混沌藍皿

柏木あきら

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1.プロローグ

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 エミリオが何歳の頃からそのプレートを気に入っていたのか、本人は覚えていないのでこれは彼の祖父であるヤムから聞いた話だ。

 三歳になったばかりのエミリオ・ヴァンニはヤムと一緒にシェメシュ・ヴァンニの家をよく訪れていた。
 シェメシュはヤムと十歳ほど歳の離れた弟だ。森に近い、湖畔の小さな家で一人暮らしをしていた。三十歳を過ぎていてもまだ独身でいたシェメシュに対し、二十歳で結婚をして子供を授かったヤム。彼にはすでに孫がいて、それがエミリオだ。
 エミリオの両親は彼が一歳の時、不幸にも夫婦で事故にあってしまい亡くなってしまったため、ヤムが引き取り育てている。深い青の大きな瞳が可愛らしいこの子供をシェメシュはいたく気に入っており、ヤムは頻繁にシェメシュの家へ連れて行ってはエミリオの遊び相手にさせていたのだ。

 そんなある日エミリオがリビングに飾ってあったプレートに気がついた。暖炉の上にあったのは深い海を思わすような紺碧にうっすらと緑がかった釉薬が散りばめられた楕円形のものだ。そのプレートを指を咥えてじっと見つめていたエミリオの背後からシェメシュは頭を撫でてやった。
『どうしたあのプレートが気になるのか』
『うん。きれい』
『はは。まだろくに言葉を覚えてないくせに、綺麗は覚えたのか。いいぞ、その言葉は大切だ』
 シェメシュが笑いながらそう言うと、椅子に座っていたヤムが立ち上がり、近づいてきた。
『この子は玩具より古物に興味があるようだ。指差しするものは驚いたことに本物ばかりでな。真贋の目があるのかもしれん。将来はお前みたいに古物を皆に売る商売を始めるかも知れないな』
 恐ろしいほど気が早いヤムの言葉に思わずシェメシュは大笑いし、二人に挟まれたエミリオはキョトンとした顔をしている。
 そんなエミリオにシェメシュは顔の近くまで腰を下ろしてこう言った。

『今渡したらお前はこれを割ってしまうだろうけど、もう少し大きくなってプレートを割らずに大切にできるようになったらこれをやるよ』

 その言葉にヤムは驚いたようにシェメシュの顔を見た。何故ならこのプレートはシェメシュがずっと大切にしていたし、彼にとってどれほど特別なものであるかを知っていたからだ。
 エミリオの無邪気な笑顔の横で神妙な顔をしながら自分を見つめる兄に気付き、シェメシュは口元を緩めた。
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