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第四章 洞窟の中には
たいまつを片手に
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扉の中に踏み込んでみると、そこには螺旋状の階段があった。両脇には壁があるが、下が螺旋状になっていることによって先に何があるのかが分からない。
「この階段を最後まで下りたら檻があるのかな!」
火の明かりに照らされたルルが、ナナの顔を覗き込んだ。先の見えない階段を怖がっているのではと思われたナナだが、ルルの顔を見て小さく頷いてくれた。
「うん、ここまで来たんだもん、行くしかないよね」
「そうだね! 行くしかない!」
二人とも目を合わせて力強く頷き、繋ぐ手にも力を込める。こうやって二人で手を繋いでいれば、きっと怖いことなんて何もない。
そうして姉妹は、先の見えない階段をゆっくりと下って行くのだった。
======
階段は意外にも短かかった。幼い姉妹の足で二分程歩いてみると、すぐに平地があったのだ。
火の明かりだけでは先まで見通せないが、そこは大きな空間のようだった。そのため、火を頼りに歩いてしまえば迷ってしまいそうだ。
これはどうしたものかと頭を捻っていると、ナナが壁の一点を指さした。
「お姉ちゃん、あれ、線がある」
ナナが指さしていたのは、壁に貼り付けられた電気を流すための線だった。
「本当だ! ってことはどこかに明かりを点けるスイッチがあるってこと?」
「うん、絶対にそうとは言えないけど、その可能性は高いかもね」
「へー! じゃあスイッチを探すしかないじゃん!」
ルルはそう言うとナナの手を離し、たいまつの火を頼りにスイッチを探し始めた。
「お姉ちゃん何やってるの?」
「何ってスイッチを探してるんだよ!」
あっちこっちに行きながらスイッチを探すルルを、ナナは不思議そうな表情で眺めている。
ルルはそんなナナの表情に気が付くことはなく、黙々と暗闇の中を早足で探している。
「ねえお姉ちゃん」
たいまつを持つルルからは、ナナの姿は見えない。なので、暗闇の中から聞こえてきたナナの声に反応する。
「なーにー?」
一方のナナは、たいまつを持つルルの姿がハッキリと見える。だって、ルルだけが光って見えるのだから。
「スイッチ探すならさ、線を辿れば良くない?」
「線を……辿る……?」
そこでルルは、ナナの言っていることに気が付いた。線は何のためにあるのか。それは、スイッチと明かりを繋ぐ橋のような存在だ。だから線を辿って行けば、逆方向に進んでしまわない限りはスイッチに辿り着くことが出来る。
「あー! その手があったかー!」
「その手しか無いと思ってたんだけど……」
ナナは呆れ顔のままに、ルルに聞こえないくらいの小さなため息を吐いた。そんなことなど知ったことかと、ルルはずんずんとナナの近くにある線に近づいた。
「よし! これはどっちに進めば!」
「うーん……階段側に進めば良いんじゃない? 明かりのスイッチって奥に置かないよね」
「そっか! そうだよね! わざわざ奥には置かないよね!」
本当にナナの言っていることが分かったのかどうかは神のみぞ知るが、いちいち突っかかっていては前に進めないので、ここは口出しをしないでルルの様子を眺めていよう。
ルルは線を指で辿りながら階段の方へと歩いていく。線は所々でカーブを描いたりジグザグとしたりしている。きっと手先の不器用な人がコンセントを設置したのだろうなーと思いながら、ルルの様子を眺めているナナ。
するとルルが辿っていた線が跳ね上がるように、上へと伸び始めた。頑張って辿ろうとするが、線は垂直に伸び始めてルルの身長では足りないくらいに伸び出した。
「届かないよー、どうなってんのー?」
ルルはそう言いながらたいまつを頭上に掲げると、ちょうど身長の倍はありそうな所にスイッチがあるのを発見した。
「あったー! これ多分電気のスイッチだよね!」
「そうっぽいね」
ルルはスイッチを発見した喜びのままに、思い切りジャンプして手を伸ばした。しかしルルのジャンプ力では、あと少しだけ届かない。何度も何度もジャンプしては腕を伸ばしてみるが、スイッチに手が届く事は無かった。
「うん、届かない。ナナは届く?」
「えー、お姉ちゃんが無理なら届かないよ」
ナナはそう言いながらも、ルルに代わってスイッチに手を伸ばしてみた。もちろんそれだけでは届くはずも無く、次は思い切りジャンプをしてみた。何度も何度も試してみるが、届く気配はない。
そんなナナの様子を、有り得ないものでも見るような顔を浮かべながらルルが見ていた。
「え、まってまって、何そのジャンプ」
「何って、何?」
必死にジャンプしているナナが、そんなルルの表情に気が付く。
「え? 見間違いかもしれないからもう一回ジャンプしてみて」
「う、うん」
ナナは頷くと、思い切りジャンプをして手を伸ばした。もちろん、スイッチに手は届かない。ジャンプをし終えてルルの顔を覗くと、未だに表情を変えずに居た。
「ねぇ、ナナってもしかしなくても運動音痴でしょ」
「え、なんで……」
「だって、さっきから五センチくらいしか跳んでないよ……」
「え……」
そう言われてみれば、ジャンプしてもスイッチまでの距離が縮まらなかった気がする。
もしかしたら本当に運動音痴なのかもしれない……。
運動は好きではないが普通に出来ると思っていたナナは、心に小さい傷を作ったのだった。
「もうナナのことはいいから、スイッチ押す方法考えようよ」
ナナの声は低くなり、目に見えて落ち込んでいるようだ。
そんな声を聞いたルルは慌てながら、どうするかを考え始めようとした時、いきなり顔をパッと上げた。
「あ、思いついちゃった」
「今回は随分と早いね」
ルルは目を細めながら大きく頷くと、スイッチの方を指さした。
「今回は簡単だよ! 肩車をすればいいんだよ!」
肩車。人の肩の上に座るあれだ。
肩車は魔女さんに何度かして貰ったことがある。
しかし姉妹同士では危ないから言われているので、やったことが一度も無かった。
「肩車……危なくない?」
「大丈夫だよ! 一瞬だから!」
「どっちが下? ナナは絶対に嫌だよ?」
その言葉の通り、ナナは嫌そうな表情を浮かべている。だがしかし、今回は言い争ったりジャンケンしなくても良さそうだ。
「うん! 私は上の方が嫌だから大丈夫!」
力の無いナナが下なんて絶対に落ちる。だから、ナナに下を任せるよりは私が下になった方が断然に良いと考えたのだ。
「ほんと? じゃあ決まりだね」
「うん! そうと決まれば早くやっちゃおう! 時間がもったいないよ!」
ルルはそう言うと、スイッチの真下にしゃがみ込んだ。ナナは何の躊躇いもなくルルの肩へと座る。
「あ、たいまつ持って」
「うん」
ルルからたいまつが手渡され、ナナは久しぶりにたいまつを手に持った。
「じゃあ立つよ!」
「はーい」
ナナの言葉を聞いたと同時に、ルルは足に力を込めて立ち上がった。想像以上にナナの体重は軽く、すんなりと持ち上がる。
「届きそうー?」
「うん、もうちょい」
ナナの足がプルプルと振るえ出す。
ちょっとバランスが厳しくなってきた……そう思って一旦腰を落とそうとしたその時。
バチン――。
スイッチを押す音と共に、洞窟の中に眩しいくらいの明かりが点いた。暗闇に慣れていた目が光に晒されて、思わず目を瞑る。
そうして段々と光の刺激にも慣れて目が開くようになると、辺りの光景が目の当たりになる。
「これ……」「檻だね……」
ナナはルルの肩から降りて、目の前にある檻を見上げる。
そこにあったのは、魔女さんの家よりも大きく所々にサビの目立つ鉄の檻だった。
「この階段を最後まで下りたら檻があるのかな!」
火の明かりに照らされたルルが、ナナの顔を覗き込んだ。先の見えない階段を怖がっているのではと思われたナナだが、ルルの顔を見て小さく頷いてくれた。
「うん、ここまで来たんだもん、行くしかないよね」
「そうだね! 行くしかない!」
二人とも目を合わせて力強く頷き、繋ぐ手にも力を込める。こうやって二人で手を繋いでいれば、きっと怖いことなんて何もない。
そうして姉妹は、先の見えない階段をゆっくりと下って行くのだった。
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階段は意外にも短かかった。幼い姉妹の足で二分程歩いてみると、すぐに平地があったのだ。
火の明かりだけでは先まで見通せないが、そこは大きな空間のようだった。そのため、火を頼りに歩いてしまえば迷ってしまいそうだ。
これはどうしたものかと頭を捻っていると、ナナが壁の一点を指さした。
「お姉ちゃん、あれ、線がある」
ナナが指さしていたのは、壁に貼り付けられた電気を流すための線だった。
「本当だ! ってことはどこかに明かりを点けるスイッチがあるってこと?」
「うん、絶対にそうとは言えないけど、その可能性は高いかもね」
「へー! じゃあスイッチを探すしかないじゃん!」
ルルはそう言うとナナの手を離し、たいまつの火を頼りにスイッチを探し始めた。
「お姉ちゃん何やってるの?」
「何ってスイッチを探してるんだよ!」
あっちこっちに行きながらスイッチを探すルルを、ナナは不思議そうな表情で眺めている。
ルルはそんなナナの表情に気が付くことはなく、黙々と暗闇の中を早足で探している。
「ねえお姉ちゃん」
たいまつを持つルルからは、ナナの姿は見えない。なので、暗闇の中から聞こえてきたナナの声に反応する。
「なーにー?」
一方のナナは、たいまつを持つルルの姿がハッキリと見える。だって、ルルだけが光って見えるのだから。
「スイッチ探すならさ、線を辿れば良くない?」
「線を……辿る……?」
そこでルルは、ナナの言っていることに気が付いた。線は何のためにあるのか。それは、スイッチと明かりを繋ぐ橋のような存在だ。だから線を辿って行けば、逆方向に進んでしまわない限りはスイッチに辿り着くことが出来る。
「あー! その手があったかー!」
「その手しか無いと思ってたんだけど……」
ナナは呆れ顔のままに、ルルに聞こえないくらいの小さなため息を吐いた。そんなことなど知ったことかと、ルルはずんずんとナナの近くにある線に近づいた。
「よし! これはどっちに進めば!」
「うーん……階段側に進めば良いんじゃない? 明かりのスイッチって奥に置かないよね」
「そっか! そうだよね! わざわざ奥には置かないよね!」
本当にナナの言っていることが分かったのかどうかは神のみぞ知るが、いちいち突っかかっていては前に進めないので、ここは口出しをしないでルルの様子を眺めていよう。
ルルは線を指で辿りながら階段の方へと歩いていく。線は所々でカーブを描いたりジグザグとしたりしている。きっと手先の不器用な人がコンセントを設置したのだろうなーと思いながら、ルルの様子を眺めているナナ。
するとルルが辿っていた線が跳ね上がるように、上へと伸び始めた。頑張って辿ろうとするが、線は垂直に伸び始めてルルの身長では足りないくらいに伸び出した。
「届かないよー、どうなってんのー?」
ルルはそう言いながらたいまつを頭上に掲げると、ちょうど身長の倍はありそうな所にスイッチがあるのを発見した。
「あったー! これ多分電気のスイッチだよね!」
「そうっぽいね」
ルルはスイッチを発見した喜びのままに、思い切りジャンプして手を伸ばした。しかしルルのジャンプ力では、あと少しだけ届かない。何度も何度もジャンプしては腕を伸ばしてみるが、スイッチに手が届く事は無かった。
「うん、届かない。ナナは届く?」
「えー、お姉ちゃんが無理なら届かないよ」
ナナはそう言いながらも、ルルに代わってスイッチに手を伸ばしてみた。もちろんそれだけでは届くはずも無く、次は思い切りジャンプをしてみた。何度も何度も試してみるが、届く気配はない。
そんなナナの様子を、有り得ないものでも見るような顔を浮かべながらルルが見ていた。
「え、まってまって、何そのジャンプ」
「何って、何?」
必死にジャンプしているナナが、そんなルルの表情に気が付く。
「え? 見間違いかもしれないからもう一回ジャンプしてみて」
「う、うん」
ナナは頷くと、思い切りジャンプをして手を伸ばした。もちろん、スイッチに手は届かない。ジャンプをし終えてルルの顔を覗くと、未だに表情を変えずに居た。
「ねぇ、ナナってもしかしなくても運動音痴でしょ」
「え、なんで……」
「だって、さっきから五センチくらいしか跳んでないよ……」
「え……」
そう言われてみれば、ジャンプしてもスイッチまでの距離が縮まらなかった気がする。
もしかしたら本当に運動音痴なのかもしれない……。
運動は好きではないが普通に出来ると思っていたナナは、心に小さい傷を作ったのだった。
「もうナナのことはいいから、スイッチ押す方法考えようよ」
ナナの声は低くなり、目に見えて落ち込んでいるようだ。
そんな声を聞いたルルは慌てながら、どうするかを考え始めようとした時、いきなり顔をパッと上げた。
「あ、思いついちゃった」
「今回は随分と早いね」
ルルは目を細めながら大きく頷くと、スイッチの方を指さした。
「今回は簡単だよ! 肩車をすればいいんだよ!」
肩車。人の肩の上に座るあれだ。
肩車は魔女さんに何度かして貰ったことがある。
しかし姉妹同士では危ないから言われているので、やったことが一度も無かった。
「肩車……危なくない?」
「大丈夫だよ! 一瞬だから!」
「どっちが下? ナナは絶対に嫌だよ?」
その言葉の通り、ナナは嫌そうな表情を浮かべている。だがしかし、今回は言い争ったりジャンケンしなくても良さそうだ。
「うん! 私は上の方が嫌だから大丈夫!」
力の無いナナが下なんて絶対に落ちる。だから、ナナに下を任せるよりは私が下になった方が断然に良いと考えたのだ。
「ほんと? じゃあ決まりだね」
「うん! そうと決まれば早くやっちゃおう! 時間がもったいないよ!」
ルルはそう言うと、スイッチの真下にしゃがみ込んだ。ナナは何の躊躇いもなくルルの肩へと座る。
「あ、たいまつ持って」
「うん」
ルルからたいまつが手渡され、ナナは久しぶりにたいまつを手に持った。
「じゃあ立つよ!」
「はーい」
ナナの言葉を聞いたと同時に、ルルは足に力を込めて立ち上がった。想像以上にナナの体重は軽く、すんなりと持ち上がる。
「届きそうー?」
「うん、もうちょい」
ナナの足がプルプルと振るえ出す。
ちょっとバランスが厳しくなってきた……そう思って一旦腰を落とそうとしたその時。
バチン――。
スイッチを押す音と共に、洞窟の中に眩しいくらいの明かりが点いた。暗闇に慣れていた目が光に晒されて、思わず目を瞑る。
そうして段々と光の刺激にも慣れて目が開くようになると、辺りの光景が目の当たりになる。
「これ……」「檻だね……」
ナナはルルの肩から降りて、目の前にある檻を見上げる。
そこにあったのは、魔女さんの家よりも大きく所々にサビの目立つ鉄の檻だった。
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