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第九章:猛毒のフルコース
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その日から、私の生活は劇的に変化した。
アルフレッド様による「二十四時間・至近距離サポート」が始まったのだ。
「エルセ、今日の朝食は君の好きな蜂蜜のパンケーキだ。僕が毒見(・・)をしておいたよ」
「毒見だなんて大袈裟ですわ。……でも、アルフレッド様が選んでくださったなら、きっと美味しいですわね!」
公爵家の私の部屋には、なぜか当然のようにアルフレッド様が居座っている。
彼は私の髪を梳き、読む本を選び、私が一歩でも外へ出ようとすれば「足元が危ないから」と言って、まるでお姫様のように抱き上げようとする。
(……ああ、天国。推しが! 私の! 髪を! 梳かしている! この光景、全読者に有料配信したい。スパチャで城が建つわ……!)
私は幸せを噛みしめていた。
そして彼のこの異常な献身を、私はこう解釈していた。
「カトレア様を地方へ行かせてしまった寂しさを、幼馴染である私を可愛がることで紛らわせている」のだと。
しかし、そんな「推し活三昧」の日々の最中、招かれざる客からの手紙が届いた。
窓から侵入した伝書鳩が運んできたのは、リュカ王子の紋章が刻まれた密書だった。
『謹慎は解かれた。だが、僕の立場は危うい。エルセ、君をこの狂った伯爵の手から救い出したい。今夜、国境近くの古い教会で待つ。僕と共に隣国へ逃げよう。君を一生、王妃として守り抜くと誓う』
「……駆け落ち!? 王子様が!?」
私はひっくり返りそうになった。
原作ではプライドの塊だった王子が、まさか国を捨てる覚悟で私を誘うなんて。
(ダメよ、そんなこと! 王子が駆け落ちなんてしたら外交問題になって、アルフレッド様の立場が危うくなるわ。それに、彼が隣国へ行ったら、カトレア様との再会計画も台無しになっちゃう!)
――推しの平穏のため、私が動くしかない。
そう決意した私は、アルフレッド様が会議で席を外している、ほんのわずかな隙を狙った。
深夜。しとしとと雨の降る中、私は古い教会の重い扉を開ける。
そこには、旅装束に身を包み、やつれた顔をしたリュカ王子が立っていた。
「エルセ……! 来てくれたのか! さあ、馬車が用意してある。ベルンシュタイン伯爵が追ってくる前に――」
「殿下、落ち着いてくださいませ。私はどこへも行きません」
きっぱりと拒絶すると、王子の顔が絶望に染まった。
「なぜだ!? あいつは狂っている! 君の周囲から人を遠ざけ、君を孤立させ、自分だけを頼るよう仕向けているんだ! あれは愛ではない、呪いだ!」
「いいえ、殿下。あれは……『推しの不器用な友情』ですわ」
「……は?」
話が噛み合わないまま王子が私の肩を掴んだ、その瞬間――。
バキィィンッ!!
教会のステンドグラスが、内側から爆ぜるような衝撃で粉砕された。
降り注ぐガラス片の中、入口に立っていたのは――
ずぶ濡れのまま、狂気さえも美しい微笑を浮かべたアルフレッド様だった。
「……見つけたよ。――逃げ出した悪い子には、どんな罰が必要かな?」
彼の背後には、抜剣した私兵たちがずらりと並ぶ。
その光景は、もはや「幼馴染の喧嘩」などという生易しいものではなかった。
「アルフレッド様! 違うんです、私はあなたの不祥事を防ごうと――!」
「黙って、エルセ。君が僕を裏切るなんて、一秒だって信じていない。……ただ、君をそそのかした“その腕”が、目障りで仕方ないんだ」
アルフレッド様の手元で、魔力がバチバチと音を立てる。
その視線は、私の肩に触れているリュカ王子の手に固定されていた。
(待って、アルフレッド様! その魔法、原作で城門を吹き飛ばしたやつ! 王子を消し炭にする気!?)
私は反射的に王子の前へ飛び出した。
それが、アルフレッド様の「逆鱗」に触れる最大の一手になるとも知らずに――。
アルフレッド様による「二十四時間・至近距離サポート」が始まったのだ。
「エルセ、今日の朝食は君の好きな蜂蜜のパンケーキだ。僕が毒見(・・)をしておいたよ」
「毒見だなんて大袈裟ですわ。……でも、アルフレッド様が選んでくださったなら、きっと美味しいですわね!」
公爵家の私の部屋には、なぜか当然のようにアルフレッド様が居座っている。
彼は私の髪を梳き、読む本を選び、私が一歩でも外へ出ようとすれば「足元が危ないから」と言って、まるでお姫様のように抱き上げようとする。
(……ああ、天国。推しが! 私の! 髪を! 梳かしている! この光景、全読者に有料配信したい。スパチャで城が建つわ……!)
私は幸せを噛みしめていた。
そして彼のこの異常な献身を、私はこう解釈していた。
「カトレア様を地方へ行かせてしまった寂しさを、幼馴染である私を可愛がることで紛らわせている」のだと。
しかし、そんな「推し活三昧」の日々の最中、招かれざる客からの手紙が届いた。
窓から侵入した伝書鳩が運んできたのは、リュカ王子の紋章が刻まれた密書だった。
『謹慎は解かれた。だが、僕の立場は危うい。エルセ、君をこの狂った伯爵の手から救い出したい。今夜、国境近くの古い教会で待つ。僕と共に隣国へ逃げよう。君を一生、王妃として守り抜くと誓う』
「……駆け落ち!? 王子様が!?」
私はひっくり返りそうになった。
原作ではプライドの塊だった王子が、まさか国を捨てる覚悟で私を誘うなんて。
(ダメよ、そんなこと! 王子が駆け落ちなんてしたら外交問題になって、アルフレッド様の立場が危うくなるわ。それに、彼が隣国へ行ったら、カトレア様との再会計画も台無しになっちゃう!)
――推しの平穏のため、私が動くしかない。
そう決意した私は、アルフレッド様が会議で席を外している、ほんのわずかな隙を狙った。
深夜。しとしとと雨の降る中、私は古い教会の重い扉を開ける。
そこには、旅装束に身を包み、やつれた顔をしたリュカ王子が立っていた。
「エルセ……! 来てくれたのか! さあ、馬車が用意してある。ベルンシュタイン伯爵が追ってくる前に――」
「殿下、落ち着いてくださいませ。私はどこへも行きません」
きっぱりと拒絶すると、王子の顔が絶望に染まった。
「なぜだ!? あいつは狂っている! 君の周囲から人を遠ざけ、君を孤立させ、自分だけを頼るよう仕向けているんだ! あれは愛ではない、呪いだ!」
「いいえ、殿下。あれは……『推しの不器用な友情』ですわ」
「……は?」
話が噛み合わないまま王子が私の肩を掴んだ、その瞬間――。
バキィィンッ!!
教会のステンドグラスが、内側から爆ぜるような衝撃で粉砕された。
降り注ぐガラス片の中、入口に立っていたのは――
ずぶ濡れのまま、狂気さえも美しい微笑を浮かべたアルフレッド様だった。
「……見つけたよ。――逃げ出した悪い子には、どんな罰が必要かな?」
彼の背後には、抜剣した私兵たちがずらりと並ぶ。
その光景は、もはや「幼馴染の喧嘩」などという生易しいものではなかった。
「アルフレッド様! 違うんです、私はあなたの不祥事を防ごうと――!」
「黙って、エルセ。君が僕を裏切るなんて、一秒だって信じていない。……ただ、君をそそのかした“その腕”が、目障りで仕方ないんだ」
アルフレッド様の手元で、魔力がバチバチと音を立てる。
その視線は、私の肩に触れているリュカ王子の手に固定されていた。
(待って、アルフレッド様! その魔法、原作で城門を吹き飛ばしたやつ! 王子を消し炭にする気!?)
私は反射的に王子の前へ飛び出した。
それが、アルフレッド様の「逆鱗」に触れる最大の一手になるとも知らずに――。
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