。
その中に立つエリシアは、陽光を受けて眩しいほどだった。
(……もう、あいつの隣が似合う)
そう思えば、胸が締め付けられる。
二年前、彼女がアランと契約結婚したと聞いた時、心の奥でわずかな期待が生まれた。
期限が終われば、自分の番が来るかもしれない――そんな淡い望み。
だが、その二年間は想像以上に長く、そして短かった。
彼女は泣き、迷い、時に俺に助けを求めた。
その一瞬一瞬が、俺にとっては救いであり、罪でもあった。
(もう、助けを求められることはないだろう)
馬の手綱を握る手に力が入る。
未練はある。だが、それ以上に、彼女には幸せでいてほしい。
たとえその幸せが、俺以外の男によるものでも。
「……立派に、公爵夫人だな」
最後にそう告げた時、彼女は笑った。
あの笑顔を守るためなら、自分はどれだけでも距離を置ける――そう思えた。
背を向け、馬を進める。
振り返らない。
もし振り返ってしまえば、二年間積み上げた覚悟が崩れてしまうから。
春の風が頬を撫で、花の香りが遠くなっていく。
心の奥に残った熱は、しばらく消えそうになかった。
(……泣かされたら、その時は迎えに行く)
それだけを胸に刻み、俺は遠ざかる屋敷を後にした。
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