イケメンがネギを背負って来た。

柏木あきら

文字の大きさ
5 / 9

5.楽しいひととき

しおりを挟む
そう言って笑うスナオくん。少し砕けてきた口調に俺も嬉しくなってきた。大将嬉しかっただろうなあ。
「だから【南町亭】ができたのは…あれ、俺名前聞いてないや」
「俺?」
「他に誰がいるの」
クックックと声を出して笑い始めたスナオくん。まさかスナオくんに名前を教えるほどの仲になるなんて。
「小畑《おばた》だよ」
「ありがとう、小畑さんのおかげで【南町亭】はオープンできたんだ」
そう言われ、俺はまたジワっと目が潤んできた。
「ダメだな、歳取ったら涙もろくなって」
「小畑さんは三年前と全然変わってないよ。…そうだ、休日のお昼はどうしているの?」
「コンビニとか、たまに自炊かな。給料前とかさ」
どうしてそんなことを聞くのだろうと思いつつ答えると、スナオくんはズイッと顔を近づけた。
「じゃあ小畑さんのお昼、よかったら作ってあげようか?土曜日のこの時間ならいつも一人だから来れる日に来てよ。携帯番号教えて?」
思わぬ提案に驚いたが逃す手はない、と思い少し考えたふりをして答えた。
「お願いするわ。家、近いし…でもどうして」
「小畑さんの胃袋も掴んでみたいなって」
プロポーズかよ、と笑いながらも内心もう心臓がドキドキだった。

それから土曜日は【南町亭】に行くことになった。十四時くらいが誰もいなくなると聞いていたから、朝ごはんを少し遅めに食べ、午前中を過ごし、チャリで十五分走る。暖簾がない引き戸を開ければスナオくんが待っててくれる。忙しい時は賄い飯の時もあるけど、たいていは俺のために定食を作ってくれているようだ。数回か通ううちに、スナオくんも時間をあわせて二人で同じテーブルで昼食をとるようになっていた。
先週は青椒肉絲定食、今週はナポリタンとサラダ。メニューはお任せだし、当日にならないとわからないのでチャリで走っている時楽しみで仕方ない。ご飯を食べながら話をするのもまた楽しい。その中で知ったのだけど、スナオくんの名前の漢字はそのまま『素直』だった。社交的ではなかったスナオくんは、この名前が嫌で長いこと反発していたらしい。
「素直ないい子でいなさい、みたいな感じで嫌だったんだ」
「いい名前じゃん」
ナポリタンをくるくるとスプーンに巻き付け口にするとケチャップが多めで懐かしい味が広がる。
「素直になれないんだよね、名前嫌ってたから、呪いかな」
「ははっ面白い事言うね」
毎週話をしていくうちに、俺の中でスナオくんの情報がどんどん蓄積されていく。そして何より愛しさとかそう言う恋愛感情も蓄積されていく。
すると不安や諦めも比例してしまい俺の心の中はグチャグチャ。好きになっていっても、叶うわけないのに、と仲良くなっても告白できないのに、と。なかなか難しいのだ。まだ若かったら。勢いよく前に進めたかもしれないけれど。
「あれ?」
スナオくんが食後のコーヒーを淹れている間に、封筒が床に落ちていることに気がついた。ピンクの可愛らしい封筒だ。俺はそれを拾い上げ、スナオくんの近くまで持っていった。背中を向けてコーヒーを入れていた彼はこちらを振りかえる。
「これ落ちてたよ」
俺の手からスナオくんはその封筒を取ると何だか困ったような顔になる。何だろうか。
「…バイトの女の子から渡されたんですけどね。家で読んで欲しいって」
「あ…」
その言葉でピンときた。バイトの子は、いつも昼にオーダーを取りに来てくれる、可愛らしい女の子だろう。彼女はきっとスナオくんへの想いを手紙にしたためたのだろう。自分の心臓が飛び出しそうなほど動悸が激しくて、俺は聞こえないか心配になった。スナオくんはその封筒を見つめながら言う。
「さすがにないかな。彼女八つも年下だし」
コーヒーを入れ終えて、テーブルに置く。向かいに座ったスナオくんに俺は意を決して聞いた。
「スナオくん、彼女はいないの」
「うん。いないよ。二年前に別れてから、もうなんだかめんどくさくって」
彼女がいないことに、ホッとしながらもやっぱりヘテロなんだよなと思う。しかも二年前なら、出会った頃は彼女がいたんだなと訳の分からない感情でモヤモヤしていた。
「小畑さんは?俺初めて見た時、既婚者かと思ってた。サラリーマンの人って落ち着いて見えるからさ。でも指輪ないし…」
「まあこんな歳だし、嫁がいるのが普通なんだけどね」
「小畑さんの胃袋掴んだ子はまだいないの?」
スナオくんの何気ない言葉。だけどそれは俺の心臓を突いた。
それを君が言うなんて、と思った瞬間俺はもう言葉にしてしまっていた。
「いるよ」
「そうなんだ、じゃあその子に…」
言葉を遮るように俺は立ち上がりテーブルの上のスナオくんの手を取った。衝動はもう抑えられなくて。
「スナオくんだよ、胃袋だけじゃなくて…!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

壁乳

リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。 最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。 俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 じれじれラブコメディー。 4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。 (挿絵byリリーブルー)

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

処理中です...