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第一章 魔女さんとの不思議な日々

一緒に住んでみて分かったこと

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 魔女さんと一緒に暮らしていて、気付いたことがある。

 まず、魔女さんは優しい。
 つい最近、目の見えない魔女さんに変わって家のお掃除を姉妹でやるようになったのだが、ルルが間違って高そうな大きなお皿を割ってしまった時のこと。これは絶対に叱られる、そう思って姉妹で泣きながら魔女さんに報告しに行くと。

「怪我は無かった? 痛いところは?」

 怒るどころか、お皿よりも先に私たちの事を心配してくれた。それがとても嬉しくて、また泣いてしまいそうになった。
 他にも魔女さんの優しい所はあるが、全部出すとキリがないのでここら辺にしておこう。

 次に気が付いたことは、魔女さんは絶対に目隠しを外さない。
 姉妹は買い物の時以外は、魔女さんと一日中ずっと一緒に居る。畑で野菜を採る時、お風呂に入る時、ご飯を食べる時も魔女さんが目隠しを外している所は一回も見たことがないのだ。

 「魔女さんの目が見たい!」と姉妹が言っても、「それは難しいわね~」とはぐらかされるだけである。
 あまりにも目元を見せてくれないので、「目を見られるのが嫌なのかも」と思った姉妹たちは、それから一回も「目を見せて」とお願いすることは無くなった。

 そして最後に、魔女さんは目が見えているのかもしれないということだ。
 そう思った根拠は、魔女さんは壁に当たらずに家の中を歩くし、料理だってミスをすることもない。
 姉妹が泥だらけになって買い物から帰って来た時には、私たちは泥で汚れていることを一言も教えてないのだが。

「あらあら……そんなに泥だらけになって……すぐにお風呂に入りなさい?」

 そんなことを玄関で迎えてくれた魔女さんに言われて驚いたのを覚えている。
 他にも、魔女さんはまるで目が見えたいるかのようにして、一日を問題なく過ごしているのだ。

 だから魔女さんは目が見えているのではないのかと思っていたのだが、それは私たちの勘違いであったことが今日の出来事で分かったのだった――。

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 寝室での出来事。

「じゃあ電気消すわね」

「はーい!」「は~い」

 姉妹が元気よく返事をすると、魔女さんは壁に付いているボタンを押して電気を消した。
 辺りに暗闇が訪れる。
 カサカサカサ。枕元に魔女さんの静かな足音が聞こえてくる。スリッパを引きずるようにして歩く音に、姉妹は魔女さんが居る安心感を覚える。

 ルルとナナの間に入るようにして魔女さんが布団に入った。ここの家に来た当初から、二人は魔女さんと一緒に寝ている。
 ルルとナナは魔女さんの隣で寝たいと言うので、左からルル・魔女さん・ナナの順番で川の字になって布団に入っている。

「魔女さんきた!」

 ルルが嬉しそうな声を上げると、魔女さんは静かに頭を撫でた。

「何も見えないよ~」

 ナナが寂しがり屋な声を上げると、こちらにも魔女さんの手が伸びて頭を優しく撫でた。

「もう、二人とも甘えん坊なんだから」

 すっかり両手を姉妹に持っていかれてしまった魔女さんは、その声とともにグイッと姉妹を抱き寄せた。

「わー! 魔女さん柔らかーい!」

 抱き寄せられた二人はお互いに違った反応を見せている。ルルは思い切り魔女さんの体に抱きついて、魔女さんの少し低めで柔らかい肌を堪能している。一方のナナは、静かに魔女さんの服に顔を埋めて匂いを嗅いでいる。こうしていると早く眠りに就けるのだそうだ。

「はいはい、私の体で遊ぶのもいいけど早く寝なさいね?」

「はーい!」「うん」

 そう返事をした二人だが、魔女さんから離れようとする気は無いらしく、未だに抱き着いている。
 しかし魔女さんは全く嫌がる素振りを見せずに、いつも二人の頭をゆっくりと撫でて夢の入口まで案内してくれるのだ。

 だがしかし、この日は姉妹揃ってなかなか眠りに就けない。すると二人の様子を察した魔女さんは、静かに声を上げた。

「二人とも寒い?」

 いくら暖かいお布団だと言っても、冬本番の季節の夜には少しだけ頼りなかった。

「うーん、ちょっと寒い」

「ナナもー」

 暗闇に姉妹の声が響くと、魔女さんは「分かったわ」と言って、二人を置いて布団から抜け出した。
 冷たい床を歩いていく魔女さんの足音が部屋に反響したかと思うと、今度は寝室の扉が開き魔女さんが出て行った。

「魔女さん、どこ行っちゃったのかな」

 暗闇に慣れた目は、ルルが上半身だけを起こして扉の先を見ているのを映した。

「んー、分かんない……」

 それを真似するように、ナナも足は布団の中へと入れたままに上半身を起こす。

「魔女さん、眠いのにいつも優しいよね」

「そうだよね……ナナ、魔女さんの家に来れて良かった」

「そうだね! 私もここに来れて良かった!」

 暗闇越しにルルとナナは笑顔を見せ合うと、ちょうど魔女さんが寝室へと戻ってきた。

「あらあら、二人ともそんな体勢でどうしたの?」

 そう言う魔女さんの手には、電源コードの付いていない小さなストーブが持たれていた。

「魔女さんを待ってたの!」「ナナも~」

「あら、嬉しいわ。でももう寝て大丈夫よ。心配をかけてごめんなさいね」

 姉妹はその言葉に従うように、ゆっくりと布団を肩まで掛ける。
 魔女さんはストーブを布団から離れた位置に置くと、指に小さな赤い火を灯した。
 その指をストーブに近づけると、その中で炎がメラメラと音を立てて静かに燃え出し、部屋に丁度いい暖かさが訪れる。

「わ! 暖かーい!」

「ポカポカする~」

 二人の反応を聞いた魔女さんは満足したように微笑み、布団へと戻ってきた。

「これでもう寒く無いでしょ?」

「うん! すごく暖かい!」「あったかーい」

 久しぶりのストーブに感動した姉妹は、もう一度魔女さんへと抱き着いた。
 するとルルが「ねーねー」と、布団に入った魔女さんに声を掛ける。

「魔女さんって本当は目が見えるの? さっきも私たちが布団から体だけを出してるの分かってたよね?」

 その質問に魔女さんは、「子供はよく見てるわね」と小さく笑った。
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