混沌藍皿

柏木あきら

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14.分断の日曜日

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「たったの三年? どうして」
「【分断の日曜日】を知っているかい」
「もちろん」
 【分断の日曜日】とは、二十八年前に起きた、このクエスト国にとって悲劇の一日を指す。
 そのころクエスト国周辺の国々で戦争が勃発し、ある寒い日の朝にトーヴは敵国に侵略され、支配されてしまった。一夜にしてトーヴは他の街から強制的に切り離され、解放されるまでの十八年間、行き来することができなくなったのだ。
 この日以来家族や友人に会うことが叶わず亡くなってしまったという悲しい話はエミリオも知っていた。

「私たちの窯はトーヴにあったんだ。たいてい窯の横の小屋で二人寝泊まりすることが多かったが、その日は前日に釉薬が足らないことにシェメシュが気づいて。ライラなら釉薬が売ってあるから今日は自宅に帰り、朝買ってから窯にくるからと夜、戻った。翌日シェメシュは窯に来るはずだったのに、その朝に【分断の日曜日】がおきてしまったんだ」
「……ということは、マイムさんとシェメシュ叔父さんは突然会えなくなったんですね」
「そうだ。普通に朝、顔が見れるはずのシェメシュに会えなくなった」
「……」
 窯を共同で出すくらい、そして寝泊まりを共にするほど仲の良かった二人が急に会えなくなってしまうなんて、とエミリオは当時の二人の心中を思い、やり切れなくなる。
「街が解放された後に、私はライラに住んでいたという情報を頼りにすぐシェメシュを探したよ。だけど見つからなかったんだ」
 エミリオが十三才の時にトーヴは解放され、人々が歓喜の涙を流していたのを記憶している。その中にマイムもいてライラまで来たのだろう。
 だけど、とエミリオはギュッと拳を強く握る。解放される前年にエミリオはそのプレートを受け取り、シェメシュは目を閉じて二度と開くことは無くなったのだ。

「それで、彼は元気なのか?」
 マイムの声にエミリオは体をこわばらせた。あと一年、解放が早ければ二人は会えたのかもしれないのに。【分断の日曜日】がなければ、美しいプレートをもっとたくさん二人で作っていたかもしれないのに。鼻がツンと痛み、一気にボロボロと涙が落ちる。
 エミリオの様子を見てマイムは全てを悟ったのだろう、少しばかり上を向き、涙を堪えるようにしていた。やがてエミリオの手を取ってこう言った。
「いいんだよ、シェメシュにわたしたプレートがこうして君のそばにあって大切にしてくれていた。それを知っただけでも奇跡だ」
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