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第四章 洞窟の中には
力を合わせれば
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手を繋いで洞窟を進む。
ルルの手には、暗い洞窟を照らしてくれるたいまつが持たれている。きっとこのたいまつが無ければ、暗闇の中で歩くことは出来なかっただろう。
「それにしても、何も無いんだねえ」
「何も無いのが一番だよ……」
暗い道に二人の声が反響する。洞窟の中をゆっくりと進んでいるが、進んでも進んでも何もない。ハプニングが無いことは良いことなのだろうが、何かワクワクすることがあるのではないかと期待しているルルもいたのだ。
「うーん、でもいつになったらゴールなんだろうね」
「ゴール?」
「そうそう! 洞窟のどこら辺に檻があるのかなあって!」
「あー、確かにそれは聞いてなかったね」
山を入ってすぐに洞窟はあると聞いていたが、そこから檻までの道のりについては何も聞いていなかった。
そんなことを各々に考えていると、もしかしたら終わりが無いんじゃないかとも思えてきて、どこからともなく不安が襲ってきた。
だが、そんな二人の不安はすぐに消え去ることとなった。
「わ! これゴールだよね!」
姉妹の目の前には、大人の人が入れる程の大きさをした木の扉があった。しかも、扉の近くの壁には『猛獣取り扱い注意』と書かれていた。難しい漢字なので意味は分からないが、何となくの雰囲気で檻があるのではないかと考えることが出来た。
「良かったあ、早く入ろう?」
「うん! 入ろう!」
ルルはナナの手を離すと、その手で鉄のドアノブを捻った。
「あ、あれれ?」
ドアノブを捻ったり押したりするが、扉が開く気配は無い。
「ねえねえ! 鍵が掛かってる!」
ルルはそう言うと、今度はナナがドアノブに手を掛けた。体重を掛けて押したり引いたりしてみるが、扉が開く気配などなかった。
「ほんとだ……鍵が掛かってて開かない……」
ナナはドアノブから手を離すと、そっとその手に鼻を近づけた。ツンとする鉄の匂いに、思わず顔をしかめている。
「どうしようか!」
久しぶりのハプニングに、何故か嬉しそうな素振りを見せるルル。
「いや、鍵が無いと開かないと思うけど」
そんなルルのことを呆れ顔で見ているナナ。鍵が掛かった扉を開くには、もちろん鍵が必要だ。しかし、その鍵が何処にあるかは分からない。
「んー、鍵なんて無いよー」
ルルが扉の周りを照らしながら探しているようだが、鍵のような物は見当たらない。
「えー、誰か持ってっちゃったのかなあ」
「そうかもしれないねぇ」
「じゃあ入れないじゃん」
誰かが鍵を持って行ってしまったとしたら、この扉を開くことが出来ない。
そもそもドラゴンが檻に閉じ込められていたのは数十年も前の話なので、もう鍵すらも存在しないのかもしれない。
「うーん、それじゃあ困るんだよー、もうゴールは目の前なのに」
ルルはそう言うと扉を叩き出した。ドンドンと激しい音が洞窟内に響き渡る。
「もうお姉ちゃんうるさいよぉ」
ナナは耳を塞ぎながら小さな声を上げる。扉を叩く音に掻き消されてしまいそうな声だったが、ルルの耳にはしっかりと届いたようで、扉を叩く手がやっと止まった。
「よし! こうなったらあれしかないね!」
「あれって?」
ルルは元気よく言うと、扉から少しずつ離れていった。何をするのかナナには全く想像が着かないが、いつもの癖でルルの後を着いて歩く。
「扉を壊すんだよ!」
堂々と言ってみせたルル。多分、こういう所にある扉は壊してはいけない。それは幼い姉妹にも分かることだが、やる気に満ちたルルの前では無意味と化した。
「ナナはやっちゃダメだと思うけどな。はい、ナナは止めたからね」
「酷い! 私にだけ責任を押し付ける気だ! 鬼畜な妹め!」
ルルはそう言いながらも、たいまつをおもむろに地面へと置いて、胸の前に手を突き出しながら頭の中に魔法陣を浮かべ始めた。すると一瞬で、ルルの手には火が灯った。
「ナナ少し離れてて」
短く言葉を落とすと、その火がルルの顔よりも大きくなる。もうこれ以上は大きくならない。そう思うと同時に、ルルは思い切り火の玉を扉へと向かって放り投げた。
木の扉に当たった火の玉は砕け、黒い煙を巻き上げた。
反射的に口元を塞ぐ姉妹。だがしかし、火の玉に襲われた木の扉は表面をほんのりと焦がすだけで、扉が破壊されることは無かった。
「えぇ!? あれで壊れないの!?」
本気で火の魔法を唱えたのに、扉が壊れなかったことに驚いた様子のルル。
「木って火で燃えそうだけどね……」
「そうだよね、私も燃えると思ってた」
火の魔法で扉が壊せなかったとなると、今度は雷の魔法を使うようか?
いや、それはダメだ。
まだ雷の魔法は使ったことが少ないので、失敗してナナに直撃でもしてしまえば大惨事になる。ルルは火の魔法と雷の魔法しか覚えていないので、これ以上は魔法で扉を開く方法は無いだろう。一方のナナも、強化魔法と治癒魔法しか覚えていない……いや、ひとつだけあるじゃないか。
「ナナ! 強化魔法を使って!」
ルルの力だけでも、木の扉を焦がすことは出来た。もしかしたら強化魔法の力を借りれば、扉が壊せるくらいの威力になるかもしれない。ルルはそう思ったのだが、ナナの顔は渋い。
「それ、ナナも共犯になれってことだよね」
「まあ、そうなるかな?」
ナナはルルと違って、好奇心だけで行動しようとしない。何かをする時には自分の気持ちだけではなく、他人の気持ちや一般論を含めて行動の決定打とするのだ。そんなナナに、誰が何のために使ったのかも知らない扉を壊すことなど考えられなかった。
「えー、嫌だなあ」
「じゃあ壊したら私だけのせいにして良いから!」
「良いの?」
ナナが首を傾げると、ルルは力強く頷いてみせた。
まあ、そういうことなら良いかもしれない。せっかく怖い思いをしながらここまで来た訳だし。そう思ったナナは強化魔法を唱えることを心に決めた。
「じゃあ早くやっちゃお? 日が暮れちゃうよ」
「そうだね! やろうやろう!」
ナナに急かされて、ルルは急いで魔法を唱える。胸の前に突き出した手から火が現れ、それが一気に顔程の大きさに膨れ上がる。
「よし、あとはナナ、よろしく」
「うん、頑張る」
ナナはその火へと手を近づけて、頭の中で魔法陣を描く。すると顔程の大きさだった火の玉が、バランスボール程の大きさにまで膨れ上がった。
これが限界だ。これ以上は膨れ上がらないと確信したルルは目を鋭くさせる。
「この大きさで良いね! よーし! 投げるよー!」
小さく頷いたナナを横目で確認すると、ルルは思い切り火の玉を放った。
バランスボール程の大きさはある火の玉が扉に衝突すると、大きな破壊音とともに煙が舞い上がった。煙のせいで目の前が見えなくなる。
口元を手で塞いでいると、舞っていた煙が段々と消えていく。そして、目の前には――。
「やったー! 扉が開いたよ!」
「開いたというか、壊れたというか……」
床に置きっぱなしだったたいまつを拾い上げると姉妹の目の前には、あったはずの扉が綺麗さっぱりになくなっていた。床を見ると焼け焦げた木くずが落ちている。
「扉が弱すぎるのが悪いんだよ! ささ、早く行こ!」
そう言って力強くナナの手を引っ張るルル。
「昔に作られたんだから弱いのはしょうがないよ……」
首輪を引かれる散歩嫌いな犬のように、ナナは引きずられるようにして、扉の中へと消えて行ったのだった。
ルルの手には、暗い洞窟を照らしてくれるたいまつが持たれている。きっとこのたいまつが無ければ、暗闇の中で歩くことは出来なかっただろう。
「それにしても、何も無いんだねえ」
「何も無いのが一番だよ……」
暗い道に二人の声が反響する。洞窟の中をゆっくりと進んでいるが、進んでも進んでも何もない。ハプニングが無いことは良いことなのだろうが、何かワクワクすることがあるのではないかと期待しているルルもいたのだ。
「うーん、でもいつになったらゴールなんだろうね」
「ゴール?」
「そうそう! 洞窟のどこら辺に檻があるのかなあって!」
「あー、確かにそれは聞いてなかったね」
山を入ってすぐに洞窟はあると聞いていたが、そこから檻までの道のりについては何も聞いていなかった。
そんなことを各々に考えていると、もしかしたら終わりが無いんじゃないかとも思えてきて、どこからともなく不安が襲ってきた。
だが、そんな二人の不安はすぐに消え去ることとなった。
「わ! これゴールだよね!」
姉妹の目の前には、大人の人が入れる程の大きさをした木の扉があった。しかも、扉の近くの壁には『猛獣取り扱い注意』と書かれていた。難しい漢字なので意味は分からないが、何となくの雰囲気で檻があるのではないかと考えることが出来た。
「良かったあ、早く入ろう?」
「うん! 入ろう!」
ルルはナナの手を離すと、その手で鉄のドアノブを捻った。
「あ、あれれ?」
ドアノブを捻ったり押したりするが、扉が開く気配は無い。
「ねえねえ! 鍵が掛かってる!」
ルルはそう言うと、今度はナナがドアノブに手を掛けた。体重を掛けて押したり引いたりしてみるが、扉が開く気配などなかった。
「ほんとだ……鍵が掛かってて開かない……」
ナナはドアノブから手を離すと、そっとその手に鼻を近づけた。ツンとする鉄の匂いに、思わず顔をしかめている。
「どうしようか!」
久しぶりのハプニングに、何故か嬉しそうな素振りを見せるルル。
「いや、鍵が無いと開かないと思うけど」
そんなルルのことを呆れ顔で見ているナナ。鍵が掛かった扉を開くには、もちろん鍵が必要だ。しかし、その鍵が何処にあるかは分からない。
「んー、鍵なんて無いよー」
ルルが扉の周りを照らしながら探しているようだが、鍵のような物は見当たらない。
「えー、誰か持ってっちゃったのかなあ」
「そうかもしれないねぇ」
「じゃあ入れないじゃん」
誰かが鍵を持って行ってしまったとしたら、この扉を開くことが出来ない。
そもそもドラゴンが檻に閉じ込められていたのは数十年も前の話なので、もう鍵すらも存在しないのかもしれない。
「うーん、それじゃあ困るんだよー、もうゴールは目の前なのに」
ルルはそう言うと扉を叩き出した。ドンドンと激しい音が洞窟内に響き渡る。
「もうお姉ちゃんうるさいよぉ」
ナナは耳を塞ぎながら小さな声を上げる。扉を叩く音に掻き消されてしまいそうな声だったが、ルルの耳にはしっかりと届いたようで、扉を叩く手がやっと止まった。
「よし! こうなったらあれしかないね!」
「あれって?」
ルルは元気よく言うと、扉から少しずつ離れていった。何をするのかナナには全く想像が着かないが、いつもの癖でルルの後を着いて歩く。
「扉を壊すんだよ!」
堂々と言ってみせたルル。多分、こういう所にある扉は壊してはいけない。それは幼い姉妹にも分かることだが、やる気に満ちたルルの前では無意味と化した。
「ナナはやっちゃダメだと思うけどな。はい、ナナは止めたからね」
「酷い! 私にだけ責任を押し付ける気だ! 鬼畜な妹め!」
ルルはそう言いながらも、たいまつをおもむろに地面へと置いて、胸の前に手を突き出しながら頭の中に魔法陣を浮かべ始めた。すると一瞬で、ルルの手には火が灯った。
「ナナ少し離れてて」
短く言葉を落とすと、その火がルルの顔よりも大きくなる。もうこれ以上は大きくならない。そう思うと同時に、ルルは思い切り火の玉を扉へと向かって放り投げた。
木の扉に当たった火の玉は砕け、黒い煙を巻き上げた。
反射的に口元を塞ぐ姉妹。だがしかし、火の玉に襲われた木の扉は表面をほんのりと焦がすだけで、扉が破壊されることは無かった。
「えぇ!? あれで壊れないの!?」
本気で火の魔法を唱えたのに、扉が壊れなかったことに驚いた様子のルル。
「木って火で燃えそうだけどね……」
「そうだよね、私も燃えると思ってた」
火の魔法で扉が壊せなかったとなると、今度は雷の魔法を使うようか?
いや、それはダメだ。
まだ雷の魔法は使ったことが少ないので、失敗してナナに直撃でもしてしまえば大惨事になる。ルルは火の魔法と雷の魔法しか覚えていないので、これ以上は魔法で扉を開く方法は無いだろう。一方のナナも、強化魔法と治癒魔法しか覚えていない……いや、ひとつだけあるじゃないか。
「ナナ! 強化魔法を使って!」
ルルの力だけでも、木の扉を焦がすことは出来た。もしかしたら強化魔法の力を借りれば、扉が壊せるくらいの威力になるかもしれない。ルルはそう思ったのだが、ナナの顔は渋い。
「それ、ナナも共犯になれってことだよね」
「まあ、そうなるかな?」
ナナはルルと違って、好奇心だけで行動しようとしない。何かをする時には自分の気持ちだけではなく、他人の気持ちや一般論を含めて行動の決定打とするのだ。そんなナナに、誰が何のために使ったのかも知らない扉を壊すことなど考えられなかった。
「えー、嫌だなあ」
「じゃあ壊したら私だけのせいにして良いから!」
「良いの?」
ナナが首を傾げると、ルルは力強く頷いてみせた。
まあ、そういうことなら良いかもしれない。せっかく怖い思いをしながらここまで来た訳だし。そう思ったナナは強化魔法を唱えることを心に決めた。
「じゃあ早くやっちゃお? 日が暮れちゃうよ」
「そうだね! やろうやろう!」
ナナに急かされて、ルルは急いで魔法を唱える。胸の前に突き出した手から火が現れ、それが一気に顔程の大きさに膨れ上がる。
「よし、あとはナナ、よろしく」
「うん、頑張る」
ナナはその火へと手を近づけて、頭の中で魔法陣を描く。すると顔程の大きさだった火の玉が、バランスボール程の大きさにまで膨れ上がった。
これが限界だ。これ以上は膨れ上がらないと確信したルルは目を鋭くさせる。
「この大きさで良いね! よーし! 投げるよー!」
小さく頷いたナナを横目で確認すると、ルルは思い切り火の玉を放った。
バランスボール程の大きさはある火の玉が扉に衝突すると、大きな破壊音とともに煙が舞い上がった。煙のせいで目の前が見えなくなる。
口元を手で塞いでいると、舞っていた煙が段々と消えていく。そして、目の前には――。
「やったー! 扉が開いたよ!」
「開いたというか、壊れたというか……」
床に置きっぱなしだったたいまつを拾い上げると姉妹の目の前には、あったはずの扉が綺麗さっぱりになくなっていた。床を見ると焼け焦げた木くずが落ちている。
「扉が弱すぎるのが悪いんだよ! ささ、早く行こ!」
そう言って力強くナナの手を引っ張るルル。
「昔に作られたんだから弱いのはしょうがないよ……」
首輪を引かれる散歩嫌いな犬のように、ナナは引きずられるようにして、扉の中へと消えて行ったのだった。
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