混沌藍皿

柏木あきら

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16.自分の気持ち

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 しばらくして、教会からマーケット終了の鐘の音が聞こえた。プレートを入れた木箱を大事そうに抱え、マイムは何度もエミリオに頭を下げてくるので首を痛めてしまうよ! とエミリオは茶化しながらも、プレートがマイムのもとで長く一緒に過ごせることを願った。
 そして隣のアノンが浮かない顔をしていたのが気になりジッと顔を見ていると、アノンはエミリオの視線に気づき、優しく微笑んだ。それはエミリオが初めて見る顔で思わず息を呑んだ。
「ありがとう」
 それだけ言うと黒いコートを翻し、アノンはマイムと一緒に店を後にした。

 あれだけ散々追い回してきたくせに、そんなに短い言葉で終わるなんて、とエミリオは苦笑いすると同時に寂しさを覚えた。
 (もうこれであいつが来ることは無くなったんだな)
 視線を落とすと陳列棚に置いてある古めかしい本が目に入る。それは以前、アノンが気に入っていた冒険小説の続編だ。エミリオが彼のためにトトに取り寄せてもらったもの。きっと喜ぶかなと用意していたのだが、渡すことなく置かれたままになってしまった。

 初めは無礼で迷惑なやつだと思っていた。だが、追いかけられ、よく会うようになってからは黒いコートの姿を見ると口元が緩んでいた自分がいたことをエミリオはようやく今、素直に認める。
 (俺はあいつが来るのを待っていたんだ。会いたかったんだ)
 そしてなぜ会いたかったのか、その確信については認めたくもないがこの胸の痛みは自分を誤魔化す事ができない。
 アノンの姿勢の良い佇まいも、本を読んでいる姿も、少し低い声も。叔父のことを思う優しい心にも、きっと惹かれていた。そして最後に見た笑顔は彼に対して恋愛感情をもっていたのだとエミリオに自覚させるには充分すぎるものだった。

 小さな頃からアンティークに夢中だったエミリオは恋愛に関して無頓着で今まで恋というものに対して感心を寄せたことがない。可愛い女性がいても可愛いな、と思う程度。同性の恋愛についてはクエスト国が同性婚を認めていることもあり、周りにもそういうカップルがいたから男を好きになることに違和感はない。つまりエミリオにとってはこれが初恋なのだ。

(今更分かったところで、どうしようもない)

 エミリオは頭を振り、大きな背伸びをすると店の片付けに取り掛かった。明日は久しぶりの国営マーケットだから忙しくなるぞ、と自分に喝を入れながら。
 
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