イケメンがネギを背負って来た。

柏木あきら

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6.逃げる

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そう言いかけた時、スナオくんの驚いた顔に一瞬で青くなった。やらかした、と思いすぐに手を離す。まだリカバリーはできる。スナオくんのご飯が美味しくて、とかなんとか言えば。そう頭では分かっているのに。
「気持ち悪いよね、ごめん」
その言葉で分かってしまうだろう。俺が恋愛感情を持っているということを。
隣の椅子に置いていた鞄を手に持ち、俺はスナオくんの顔を見ることもなく【南町亭】から飛び出した。

俺は翌日から【南町亭】に足を向けなくなった。さらに重なるもので、数日後、急遽の県外赴任が決まってしまう。しかも六ヶ月という長いスパンだ。赴任が決まってからも【南町亭】に行くことはなかった。お昼を誘ってくれていた城南がちょうど繁忙期で誘ってこなかったのも重なり、まるで何もかもが俺から【南町亭】を遠ざけるように動いていた。
そして、スナオくんからのメールも着信もあの日から一切ない。多分もう会いたくないと思っているから連絡がないのだろう。そんな中、のうのうと【南町亭】に行けるほど面の皮は厚くない。結局俺はそのまま【南町亭】から離れて行った。
そのくせに赴任先でもスナオくんが頭から離れなくて、何度もあの日のことを、後悔していた。あの日から彼はどんな気持ちでいただろうか。優しさでご飯を食べさせていた男にまさか、好かれていたなんて。俺はスナオくんの反応を見もせずに逃げてしまった。今思えばなんて身勝手だったんだろうか。
そんなことを思いながら過ごしていた日々。ある日、定時すぎに城南からメールが届いた。
『お前次いつかこっち来ることある?』
ぶっきらぼうな文章に思わず苦笑してしまう。
『ちょうど来週、仕事のことでそっちにいくよ』
『そか。分かった』
それだけでメールは終わってしまい何の用事かは分からなかった。まあ向こうに帰ったら話すればいいか。久々に城南に会えるのはちょっと楽しみだ。
そして翌週。二ヶ月ぶりに打ち合わせのために事務所に寄り、昼の時間になると城南が席までやってきた。
「よー、久しぶり!元気にしてたか?」
「うん。あれなんか太った?」
「うわ傷つくわー。何でわかるんだよ。まあいいや、飯行くぞ」
相変わらず元気で声がでかい城南に釣られて、俺は笑いながら席を立ち二人で外に出た。その間、近況を報告しあう。
「どこ食べ行く?」
俺がそう言うと待ってましたと言わんばかりに突然肩を掴まれ、城南は言う。
「【南町亭】に決まってんだろ、行くぞ。スナオくんが待ってんだよ」
城南の言葉にギョッとする。なんでスナオくんの話が出るんだ?俺が口をパクパクさせていると、早く行かないと席がなくなるぞと言われて慌ててついて行く。
「お前がいないときに【南町亭】に食べに行ったらメガネの子に声かけられてさ。もう一人の人は最近どうしたのかって。長期赴任だって伝えたらお前に連絡できるなら、伝えてくれっていわれたんだよ。スナオくんが待ってるって」
少し足早に歩く城南。俺は息を飲みながら話を聞いた。スナオくんが俺を待っている?そんなはずはない。だって連絡すらなかったんだし…
俺が答えないでいると、さらに話を進める。
「何があったか知らないけど、電話で伝えるだけじゃお前は【南町亭】に行きそうにないからこうやって連れ出したってわけ」
「じゃあ、あのメールは」
「お前がこの日来るから、俺が【南町亭】に連れて行くってメガネくんに伝えた。だからスナオくんは今日お前が来るのを待っているんだ」
そんな、と胸の鼓動が高まっていく。どう言うことなのだろう。混乱しているあいだに、【南町亭】の前まで着いてしまった。
「まあとりあえず食おうや」
ポンと俺の肩を叩いたあと、暖簾を手で押して城南は引き戸を開けた。
「いらっしゃいませ」
そう出迎えてくれたのは、シンジくんだった。
「連れてきたぜ」
城南が俺を親指で指差すとシンジくんは城南に向けて一礼する。
「ありがとうございます。城南さんのおかげで、スナオも喜びます。とりあえずご飯どうぞ」
予約席、と言う札が置いてある席に着く。わざわざこんなのまでするなんて…と思っていたらこの席は厨房が丸見えの席だったことを思い出した。
以前はこの席に座り、料理をしているスナオくんを見ていた。ハッとして顔を上げると厨房にはスナオくんの姿があった。ランチ時間はかなり混み合うので、黙々と料理をしている。こちらにはまだ気が付いていないようだ。
水が入ったコップを置きながら、シンジくんがポツリと言う。
「小畑さんが来られなくなってから、スナオが元気ないんです」
突然そう言われ、俺は慌てて反論しそうになったがまさか『スナオくんからも連絡なかった』なんて言えなくて口を閉じた。だけどその気遣いは不要だった。
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